SS 冬休み
ーコトンって音が春馬くんの部屋からきこえて、野菜炒めをしようと野菜を用意していた私は手をとめて、ついそっちに目をやる。
大きな音じゃないし、春馬くんの声がしなかった。いつもなら、うげっ?とかつぶやいてるはず?
「どうかしたの?春馬くー」
ん、といいかけて、私は声をとめた。床に座って、ベッドにもたれたまま、うとうとしてる春馬くんがいた。
床にルービックキューブが落ちてる。机にはウッドパズルと説明書。
悩んだのかな?
たまに疲れたら、ルービックキューブで疲れをとる、って私にはよくわからない気分転換をしてる。
真央にきいたら、
ー頭と手の動きを整理するためだよ?脳の多動と刺激を、視覚より手が動くルービックキューブで、整理するんだよ?
暴走しないためのブレーキだよ?
ってよくわからない答えがきて、イケメン先輩と私は肩をすくめた。
真央は、どうしてそんな質問するのか、よくわからないって顔をしたけど。
ーたぶん、私だけじゃなくて、わからないよ?
って私は思う。不思議なパズル遊び?ルービックキューブでの休憩は、私が14歳になる冬休みもふたりはやってたなあ?
夏休みに東京の学校に転校して、冬休みを利用して帰省したとき、まだ中学生だし、新人だったし、研修生みたいにレッスンうけながら、雑誌のモデルが決まったのかなあ?
よくわからないまま、お仕事はじめた時、まだ慣れなかったけど、寮では末っ子で、先輩たちや寮母さんが優しくて、心配してくれて、春馬くんもあの頃は毎日連絡してくれてたね?
「はじめて春馬くんに直接、明日菜って呼ばれて恥ずかしかったんだよ?」
なのに、春馬くんは通常運転で、
ー真央とルービックキューブ対決に夢中で、つい口にした、って呼び方だった。
「そりゃあ、毎晩、スマホ越しに顔を見ながら呼ばれてたよ?」
だけど、スマホの音声越しじゃない春馬くんから、名前を呼ばれることに、ちょっとだけ、楽しみにしてたし、レッスンや撮影で、自分の可愛い目線とか?そういうのも覚えたし?
スマホでやったところで、春馬くんはノーリアクションだし?そもそもスマホから、春馬くんがいなくなってる時もあるし?
ずーっと泣いてたから、途中でトイレとかは、さすがにスマホを春馬くんは置いて行った。
だって、トイレのおときいても?
私だってきかれたくないし?
「…でも、泣いてる私を放って、ルービックキューブはしなかったよね?」
ふさけたような、からかうような、あいうえお作文でごまかしながら、いつだって、
ー明日菜?
って茶色がかった瞳が優しい眼差しでそうよんでくれた。
明日菜っていい名前だよなあ?あしたば、みたい。
明日もまた生えて、天ぷらがうまい!
…ラッシーが食べるから、野草調べた、って言ってたけど。私を野草に例えるの?春馬くんくらいだと思うけど。
というか明日菜っていい名前だよなあ?
ってしみじみ言うけど、そういえばあの名前の理由も…。
「ちゃんと、私も一緒に考えるからね?」
つい私はお腹に手をあてる。もちろん春馬くんがふざけてつけるわけないし、わりとみんなバースデーハイテンション?とにかく興奮してる時期だろから、親自身が、
ーあっ、まずい?
は、あとから、あるってしみじみ言う人もいるし。
たくさん名前を考えすぎて、調べまくり、よくわからなくなって、
…めちゃくちゃ命名って悩んでたような?ただ春馬くんの場合、
午年の春に生まれたらしい。お義兄さんもわかりやすい辰年生まれ。
まあ、わかりやすく覚えやすいし?真央の場合は、左右対称がお父さんのこだわり?
だったような?
とりあえず名前かあ?って思いながら、私は春馬くんの肩に、うすい小さなブランケットをかける。
「…ん?明日菜?」
って声がして、
「あれ?起こしちゃった?」
って春馬くんを見たら、
「ールービックキューブは、柴原より俺だよな?」
「どこまで真央なの⁈」
つい口調がキツくなったら、
「だって、明日菜がいないじゃん。ルービックキューブしてないと、明日菜を考えちゃうぞ?」
って、つぶやくようにすねた声がした。
「ーさびしいって言わせて、ごめんな」
だけど、守りたかった。
そうつぶやくような声に、
「大丈夫だよ?春馬くん。私はもう春馬くんのそばにいるよ?」
なんど、手を離しても、必ずまたつなぎにくるから。
あなたが旅立つまで、私が旅立つまで、
ーずーっとみてるよ?
春馬くんや真央が私を守ってくれるために、ルービックキューブで罪悪感を埋めてたのかなあ?
泣きじゃくってた私の姿をふたりは見ててくれたんだ。
「明日菜が泣くのが怖かった」
そういつか真央が言ってたなあ。13歳のふたりが必死に守り通してくれた。
ルービックキューブ対決しながら、ぐるぐるまわる頭をただぐるぐるさせて、
ーパズルを正解させたいけど、幾万通りの方法も答えもある、ルービックキューブに、
「ふつうは星に願うんじゃないのかなぁ?」
私の幸せの幾万通り、ううんたぶんそれこそ、すごい大きな可能性なのか、ナノレベルで、広がる世界なのか。どっちもとてつもない世界だけど。
「私のリアルは、春馬くんだよ?」
真央みたいにルービックキューブの相手は無理だけど、そこは真央に託す?けど。
ね?
春馬くん。
「私の名前は?」
「明日菜」
って言わせて、みた。
私は素直に笑ってた。
「おやすみなさい、春馬くん」
大切な大好きな旦那様の額に軽くキスしたら、
「虫除けスプレーとって?」
って嫌そうな顔をした。
相変わらずな、春馬くんだ。私はクスクス笑ってた。でも真央が私に教えてくれてたら、私も虫除けスプレープレゼントしたかも?
ずーっと私と春馬くんの学生時代のアルバムは重ならないけど、学校なら、そうだけど?
これから先のファミリーアルバムは、きっとつながっていくよ?
ね?
春馬くん。
ただそのヒストリーは、ウシ様に写されていくかも?だけど。
ってあきれたんだ。




