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第235話 『怒りの警備長』

 公国の首都はものものしい雰囲気ふんいきに包まれていた。

 父親であるビンガム将軍に呼び出された三男のダスティンは苦渋くじゅうの表情で平伏へいふくする他なかった。


「ダスティン。まずい状況だ。何とかせねばならぬ」

「はっ。父上。必ずや犯人を捕らえて見せます。今しばらくのご猶予ゆうよを」

悠長ゆうちょうなことを言っている場合ではないぞ。このままでは例の話もままならなくなる。早急に対処せよ」


 父の言葉にダスティンは苦々しくうなづき、その場を後にした。

 ここ最近、公国の治安を揺るがす事件が頻発ひんぱつしている。

 ダスティンは怒りの形相ぎょうそうで自身の庁舎へと戻っていった。


☆☆☆☆☆


「どうなっている! なぜサッサと犯人の尻尾しっぽつかめない!」


 公国首都の警備長ダスティンは苛立いらだちのまま周囲の部下を怒鳴どなり散らすと、自らが陣頭指揮に当たることを決めて夜の街へ踏み出した。

 公国首都で立て続けに5件起きた連続殺人事件の犯人を捕まえることが出来ず、ビンガム将軍の三男坊ダスティンはあせっていた。


(何というタイミングだ。くそっ)


 公国首都で5日連続となる殺人事件が起きた。

 被害者はいずれも男性であり全員、喉笛のどぶえを食いちぎられて無惨に殺されていたのだ。

 まるでけもの仕業しわざに思われたが、襲われた被害者の遺体のそばから人影が逃げていくのを目撃したという情報が寄せられていた。


 殺された5人のうち、最初の1人目と2人目は取るに足らない街のゴロツキだった。

 しかし3人目以降はいずれも都庁に務める官吏かんりだ。

 これを解決できない警備隊とその長であるダスティンに対し、関係各所のお偉方えらがたからは批判の声が高まっていた。

 治安を不安視する街の住民の間にも不満がたまりつつある。


「今夜も6件目の殺人が起きる危険性は高い。警備隊の威信いしんにかけて何としても事前に犯人を捕まえろ!」


 警備隊の部下を総動員して街を網羅もうらさせるべく指示を出したダスティンは、おのれの運の無さをのろった。

 ビンガム将軍の息子たちの中で、三男のダスティンはもっとも不遇ふぐうだと言われている。

 兄2人は軍の要職についており、死んだ弟である四男ディックは武芸達者だったため、大公の護衛に取り立てられる寸前だった。

 さらには落としであるカーディスやトバイアスまでもが活躍を見せる中、ダスティンだけが街の警備という凡職ぼんしょくに甘んじていた。


 そのことが彼のほこりをひどく傷付けていたのだ。

 だが、ダスティンは父であるビンガムに直訴じきそし、今の警備長の任期を無事終えたら、軍の要職に取り立ててもらう栄転の算段をつけたのだ。

 その任期満了まであと2ヶ月。

 だというのにこのような事件が起きてしまった。


 殺人を止められなければ警備隊の失態であり、その長である彼の責任が問われるのは間違いない。

 そうなれば栄転の話も立ち消えになる。

 そんな時期に街で連続殺人などあってはならない。


 犯人を見つけ次第、その全身の皮をいでやりたいと憎悪の念をつのらせながら、ダスティンは血眼ちまなこになって犯人を探し続けた。

 だが、奮闘むなしく殺人は今夜も起きてしまったのだ。

 しかも彼の目の前で。


 そこは街の中心からやや外れた風俗街だった。

 若く美しい男たちが集う男娼だんしょうの館がいくつもある一角だ。

 貴族のご婦人がお忍びで訪れたり、男色の男らが美少年を目当てにうろつくその場所で事件は起きた。

 殺されたのは実業家としても男色家としても著名な貴族だった。


 その貴族の男性が館の裏口から出てきたところを何者かによって暗がりに引きずり込まれるのを見たダスティンは、目の前での凶行に怒り心頭となった。

 そして部下たちより先んじて、すでに事切れている貴族のむくろを飛び越えて犯人を追ったのだ。

 彼とて日頃の訓練は欠かしていない。

 体力には自信のある彼は部下たちを引き離して走り続けた。

 だが、それがあだとなったのだ。


 追いかけ続けるうちに路地裏に入ったダスティンは、予期せぬ事態に見舞われた。

 足元の人孔マンホールふたが開いていたことに気付かず、ダスティンはそこから足を踏み外して地下水路に落下した。

 後ろから追ってきていた部下たちは、不運にも突然消えた彼の姿を見失ったのだった。

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