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第227話 『統一ダニアの旗』

 ロダン北門の警備兵たちは突然、門が破壊されて混乱におちいった。

 彼女たちが1キロほど先の南門の方角から聞こえてくる喧騒けんそうに耳をそばだてていた時、突如として空から飛んできた巨大な矢が、門を突き破ったのだ。

 予想しなかったその状況に誰もが動けずにいたところ、革鎧かわよろいに赤布をいつけた赤毛の騎馬兵たちが、破れた北門から突入してきた。


「敵襲ぅぅぅぅぅ!」


 その声が響き渡る中、突入部隊の先陣を切るベラは馬を駆りながら鋭く槍を突き出して前方の敵の首を刺し貫く。

 そのすぐ後ろから現れた大柄なソニアは両手(おの)を軽々と片手で振るい、敵兵の首を狩り取った。


「行くぞオラァ!」


 ベラは馬の速度をゆるめることなく、ロダンの路地を駆け抜ける。

 彼女の頭の中にはロダンの地図がしっかりと記憶されていた。

 向かう先はもうすでに決まっている。

 南門を攻めているブリジットらが敵兵力の削減を目的としている一方、北門を攻めるベラたち別働隊の目的はその目的地への到達だった。


「チッ! 南ダニアの連中……アタシらのはたで好き勝手やりやがって」


 街のあちこちにダニア本家のはたが立てられているのを見て、ベラは苛立いらだちを吐き捨てる。

 南ダニアの勝手な所業につのる怒りを叩きつけるように、ベラは槍で敵兵を串刺しにした。

 そんな彼女の背には、槍とは別の長い棒がななめにくくり付けられている。 

 棒に厚手の布が巻かれたそれは、はただった。


 それを背負っているのはベラだけではない。

 ソニアや他の兵士たちも同じようにはたを背負っている。


 ダニア本家と分家のはたにはそれぞれ特徴的な動物の意匠いしょうほどこされている。 

 本家のはたは燃え盛る赤い炎のタテガミを持つ赤炎の獅子しし

 分家のはたは同じく燃え盛る青い炎の翼を持つ青炎のわし

 だが、今ベラが背負っているそれは本家のそれでも分家のそれでもない、全く新しいはただった。


「中央広場まであと5分ほどだ!」


 そう言って街中を駆け抜けながら、ベラは事前に聞いていた情報と街の様子が一致していることを感じていた。

 街には敵兵の姿だけではなく、逃げ遅れた一般市民が残されていた。

 ロダンがまだ南ダニア軍に占領される前、一定数の若い男女は逃げることが許されず街に残ることをいられていた。

 ダニア防衛軍に衣食住を供与するための補佐役としてだ。


 そんな市民たちはダニア防衛軍が全滅した後は、今度は占領軍である南ダニアの女たちのために衣食住を提供させられる奴隷どれいのような扱いを受けていた。

 若い女は調理や給仕に使われ、若い男はもっぱら女たちのとぎの相手をさせられている。

 近隣の街に避難しているロダンの老人や子供たちは街に息子や娘、親たちを残して来たことをなげいていた。

 それを聞いたブリジットは街に残された彼らに自分たちの所業や新たなはたを見せつけるよう、ベラたちに命じたのだ。


「北門が解放された! 逃げたい者はそこから逃げよ!」


 本家の女たちは馬で路地を走りながら、市民たちに向けてそう喧伝けんでんする。

 街に残された市民たちは若者が中心となっており、まだ逃げ出せる元気のある者たちばかりだった。

 彼らがはじかれたように走り出すのを見送りながら、指揮官のベラは仲間たちに命じる。


「おまえら! 新旗しんきを見せつけろ!」


 ベラの声に応じて味方の女戦士のうち、はたかかげる役目を持った者たちが背中に背負っているはたを高々とかかげて広げた。

 そのはたを見て敵の女兵士らは困惑の表情を浮かべ、市民たちははたに描かれた模様に見入った。

 それは赤く燃える炎のタテガミの獅子ししだったが、背中に青く燃えるわしの翼が生えていて、4本の脚の先はわしの鋭い鉤爪かぎづめが描かれている。


 本家の獅子ししと分家のわしの特徴を組み合わせた、現実にはいない想像上の生き物だ。

 それは統一ダニアのはただった。

 クローディアが本家との将来を見据みすえて、新都で秘密裏ひみつりに作らせていたはただ。

 ベラは背後を振り返ってそれを見つめ、自分が背負っている同じはたを握る。


(このはたを中央広場に打ち立てる!)


 今、ロダンの街の中央広場には南ダニア軍によって打ち立てられた本家のはたひるがえっている。

 その偽りのはたを引きずり降ろし、統一ダニアのはたを打ち立てる。

 それが別働隊に命じられた任務だった。


 だが、いよいよ中央広場に差し掛かったその時、先頭のベラは思わず馬の手綱たづなを引いた。

 馬が大きくいななき、前脚を上げて急停止する。

 後方から続いてきたソニアらも同様に立ち止まった。

 そんな彼女たちの前では、中央広場に設けられている舞台の上でひるがえる本家のはたを背にして、隊列を組んだ女兵士の部隊が待ち受けている。

 その先頭に立つ女が威圧いあつ感のある視線をベラたちに向けた。


「ここから先は通さん」


 そう言ってベラたちの前に立ちはだかったのは、大柄なダニアの女たちの中でもさらに一際大きな背丈を持つ赤毛の女だった。

 一目見て只者ただものではないと悟ったベラは馬から降り、背中のはたを近くの仲間に渡した。

 ソニアも同様にしてそのとなりに降り立つ。


「てめえがここの大将か?」 

「いかにも。アメーリア様から将軍の位を授かっているグラディスだ」

「ハッ。将軍ねぇ。御大層な身分だな。人のはたを好き勝手に振り回すのが将軍様のお仕事か?」


 そう言うとベラは槍を構える。

 その肩にソニアが手を置いた。


「あいつはアタシにやらせな」


 そう言うとソニアはベラの前に出て両手(おの)を構える。

 グラディスという女は、本家で最も高身長かつ大柄なソニアよりもさらに大きく見える。

 ソニアが敵と戦う際に好んで大柄な相手を選ぶことを知っているベラは、フッと笑みをらした。


「あの女。おまえよりデカいぞ。負けそうになったら加勢してやるよ」

「不要だ」


 いつも通りムスッとした顔でそう言うと、ソニアは前に歩み出てグラディスに手招きをする。

 それを見たグラディスもニヤリと笑った。


「一騎打ちか。面白い。だが後悔するぞ。私はこの世に生きる赤毛の女の中で最も強いという自負がある」


 そう言うとグラディスはその背に背負った大剣を抜き放った。

 刀身が幅広で長く、馬でも一刀両断できそうな巨大な剣だった。

 巨躯きょくを誇る2人の女が対峙たいじし、ダニアの女同士の一騎打ちが始まろうとしていた。

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