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第224話 『突入!』

「門を破壊せよ!」


 ブリジットの声が高らかに響き渡る。

 ロダンの南門は硬いかしの木と鉄のわく組みで作られた頑強な門だが、修理途中とあって所々にほころびが生じていた。

 本家の中でも特に腕力自慢の者たちで編成された門扉もんぴ破壊の部隊は、大きな木槌きづちを振り下ろして門を破壊していく。

 敵は門の上の外壁通路から矢を射掛けて木槌きづち隊を排除しようとするが、前もって大楯おおたてを持っている部隊が木槌きづち隊の頭上を守るべく駆けつけて、大楯おおだてを頭上にかかげた。


 放たれた矢や投石はこれにはばまれる。

 だが敵も抜かりはない。

 今度はあらかじめ用意していた、熱した油と思しき大鍋おおなべを持った敵兵が現れた。

 城壁を守る常套じょうとう手段だ。


「油だ!」


 ブリジットはそう叫ぶと矢を放って門の上でなべを運ぶ女兵士を射殺した。

 その兵士はなべを持ったまま倒れ、弾みでなべが宙を舞う。

 そしてすぐ近くの敵兵があわれにも高温の油をかぶった。


「ぎゃああああっ!」


 油を浴びた敵の女兵士はもだえ苦しみながら、よろけて壁から落ちていく。

 だが、油のなべはいくつも用意されていて、門の上の通路を通って別の兵が続々となべを運んできた。

 本家の弓兵はその敵兵をねらって矢を放つが、敵兵もたてでそれを防いでなべを持つ女兵士を守る。


「チッ!」


 ブリジットはすぐに弓を投げ捨てると、近くにいる槍兵に目配せをして槍を借り受けた。

 そして大きく助走をつけてから、その槍を壁に向かって思い切り投げつけた。

 その槍は石造りの壁に深く突き立つ。

 ブリジットは壁に向かって猛然と駆け寄ると大きく飛び上がり、壁に突き立った槍を足場にして4メートルほどの壁の上までさらに飛び上がった。


 以前にクルヌイとりでで見せた超人的な壁越えだ。

 そんな方法で壁を越えてくるとは思っていなかった敵の女たちが呆然ぼうぜんとしているのを尻目しりめに、ブリジットはすばやく剣を抜き放つと、近くにいる敵兵を次々と斬り伏せる。

 そして油のなべを持つ女兵士に向かって突進した。

 邪魔する敵は容赦ようしゃなく剣で首をね、蹴り飛ばして壁の下へ突き落とす。

 たった1人で十数人をあっという間に排除してしまうと、ブリジットはなべを持つ女兵士に襲いかかった。


「ち、ちくしょう!」


 なべを持った女兵士は半ばヤケクソになりながら、なべの油をブリジットに向かってブチまけた。

 だがブリジットはそれよりも速く大きく跳躍ちょうやくして女の頭を飛び越えてその背後に着地すると、背中に当て身を浴びせて女を前方に転倒させる。

 女は自分でブチまけた高熱の油が通路の床にたまっているところに突っ伏して、のたうち回った。


「熱ちぃぃぃぃっ!」


 それからブリジットはすぐさま前方の敵を2人3人と斬り捨てるが、遅かった。

 なべを持った2人の敵兵が門の下に向けて油を注ぎ落としたのだ。

 

「くっ!」


 思わずブリジットは壁の下に目を向ける。

 門の破壊を進める木槌きづち隊を守るため大楯おおたて隊が隙間すきまなくたてかかげているが、液体である油はそのわずかな隙間すきまから入り込んで彼女たちを苦しめた。


「ぐおっ!」

「うううっ!」


 高熱の油を体の各所に浴びて火傷やけどを負いながら、それでも彼女たちは作業の手を止めない。

 自分たちがこの作戦のきもだと心得ているのだ。

 ダニアの女は心臓を貫かれても、その鼓動こどうが止まる最後の瞬間まで敵を倒すべく動き続けろと教え込まれているのだ。

 そんな彼女たちの執念しゅうねんが実り、ついに門が大きな音を立ててくずれ落ちる。

 左右両開きの門の片方が完全に外れて、街の内側に倒れるのを見たブリジットは声を張り上げた。


「門が開いたぞ! 皆で押し込め! 突入!」


 その声にはじかれたように本家の女たちが動く。

 まるで赤い波のようになって一気に南門へと押し寄せた。

 南門近くに群がっている敵兵はこれを押し返せず、飲み込まれてつぶされていく。

 外壁通路からその様子を見下ろしながら、ブリジットは冷静に戦局を分析した。


 味方の兵力のうち、数十人ほどがすでに戦死あるいは戦闘不能におちいっている。

 ここまでの戦局を考えれば、決して多くはない被害だ。

 逆に敵軍はすでに100名近い戦死者を出していると見ていい。

 上々だった。

 だが今回の作戦はあくまでも一撃離脱だ。

 敵の兵力をけずることが主題だ。


「さあ来い。貴様ら。敵の大将首はここだぞ。手柄てがらを上げたい者からかかって来るがいい」


 周囲の敵兵に向けてそう言うと、ブリジットは門の通路の上を走り出した。

 南側の通路の上にはまだ数十人の敵の女兵士らがいたが、それを全部自分1人で一掃するつもりで剣を振るう。

 敵の女兵士たちは仲間が斬られても勇猛果敢ゆうもうかかんに向かって来た。

 そんな敵の姿を見ながらブリジットは体内の血がたぎるのを感じていた。

 

(やはり出自は違っても同じダニアの血が流れているというわけか。惜しいな)


 これだけの兵力をたがいにけずり合わなければならないことが惜しかった。

 だが、それでも容赦ようしゃはしない。

 強者に果敢かかんに挑んで死ぬのならば、それもまた本望と思うのがダニアの女だ。


「敵ながら天晴あっぱれだ! 誇りを胸に天の兵士となるがいい!」


 その言葉に敵はますますふるい立つ。

 勇ましく戦って死んだ者は天の兵士となって栄光の道を歩み続ける。

 それがダニアの女が幼き頃から教え込まれる教訓だった。


 生まれた場所は違えど、彼女たちにも同じ風習があるのだとブリジットは感じた。

 敵の女兵士たちは何かにとりかれたようにうなり声を上げてブリジットに向かってくる。

 ダニアの女の性分を逆手にとってあおるというこのブリジットの策は功を奏し、通路の上の敵は門をくぐる本家の女たちに目もくれず、ブリジットに向かっていく。

 これはブリジットにとって好都合だった。

 

 力量差があり圧倒的にこちらが上の場合、逃げる敵を追って倒すよりも、向かって来る敵を倒す方が効率的だからだ。

 ブリジットは敵を倒しながら外壁通路の上から見える街の景色を見た。

 街の中になだれ込んで行く自軍の女戦士たちは、街の奥へと進むよりも、近くにいる敵を倒すことだけに集中している。

 作戦通りだった。


(ベラ、ソニア。そっちは頼んだぞ)


 5人の敵を一気に蹴散らすと、ブリジットは大きく息をつき、街の北側をチラリと見やった。

 彼女の人並み外れた視力を持つ目は確かにとらえていた。

 ロダン北門に向かう少数精鋭の騎馬兵の軍団を。

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