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第203話 『謝罪』

「百体一裁判の結果とはいえ、貴殿には大変申し訳ないことをした。死んだドリスとカミラも含めて十刃会は全会一致でボルド殿にお詫びする」


 そう言って十刃長のユーフェミアを初めとする十刃会の面々はそろってボルドに深々と頭を下げた。

 本家の宿営地に戻った日から数日後、ユーフェミアらはボルドに対して正式な謝罪の場を設けた。

 そこはブリジットの玉座が置かれた執務しつむ用の天幕の下だ。


 情夫ボルドに姦通かんつう罪の疑いをかけ、処刑を決めた彼女たちだったが、結果としてボルドは無実だった。

 それは分家の女王クローディアが自らの署名付きで証明している。

 そしてこの場にはブリジットも立ち会っており、玉座に腰を掛けたまま面白そうにユーフェミアらに目を向けていた。


「どうする? ボルド。許すか? 何ならほほの一つでも張り飛ばしてやってもいいぞ」

「そ、そんな……」


 ボルドは恐縮して首を横に振ると、ユーフェミアらにおずおずと声をかける。


「あの、皆さん。謝罪は確かにお受けしました。あの時は悲しかったですが、皆さんにつぐないをしてほしいという気持ちはありません。どうぞ顔を上げて下さい」


 ボルドの言葉に十刃会の面々が顔を上げる。


「それでは我らの気が済まぬ。ブリジットのおっしゃる通り、全員のほほでも張り飛ばしてもらったほうがよほどありがたい」


 ユーフェミアがめずらしく悄然しょうぜんとしているその様子が、ブリジットにはおかしくてたまらなかった。

 ボルドの一件をめぐって彼女とは険悪になった時期もあったが、ユーフェミアが誰よりも真剣に一族の安寧あんねいを願って行動していることはブリジットも分かっている。

 ボルドが生きていたこともあり、今ではユーフェミアへの憎しみは胸の奥底で消化されようとしていた。

 ボルドは困ってブリジットに目を向けるが、彼女は好きにしていいとばかりに何も言わずに笑みを浮かべるだけだ。

 仕方なくボルドは少し間を置いてから言った。


「で、では……おび代わりとして、色々とご協力いただけないでしょうか」

「協力……とは?」


 困惑するユーフェミアらにボルドは言った。

 自分はブリジットの情夫として至らぬ点が多い。

 十刃会の面々の知識と経験で自分を教育してほしい。

 そうした教授の時間をいてもらいたいと願い出たのだ。

 その話にユーフェミアを初めとする十刃会の者たちのボルドを見る目が変わった。


「それは……こちらとしては構わない……いや、むしろ貴殿がよりブリジットの情夫としてふさわしくあるべく研鑽けんさんを積むと言うなら、こちらから教授役を買って出たいところだ」


 そう言うユーフェミアにボルドはホッと安堵あんどした。

 レジーナと共に過ごした日々で、彼は知識を得ることの楽しさと尊さを知った。

 知識はボルド自身を助け、ボルドが守りたい相手も救う。

 それがブリジットの役に立つのであれば、ボルドはより自分をみがきたいと思うのだ。

 外見だけでなく内面を。

 その話にブリジットはおどろきとあきれを半分にしたような笑みを浮かべる。


「まったくマジメくさった奴だ。ボルド。あまり頭でっかちになるなよ。ユーフェミアみたいになられても困る」


 その言葉にジロリと視線を向けてくるユーフェミアを無視して、ブリジットはパンと手を一度叩いた。


「ともあれ、これで手打ちだ。おまえたちは皆、仲間でありアタシの大事な部下だ。互いに手を取り合い、助け合ってこそアタシや一族のためになる。それを忘れるな」


 そう言うとブリジットは満面の笑みを浮かべて最後に付け加えた。


「ボルドも立派なダニアの一員だな」


 その時だった。

 天幕の外から声がかかった。


「お取り込み中に失礼いたします。公国軍の使者が参りました。警告文書を手渡したいとのことです。いかがいたしましょうか」


 警告文書。

 その不穏な響きにその場のなごやかな雰囲気ふんいきは吹き飛んだ。


☆☆☆☆☆☆


 公国首都。

 アメーリアは1人、トバイアスの館で出立の準備を行っていた。

 館の主であるトバイアスは出かけていて不在だ。


 おそらく自分が出発するまでには彼は戻らないだろうとアメーリアは残念に思い、かがみに映るおのれの顔を見ながらため息をついた。

 あの宴会場での作戦失敗以降、トバイアスはアメーリアを以前のようにかわいがらなくなった。

 アメーリアは胸の苦しさと同時に頭痛を覚える。


(アーシュラ。厄介やっかいな子ね)


 あの夜、分家のクローディアを倒すべく武器を振るったアメーリアは急な頭痛に襲われた。

 それは思考もままならなくさせるほどの激痛だった。

 あの場にいたアーシュラの仕業しわざだということはすぐに分かった。

 アメーリアのめいであるアーシュラは赤毛だが、その母親であるアビゲイルは黒髪術者ダークネスだった。

 不思議ふしぎな力を持つ黒髪の一族だ。


 アーシュラはその力を受け継いでいる。

 おそらく母親よりも強い力を。

 黒髪術者ダークネス同士はそうした力で通じ合うことが出来る。

 あの時のアーシュラの小細工こざいくはその力を逆手に取ったものであり、同じ黒髪術者ダークネスの自分を苦しめるのにうってつけだったのだろうとアメーリアは顔をしかめた。


 ブリジットやクローディアとの戦いの場にアーシュラがいると厄介やっかいだった。

 それでもアメーリアはかがみに映る自分の顔を見つめながら静かに笑みを浮かべる。


「二度同じ手は通じないわよ。アーシュラ」


 そう言うとアメーリアは鏡台きょうだい椅子いすから立ち上がり、主のいない寝室のベッドに向かってさびしげに微笑ほほえんだ。


「行ってまいります。トバイアス様。作戦に失敗して申し訳ありませんでした。必ず貴方あなた様にふさわしい女になって戻ってまいりますね」

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