[台本]つかまっててね
ふあ「間に合わないかもしれないでしょ!」
そう言うと、俺を自転二輪の後部座席に座らせた。
きくま「ふあさん!?」
ふあ「ここで行かなきゃ。変わらないでしょ。」
ふあさんがヘルメットを被せてくる。
きくま「でも、・・・ちょっと苦しい。」
サイズが少しきつかった。
ふあ「大丈夫だって。必ず間に合わせるから。」
ふあさんが、自動二輪にまたがる。ペダルを踏み込み、エンジンをかける。アクセルをふかす。
ふあ「さあ、飛ばすよ。しっかりと、つかまっててね。」
ギアを入れて、アクセルを回す。自動二輪が走り出そうとしていた。俺は、とっさに、ふあさんにつかまっていた。
自動二輪は走り出した。俺は、とにかく必死につかまっていた。そして心の中では、間に合ってくれと念じていた。
郵便局にたどり着く。
ふあ「早く!」
俺は、自動二輪を降りると、窓口へと急ぐ。
局員「いらしゃいませ。」
きくま「あの、これを、速達で!」
局員「かしこまりました。」
きくまが出した封筒。無事に差し出すことができた。
きくまは、ふあさんの待つ駐輪場へ。
ふあ「きくま?大丈夫だった?」
きくま「はい。ぎりぎり間に合いました。」
ふあ「よかったあ。ねっ、言ったとおりでしょ。間に合わせるって。」
きくま「はい・・・ありがとうございました。」
それが、オーディションの書類審査の思い出。あのとき、ふあさんが俺を運んでくれていなかったら、夢を追いかけることができなくなるところでした。
結果は、書類審査合格。次は、面接でした。
面接当日。俺はまたしても、大変な事態になりました。
会場に向かう途中で、自転車がパンクしてしまった。
きくま「どうするか・・・。」
自転車を公園の駐輪場において、走り出した。
きくま「間に合わない・・・かな。」
そう思って、気持ちが落ち込みそうになったとき、
ふあ「きくま君?どうして走っているの?今日面接オーディションだよね。」
きくま「自転車パンクしてしまった。」
ふあ「ええっ!場所どこ?」
きくまはスマホの地図を見せる。
ふあ「少し遠いね。」
きくま「間に合わない・・・。」
ふあ「間に合わせるよ!」
きくまの言葉を遮って、ふあが言う。
先日の時と同じように。きくまは後部座席に座ってしまっていた。
ふあがヘルメットを渡す。
先日のヘルメットと違って、サイズがぴったりだった。
ふあ「さあ、それじゃあ行くよ。しっかりつかまっててね。」
きくま「はい!」
2回目ということもあり、スムーズに発進した。
頭の中では、オーディションの緊張よりも間に合ってくれという気持ちがいっぱいだった。
ふあ「着いた!行って!頑張って!」
きくま「はい!ありがとうございました。行ってきます!」
そうしてたどり着いたオーディション。順番がすぐに回ってきて、心の準備ができないままに面接へ。
しかし、いろいろと考えてなかったために、ストレートな答えが響いて、面接オーディションも受かった。
そうして、オーディションを順調にクリアしていき、合格!デビューへの道が進み始めた。
大事な局面をむかえて、困っているときに、いつも助けてくれる人がいてくれる。ありがたいこと。でも実際に思うのは・・・しっかりと準備して、遅れずに向かうこと。
だったはずなのに、また同じピンチを迎えてしまっていた。
デビューイベントに向かっていたところ、渋滞に巻き込まれて身動きがとれなくなった。間に合わせるためにも、車から降りて走って向かう。走りながら思い出す。こうして、ピンチのときに助けてもらったことがあったなあと。
ふあ「きくまくん!どうしたの?」
きくま「そうそう。こんな感じで声をかけられ・・ふあさん!?」
ふあ「今日、デビューイベント・・・まさか。」
きくま「お願いします!乗せてください!」
ふあ「ええ、まかせて!」
そう言うと、ヘルメットを受け取り、後部座席へ。
ふあ「あわてずに飛ばすわ。しっかりと、つかまっててね。」
きくま「はい。しっかりとつかまってます。」
3回目ともなると、もはや息の合ったコンビ。
ふあさんにつかまる手に力が入る。
きくま「いよいよだ。」
バイクは順調に進んでいく。
こうしてふあさんのバイクの後部座席にまたがって、走っていると、これまでのことが思い出される。いつも、いつも助けてくれたふあさん。感謝という言葉では足りないくらいだ。
そして目的地へとたどり着く。
バイクを降りて、ヘルメットをぬぐ。
きくま「ふあさん、ありがとう。」
ふあ「その感謝の気持ち、ステージで表現しておいで。いよいよだから。」
きくま「はい!」
ふあ「デビューおめでとう。」
そう言うと・・・
ふあさんは、しっかりと抱きしめてくれた。
それら全てが、心にメラメラと燃え上がるものとなり、力がみなぎってきた。
きくま「ここまでたくさんのチャンスをつかんできました。全部、ふあさんにつかまって先へ進めたからつかむことができたんです。本当にありがとうございます。」
ふあさんとじっと見つめ合う。
ふあ「行ってこい!」
きくま「はい!」
俺は、会場へと入っていく。
準備を済ませて、いよいよ本番。
この会場のどこかに、ふあさんも見てくれている。
そう思うと、感謝の気持ちがあふれてくる。
先ほど、ふあさんに言われたとおり、このステージで感謝を現すんだ。
ステージの幕が上がる。
きくま
「♪
きみとなら きっと つかめる その手に 希望
ヘルメットのサイズは合わないけど
君のバイクの後部座席 希望に向かって走り出した
ピンチなんてなんのその 希望は待ってるわけじゃない
走って追いつく そのスピード 光のさらに向こうへ
届かない 追いつかない つかめない
そんな”ない”に支配されていた俺に 君は言った
「その”ない”の中に、あきらめないがあるんでしょ!」
そのとおりだった どんなに”ない”があったとしても
「あきらめない」
その想いあれば 一歩前に 一歩づつ先へ
そう思ったとき すでに希望は 手の中にあった
追いつかないとつかめないと思っていたけど
それはいつも手の中にあって
そして気付いてくれるのを待っている 希望
あきらめないと心に思ったとき 希望は手の中
そして 未来へ 先へ 歩んでいく
合わないヘルメットのベルトを締めて
大切な人の後部座席で
♪」