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雨降りの記憶 ※本編関係なし


ー兵隊さんを待たんといかん。


毎日通ってた。


ー何年も、たくさん、過ごした。


大晦日の夜に、


ーまた、あした。


そう言って、


朝がきたら、


ーおはようございます。


そう言ってた。


それが続いてた。


ー私はつよかとよ?若い兵隊さんを、怒鳴る大人を叱りよったとよ?


従軍看護師さんだった方。


ずーっと、そう言われていた。


ー私はつよかとよ?


そう言っていた。


あの夜まで、一度も、少なくても、私はきいたことがなかった。


ー私は強かとよ?


そう言ってた。


いつだって、


ー私は強かとよ?


そう自分に、いいかかせて、いたのかな?


ー若い兵隊さんを怒鳴る、大人、を、叱ってた。


大人って、言っていた。


けど、


ー若い兵隊さん。


って言っていた。


あの夜まで、知らなかった。


ほんとうに、知らなかった。


ー70年、苦しみ続けた。


そして、


お元気な時は、口にされなかった。


ー兵隊さんを待たんといかん。


だって、まっても、いくら逢いたいって願っても、


ー願いは、


絶対に、もう、かなわない。


そう、わかってたんだよね?


だけど、誰だって、


ー年をとる。


だって、毎年、大晦日に。


ーまた明日。


私はそう言って、


ーおはようございます。


ふつうに一緒に時を重ねてた。


だから、わからなかった。


見えなかった。


あの寒い夜に、はじめて知った。


ー兵隊さんを待たんといかん。


私より若かとよ?


ー絶対に帰ってこんといかん。


ああ、そっか。


この世界には、


ー絶対に叶わない想いがある。


どんなに望んだって。


ーかなわない。


だって、


ーあなただって、


若かった、はず、だよ?


そう思って、、、


ー違う苦しみがある。


若い私が自分では、どうしょうもないリアルに。


努力や根性では、


ー精神力では、かなわないリアルに。


ただ、疲れ果てたあの日が重なってた。


けど、


あれは、私の苦しみで、


ーああ、ひきづることは、もうできない。


かなわない。


70年も抱えこんだ想いに。


いつだって、


ー私はつよかとよ?若い兵隊さんを怒鳴る大人を叱ってたとよ?


私は、つよかとよ?


そう笑ってたのに。


ー兵隊さん、たち、を、待たんといかん。


私より若かとよ?絶対に、帰ってこんといかん。


そう、もうやせ細ってた手が、歩けないはずの足が、


ーただ、玄関にすがりついていた。


あの日、


ああ、まだまだ70年、しか、経ってない。


ーいまの日本に生きてる。


ずっと、


ー私は強かとよ?若い兵隊さんを怒鳴る大人を叱ってたとよ?


若い兵隊さんを、


ー守りたかったんだ。


そして、


ああ、


これが、


ー老いる。


そう、やっと、理解した。


ただ、願う。


あのやさしい人たちの願いがかなう。


ただ、願う。


けど、


願いは、


ー身勝手な自己満足。


そうわかってた。


雨の日は、大雨の日は、思い出す記憶。


もう、どんなに願ったって、


ー私はあえない。


だって、


ー私は、あなたより、


歳を重ねて、けど。


ー若いんだ。


だから、


ーなら、よか。あんたが言うならしんじられる。


そりゃあ。そうだよ?


だって、若い私が、


ーあの夜、


もどったんだ。


そして、


ー私がお迎えしましたよ?皆さん、もう家に帰りましたよ?


だいじょうぶ、ですよ?


それ以外の言葉は、


ー私には、なくて。


ちがう人なら、


ーもっと、安心したのかな?


ただ、


ー私も、もう逢えないよ?


って、思って。


雨の日は、いつまで、思い出すんだろ?


あの寒い冬の夜。


ーかかえこんだ想いに、はじめて、ふれた日に。


ただ、


思ってた。


ー逢えたら、いい。


ただ、願ってた。


あなたがずっと、声にだせなかったなら、


ー知ったから、


やっと、声が耳に入ったから、幼かった頃からの記憶を、整理してくれたんだ。


奇跡みたいに、私を導いてくれる。


けど。


ー言わないはずの想いだった?


兵隊さんを待たんといかん。


けど、


ー私はつよかとよ?


どっちを、覚えていたら、いい?


知らなきゃよかった。


そう思って、


ー知ってしまった、な。


そう思ってた。


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