5. 読心者:三森先輩
寮の食堂は、まだ朝早いという事で殆ど人がいなかったが、部活の朝練をする生徒などのために食堂のおばちゃんたちが早めの朝食を用意してくれており、昨日の昼以来のごはんにありつけた純は、ようやくホッと一息をつくことが出来た。
それで純はここにきて急に睡魔がやってきた。
けれどもいまの状態でまた自室に戻ると、うっかり寝てしまったときに起きれない可能性がある。
純は少し考えて、そのまま食堂の片隅で机に突っ伏すようにして仮眠を取ることにする。
ぼんやりとした意識の中で周囲の状況が刻々と変わっていき、ガヤガヤとした雰囲気が、大家族で暮らしていた実家を思い起こされ、純はいつの間にか本格的に寝入ってしまっていた。
「……あんた、学校行かなくていいのかい?」そんな声とともに、遠慮がちに肩をゆすられる感覚に純はハッと飛び起きた。
顔を上げると、心配そうにこちらを覗き込む食堂のおばちゃんと目が合う。
そのままぱっと壁掛けの時計に目をやると、時刻は朝8時35分をすぎたところ。
純は枕代わりに首を乗せていた腕が痺れていることに不快感を覚えつつも、慌てて立ち上がる。
「大丈夫です。僕、今日は学校行かなくていいんです。起こしてくれてありがとうございます。」純がおばちゃんにぺこりと頭を下げると、
「そうかい? ならいいんだけど。」と言いながら、おばちゃんが離れてゆく。
純は痺れた右腕をもみほぐすようにして感触を確かめつつ、そのまま昨日指示された部屋へと向かう。
今日はこれから面倒な時間が待っている。
なんでも今日は学校の授業の代わりに警察の取り調べに付き合う必要があるらしかった。
部屋の中には昨日と同じ黒髪の女性――『学園』の3年生で生徒会長の三森先輩というひとらしい――、それから警察官らしき数名の男性、さらには背広を来たよく分からない人達が数名と、かなり大勢の人が詰めていた。
それでとにかく、警察の事情聴取が始まった。
その取り調べは、純がTVで見た刑事ドラマなどのそれとは色々と異なっていた。
警察の男性や三森先輩が質問をしてくるが、純は何も答えなくてよい。代わりに頭の中で質問に対する返事をイメージや言葉で思い浮かべるように指示される。
それを、テレパシストらしい三森先輩が読み取り、隣に座るもう一人の警官に言葉で伝える。
警官はそれを文章に書き起こし、読み上げる。
内容に相違ないか聞かれ、答えは口に出さずに頭の中で考える。
それを三森先輩がまた読み取り、文章を修正したりする。
なんでも超能力を用いた新しい方法で、警察の捜査の実験を兼ねているらしかった。
普段の純なら「へえーっ」と感心して大喜びで協力するところであったが、あいにくと今日の純は虫の居所があまりよろしくない。
何よりこの三森先輩の能力は、ねっとりと純に絡みついてきて大変不快なのだ。
さっきっから何度も純の周りをねばねばとした能力が干渉してくるので、弾き返すのも気持ち悪くて仕方がないのだ。
大和撫子なんて言葉がぴったり似合いそうな清楚な雰囲気のきれいな三森先輩だが、こうも気持ち悪い能力を無遠慮に人に使ってくるその様子に、純はほとほと嫌気がさしてくる。
だから純が「気持ち悪いので止めてください。」と抗議の声を上げると、
三森先輩は冷ややかな表情で
「私のテレパシイを拒絶する場合、それだけで心証が悪くなり、裁判などが不利になります。
何よりあなたには事件の解明に協力する義務があるんですよ? 昨日書類にサインもしたでしょう?
私の能力を受け入れてください。」
と言ってきた。
純はどうしようもなく腹が立ったが、ともかく従わなければ仕方がないという事で、先輩の能力を嫌々ながらも受け入れる。
先輩の能力は無遠慮に純の心にベタベタとまとわりつき、背筋がぞっとするような不快感があったが、ともかく我慢するしかない。
それで警察の人による事情聴取が始まった。
純はムカムカする気持ちを懸命に抑えつつ、質問に対し言われたとおりに頭の中で返事をする。
加田少年と純は普段はどういう関係だったと思っているか?
あの日寮に戻らなかったのはなぜか?
つまり神崎先生との特訓が嫌になったということか?
そもそもその特訓とはどういうものか?
2年生の雨宮 れいなという少女とは初体面なのか?
二人で何を話したのか?
待ち構えていた加田少年についてどう感じたか?
加田少年と雨宮少女の間でどんな会話があったのか?
その後どういういきさつがあったのか?
加田少年が能力を爆発させたとき何を思ったか?
そして具体的には、加田少年に何をしたのか?
なぜ彼の能力をめちゃくちゃにしようと思ったか?
加田少年の能力が使えなくなった事についてどう感じているか?
自分のしたことに罪の意識はあるか?
