SS台風2
台風が故郷の南九州に近づいてきていた。
「ごめんなさいね。明日菜。予想して仕事を入れるべきだったわ。私のミスよ」
マネージャーさんが飛行機で、謝ってくれた。
飛行機は少し揺れるけど、台風とは真逆の大都会へと飛んでいた。
ほんとうなら、家族が福岡空港まで迎えにきてくれて、そのまま真央や春馬くんのいる南九州の片田舎に行く予定だった。
けど、台風が近づいてきていて、飛行機が飛ぶうちに安全に私は東京にもどることになった。
いつもなら、解除になる飛行機のシートベルトも今日はずっとつけている。
私の家族は、福岡まで逢いにきてくれたけど、真央や春馬くんは、学校で来れなかった。
残念だけど、南九州で生まれ育った私たちは、台風の影響を知ってる。
南九州は、勢力が強いまま上陸する地域にあたる。
最大瞬間風速は、かなりになる。
ー最大、瞬間、風速、だ。
毎時じゃない。
雪国出身の同期の子に、実家の瓦の屋根をみせていたら、おどろかれた。
瓦がおもくないのか?雪国では、ないつくりだと。
私は逆に驚いた。台風の時、飛ばないの?
おなじ日本だよね?
そういえば、私と同期は、いわゆるキーテレビ語を話す。
お互いに方言で話したら、
ー会話にならない。
私の春馬くんは、ある意味、寮で有名人だけど(殺虫剤のおかげ)私たちがスマホで、会話しても、
ー?
って顔になる。
春馬くんも真央も南九州の方言をつかうから、私もつい方言になる。
ただ、真央にいわせたら、
ー東京なまりになったね?
らしい。
春馬くんは、
ー明日菜って耳がいいんだな?
って変な感想を言ってた。
ただ、これに関しては、真央が首を傾げていた。
ーそもそも村上は、覚える気がない。
そう言ってた。春馬くんを見てるとそうかな?とたまに思う。
春馬くんはかなり、
ー音。
に、敏感だと感じることがある。たぶん、その音は、生活音とは違う、人工音だ。
ピアノの音階みたいに、
ー何段階かにわけてる。
つねにリズムと一致する、
ー視覚の音。
がある。人工の音はあまり狂わない。
自然の音でも、ふだん、はしないなら、敏感に反応する。
小さな地震なんかがそうだ。
わずかな空気の歪みを伝える、独特の、
ー音。
そう真央や春馬くんは言う。桜島が活火山である以上、火山性の地震はあるし、風向きによっては、火山灰は県をまたぐ。
錦江湾からみる桜島は壮大だけど、火山が活きているを視覚できる。
そういえば、鹿児島の動物園には、
ーコアラがいる。
小さな頃、家族でみた。
春馬くんや真央にいわせたら、
ー偏食な居眠り。
らしい。
ユーカリしか、食べないわけじゃなく、ユーカリでしか、飼育が難しいし、22時間くらいねてる。
ユーカリの毒性はコアラで有名だけど、600もある種類から、食べるのは、13種類前後。
しかも、地域によって食べるユーカリが異なってくるらしい。
ーめちゃくちゃ偏食だよなあ?明日菜みたいだ。
なんでよ?
ー違うか?ヤドクカエルか?げっ⁈カエルなのか?
ーなんで私を自分が大嫌いなカエルに例えたの⁈
正直、怒りながら、泣きたくなったのは、くやしいから言わないけど。
ーいや、食い物で毒ぬけるから?あれ?明日菜や柴原は変わらないよな?ほかの異世界人か?
ー異世界人って?
ー明日菜や柴原や、母親、以外の女子?
最近、春馬くんはお母さんを異世界人と言わなくなった。
なにがあったかは、真央も教えてくれないから、
ー私絡みかな?
真央が私に春馬くんのことで言葉を濁すときは、だいたい私絡みだ。
ーふたりとも、嘘、が下手だ。
逆に私は、一応メインは雑誌モデルだけど、たまに演じることもある。
私に演技を教えてくれたのは、最近、入退院を繰り返してる老監督。
ーキミはいい意味で無色だ。
私にそう言った監督だ。
羽田空港についたら、外は雨が降っていた。
羽田でも雨は透明だ、
そらはくもっていた。離れてるけど、雲の流れははやい?のかなあ。
切っていたスマホの電源をいれたら。
ー作業完了。いまから帰るよ?
真央が米印にふといテープではった窓ガラスの写真を送ってきた。
ちなみに、たまに、
ーなんで、本人たちじゃないの?
は、ある。
きいたら、
ーえっ?いる⁈その写真⁈
ふたりして言ってる。よくわからないけど、ガラス窓のテープより、ふたりをみたいけど?
があるけど。まあ、いっかあ。
真央と春馬くんの世界に私が溶け込むはないんだろうなあ。
コンビニの前でマネージャーを待ってたら、マネージャーが呆れた顔ででてきた。
「どうかしたんですか?」
「うん。もう肉まん売ってるでしょ?となりで母子連れがいてね。小学生くらいの子が肉まん食べたいって、せがんでたの。私もケースにはあんまん一個と肉まん一個だけだと思ったんだけど」
「違ったんですか?」
「ちょっと値段のたかい豚まんと、ふつうの肉まんだったらしいのよね。で、母親が店員さんから、肉まんですね?って肉まんを取ろうとして、子供が豚まんを指差してたからきいたのよ」
ー上は豚まんだよ?下が肉まん。どっちが欲しいの?
ー豚まんと肉まん、違いなに?ママ?
ーなんだろ?なにが違うんですか?
ーさあ?私にもちょっと。すいません、きいてみます。
「わかい子か他の店員にきいたらね」
ー具材が豚、くわしくは知らないですよ。自分たちも。
「って、どうなのよ?知らないのは、わかるけど、もうちょっとなんかない?あれだとおばさんはナイスよね。やっぱり食だからかしら、肉まんの包装紙調べたりするコンビニあるものね」
「で、お子さんはどっち買ってたんですか?」
「量の多い豚まん買っていったわ。お母さんは最初の店員さんにお礼を言ってたわ」
ー豚まんと肉まんのちがい?
あんまり私も考えてないかも。けど、春馬くんや真央なら、くいつくのかなあ?
ーピロン。
とスマホがなる。
春馬くんからだ。
もし、雨が降ったなら、ちょっとだけ、回り道して?
って、なに?
「どうしたの?」
マネージャーが不思議そうにきいて、私は春馬くんのメッセージをみせた。
東京が長いマネージャーには、わかったらしい。
タクシーに乗って、浅草をくちにした。
なんで、浅草?
浅草からは、日本が世界に誇る634メートルのスカイツリーが、
「えっ?ない?」
「霧雨マジックよ?ほら写メして早く。明日な!」
タクシの窓を開けて、写真をとった。
いつもならどっしりかまえてるスカイツリーが見えない。
光と霧雨のマジック。
ーきょだいなマジックショーがみれたら、写メして。
春馬くんのマジック、
ーほんとうに、あった。
私はふたりに写真をおくりながら、霧雨の大都会のシンボルが消えたそのうえにさ?
灰色の空にさ、
人工のあかりでもさ、
グレーの空にさ、
ー虹がうかんだよ?いくえにも。
それがただ、嬉しかったんだ。




