モノクロの世界に
※「モノクロの世界で( https://ncode.syosetu.com/n6049ic/)」のアナザーストーリーです。
先に上記の作品を読了することをお勧めします。
「あーあ、また落ちたか」
現在、真っ白なキャンバスを持っている成瀬凍夜。キャンバスには何にも描かれていないから、全く面白くない。
今日も講義が終わって、人が少なくなった室内で頭を抱えている。
そんな彼に、とっておきのプレゼントを持ってきた。
「おっ、困ってんね~」
適当に声をかけてみると、彼はネコのように首を引っ込めようとした。手にはグチャグチャになった封筒と綺麗な紙が握られている。自分の大切な時間を奪われた、と言わんばかりの顔で睨みつける。
まあ、私に反応してるんだから、このまま巻き込んでいけば、上手く丸め込めるだろう。さあ、巻き込むぞ。
「ねえねえ、これ行かない?」
私は『シンデレラ』に出てくる魔女みたいに、チケットをひらひらと見せると、顔は怖いが、興味はあるようでチケットを受け取ってくれた。
「えっと、『モノクロの世界で』って何だこれ。真っ黒な紙切れに白い文字って……コレ、大丈夫か?」
大丈夫だよ、と言いたいところだけど……ここで詳細を言うと、先入観が入ってしまう。ここは情報は何も与えず、なおかつゴリ押しで、一緒に行くように約束を取り付けるようにしよう。
凍夜は上目遣いに弱いことを知っている。以前、ファッション誌で紹介されていたバッグも、ショーウィンドで一目惚れしたコーデも、ぜ~んぶ買ってくれたからね。
「うん。ほら、行こうよ」
凍夜の隣の椅子に座って、また上目遣いしてみる。私の目をじっと見て、じっくり考えていた。
「はいはい、行くよ」
やっぱりオチた。
「んー、まあ、おしゃれはしたいよね。一応、凍夜だって男子だしね」
毛先をゆる~く巻いて、おしゃれして、完成っと。待ち合わせの駅前の広場に行くと、凍夜が立っていた。露出多めの明るい髪色の子に絡まれている。どうしたらいいのか分からなくて、何を言おうか考えているようだ。
「お、おはよー」
私が近づくと、凍夜は軽く手を振る。
「ん? この子、友達?」
「え、いや……」
「あ、すみません! ちょっと道を聞いてただけなんです。教えてくれてありがとーございましたー!」
そう言って、女の子は足早に去っていった。
「感謝しなよー?」
「ああ、うん。どうも」
「ほら、行こう」
会場に連れて行って、チケットを見せる。可愛い顔のスタッフの人が担当してくれるらしい。この人、顔はかわいいけど、ネクタイはズレてるし、髪もおさげにしてるけど左右で高さが少し違うから、きっと大雑把な人なんだろうな。
そして、この人は、私たちを白い部屋に連れて行ってくれた。
ゴーグルをつけた後、私は体験内容を知っていたから思うがままに色を付けた。分かりやすく言うなら、ピカソみたいな『子供っぽい塗り方』をした。
ゴーグルを外すと、スタッフの人がゴーグルを回収してくれた。そして、チラッと凍夜を見る。昨日は曇っていた表情が、今は晴れやかな表情になっている。
「好きなもの、好きなこと、好きな言葉。『好き』の全て。色を付けるのはあなた」
最後まで読んでくださりありがとうございます。




