プロローグ
初投稿です。誤字・脱字、その他拙いこと等あれば報告いただければ幸いです。
「『真実に気づきし時、それはあるべき姿に戻る。』・・・か、またかよ。」
と呟いた俺はそれを机の上に置く。それは表紙がやたら奇抜な本だ。
『またかよ』とつい口に出してしまったのは、こんなことが一度や二度ではないからだ。
というのも、最近学校に登校するたびにこの表紙の本がおかれている。それも、書かれていることは全くの別物だ。
大して面白くもないが、ついつい読んでしまう。書かれている内容は、難しい表現と漢字で長ったるい文が書かれている。
思い出せるものを簡潔にまとめると、『初心を忘れるな』やら、『足元に気を付けろ、決して救われるな』とかそんな感じだ。
気味が悪いので誰が置いているのか確認したいが、生憎と事情があって未だに確認することができないでいる
まあ、そんなことは置いといてやっと読みたい本が読める。あの本は無視しろと思うだろうが、なぜか無性に読みたくなってしまうから後回しになってしまうのだ。本好きの性ってやつなのかな。
そんなことを思いながら読書をしていると・・・
♪キーン コーン カーン コーン
部活の活動の終了を告げるチャイムが響いた。
俺は本を片付け、バッグを肩にかける。習慣化されている行動だ。
しばらくするとガラガラッという音とともに見目麗しい女性が入ってきて、
「結弦、終わったわ。帰りましょ。」
と呼びかけられた。
そう!俺は絶賛青春を謳歌する高校生!・・・
などではなくただの付き人だ。正確に言えばボディーガードなのだが、最近の仕事ぶりを振り返れば、“付き人“という表現が正しいだろう。
というのも“俺“こと"千城 結弦"は株式会社“千城警備会社”の跡取りで、幼少のころからこの会社を継ぐために鍛えられたわけだ。
将来社長になるんだからそんなことしなくていいって?うん、俺もそう思う。
ただこの会社はいまだに“強き者が上に立つべし”なんて古い考えを持っているので、デスクワークだけ、なんてことは無理だ。実際、「うちの会社で一番強いのは誰?」と聞かれたら、社員の誰に聞いても“千城 聡”という齢60を超える爺、そう、俺の祖父の名前を出すだろう。
閑話休題。
警護対象である目の前の女性、“藤原 皐月”は国内外で名だたる資産家である藤原グループの御令嬢で俺の幼馴染だ。
幼馴染ってだけで恋愛フラグが立ちそうなところだが、生憎と全然そんなことはない。現実は非情だ。
俺がちょうど技を仕込まれ始めた時に、爺に連れられて資産家やら著名人やらが一堂に会するパーティーに出席した場所で顔を合わせたのが皐月との出会いだ。
どうやらうちの会社は藤原グループと古くからの交流があるらしく、結弦と皐月を引き合わせることが目的でそのパーティーに連れてきたらしい。
記憶が薄れているせいかあまり思い出せないが、皐月の祖父、よぼよぼのくせに異様に眼光が鋭い老人、“藤原 雅人”は子供も俺でも分かったくらいに孫にぞっこんだった。
要するに孫が大好きで心配で仕方がない老人が俺を皐月と同じ学校に通わせ、警護させたってことだ。ちなみに高校に限った話ではなく、小・中も皐月につきっきりにさせられていた。正直普通の高校生活を送りたいが、そんなことはもうあきらめた。結局、反抗しても勝てない爺に強引にやらされるからな。
そんなこんなで俺は皐月の警護をしてる訳だ。
「いきましょう。」
そう返事をして俺は皐月の荷物を持ち帰路に着く。
ボディーガードといっても俺の場合は普通に談笑する。ほかでもない雇い主がそれを望むのだから当然だ。もちろん執務中は敬語を使い、周囲の警戒も怠らない。
基本的に心配することはなにも起きない。ただの下校だ。日本って平和なんだなってしみじみ思う。本当にいままで暗殺やらの物騒なことにほとんど出会わない。あったとしても皐月目当てのストーカーかな。
皐月との仲は良いし、仕事もきちんとできているが、正直にいうと嫌なことがある。
女の子と一緒にいられて何が嫌かって?
それはほかでもないその女の子、皐月のせいだ。
さらりとした黒髪に整った顔、引き締まったウエストそのせいでさらに魅力を増す胸部と臀部。誰がどう見ても美少女だ。
役得だ?んなわけないだろ。
あの美少女の近くに立つだけで男子からは嫉妬・羨望の眼差しを常に向けられ、女子からはなぜか話しかけられない。つまり友達がいない。いや、決してコミュ障って訳じゃないんだよ?ほんとだよ???
これが恋仲だったらそんなことも気にならないんだろうけど生憎俺と皐月は簡単に言えばビジネスパートナーだ。
「結弦は今日も家に両親がいないのよね?」
「はい。」
「そ。なら買い物に付き合ってちょうだい」
と今まさにこんな話を持ち掛けられるがこれはデートではない。お嬢様の散財に付き従うただの荷物持ちだ。
余談だが、両親は岐阜にいる。この歳にして俺が皐月につくために単身赴任したような形だ。
高校生活は二年のこの時期にしてすでにあきらめた。大学に賭けよう。そんなことを思うがどうせ大学でも同じことになるので、俺に春は一生来ないのかもな。
自分の今後について落胆していると遠くに呆然と立ち尽くしている少女を見かけた。
あたりを見渡して、その子の親らしき人を探すがそんな人はいない。皐月に一言断って少女に近づく。ちなみに親を探すと同時に皐月を狙うよからぬ輩がいないかも確認している。
こう見えてもちゃんとすることはするのだ。
小走りで少女に近づき声をかける。
「お嬢ちゃん、大丈夫?」
少女はこちらを振り返ると
「忠告通りにね?」
と言って両手を胸の前で祈るように組む。
その瞬間少女の両手から光が放たれ、瞬く間に周囲が光に包まれる。
皐月は!?
と思って視線を向けると・・・
不思議そうにこちらを見ていた。
よかった。無事みたいだ。
仕事癖がついて感心、なんて思うがまずは自分の状況だ。どうしようか考えていると
「っ!!?」
急に、意識が飛び始めた。
とりあえず離れようと考えるが・・・、
「もっ、無理・・・」
そんなつぶやきとともに俺の意識は遠のいていった・・・。
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