質問に対し純が心の中で返答を思い浮かべるたんびに、三森先輩は驚くべき正確さでそれを拾い上げ口にして、次々と報告が形になっていく。
三森先輩は純が思い浮かべた映像や僅かな感情まで感じられるらしく、雨宮先輩と二人で見上げた満月やその時に抱いた淡い恋心までがその場で言葉に置き換えられ、それを耳にしたスーツ姿の女性がくすりと笑い、他の皆もお互いに目配せをしあう様子を目にした純は、この場にいる全員の事が大っ嫌いになった。
そのままぶっ通しで1時間以上にも渡る聴取が続き、粗方の事を話し終えて(といっても純はほとんど頭の中で考えるだけだったが)、ようやっと聴取がお終いという事になった。
気持ちの悪い三森先輩の能力が純の心から離れてゆき、純はホッと安堵のため息をつく。
その様子を見ていた背広の人達の一人が、純に声を掛けてくる。
「それにしても真壁君。君の能力は素晴らしいね! 加田君はもともとレベル4の能力者だったようなのだが、今朝の測定ではレベル1にも満たなかったそうだよ! 君は彼の能力を完全に封じてしまったんだ。
今後の超能力のあり方を大きく変えるような一大事件だよ! まったく素晴らしい能力だ!」
純は初老の男性のはしゃぐような声に意味が分からず、キョトンとなってしまう。
コホンと大きめの咳ばらいをした三森先輩が「浅野先生。そういった話はこの場ではご容赦ください。」と背広の男性を窘める。
「ああ、すまんすまん。」と男性は手を前に出して軽く謝るような素振りを見せつつも、「だが、これでようやっと超能力に対する罰則や規制の手段が現実的になったと考えると感慨深くてね。いや、本当にここまで長かった! 素晴らしい能力だよ、真壁君! よくやってくれた! ぜひとも今後も活躍してもらいたいね!」と、興奮した様子でさらに純へと話しかけてくる。
「浅野先生!」三森先輩が声を荒げる。
浅野先生と呼ばれた男性は、「やれやれ、三森先生のお嬢様は厳しいね。」などと言っておどけて見せる。
一連のやり取りを聞いていた純はその内容に強い疑問を覚え、思わず声を上げてしまった。
「あの! 僕は犯罪とかで捕まるんじゃないんですか!?」
そしたら、背広を着た男性の一人が訊ねてきた。
「どういう意味かな? 真壁君。犯罪? 捕まる? どういう理由で君が捕まるのかな?」
純は思ったことを続ける。
「僕は悪い事をしました。加田くんの能力をめちゃくちゃにしてしまったんです。これは悪い事でしょう? だから僕はこの後、警察に捕まるんじゃないんですか?」
そしたら、その場にいた全員が一瞬静かになって、その直後に一斉に笑い出した。
純にはさっぱり意味が分からない。
彼らはまるで純が何も知らない愚か者であるかのように笑うのだ。実際のところ、純は何も知らない愚か者なのだ。純はとても惨めな気持ちになり、余計な事を言うのではなかったと強く後悔した。
ひとしきり笑いが続き、落ち着いた後、三森先輩が口を開いた。
「あのねぇ、真壁君。あなたはどうも勘違いをしているようだからはっきり言いますけど、私達超能力者が能力をどう使い、その結果どれだけ周囲に被害や損害を与えようとも、今のところ犯罪として罰する事は出来ないんですよ?
だから本来、あの加田 浩紀という少年が何をしようとも、そしてあなたがそんな加田君に何をしたとしても、いっさい罪に問われることはないんです。
なにせ超能力による犯罪はそもそも科学的に立証することが極めて困難ないし不可能と言われてますからね。
つまり、あなたが超能力を使ってどれだけの問題を起こしたとしても、警察はあなたを捕らえることはありません。
加害行為を証明する手段がないんです。」
純にはさっぱり意味が分からない。
だから純はとにかく黙り続けるしかない。
背広の男性の一人が三森先輩の言葉を継ぐ。
「最近になってようやっと法整備や制度改革が進んでね。超能力による犯罪を超能力によって立証する為の検証が始まったばかりなんだよ。
例え一切の物的証拠がなくとも、テレパシストによる読心の内容そのものが証言として成立したり、サイコメトラーの読み取り内容が状況証拠として取り扱われたり。
今回の事情聴取はその検証実験の一環の一つなんだ。果たして超能力による調査結果は犯罪行為の立証に足るだけの証拠足り得るのか、というね。
とはいえこれはあくまで検証段階なので、法的な効力はまだない。
だから今回の結果がどうあれ君達は今のところ無罪というわけさ。加田君も、君もね。」
さらに続けて、警察の人が話をする。
「君は罪に問われない。現時点で罪に問うための法律がない。罪を証明するための手段がない。
だから私達は君を捕まえることは出来ない。だから君は犯罪者でも何でもない。ただし!」ここで警察の人は声を強くする。「今後も罪に問われないかと言ったら話は違う。そう遠くない未来、君達の犯した行為が正しく罪に問われる日が来るだろう。だから決して許されたなどと思わない事だ。」
睨みつけるようにしてそう純に言う警察の人。
純はその迫力にびくりとなってしまい、何も言えなくなってしまう。
それで純が押し黙っていると、「まだ他に何か、質問はあるかね?」警察の人が静かにそう告げる。
純が首を横に振ると、「今日の聴取はこれでお終いだよ。ご苦労様。」もう一人の警官の人がそう言って、そうしたらみんなが席を立って、そのままぞろぞろと出て行った。
代わりに学校の先生が入ってきて、「疲れただろうから今日はこのまま学校は休みなさい。今日はこのまま寮の自室に戻りなさい。」と言われた。
純は心配になり声を上げる。
「授業に出ては、ダメですか?」
一瞬不思議そうな顔をした先生は、「どうして?」と聞いてくる。
「僕、勉強苦手だから……。1日も休んじゃうと分かんなくなっちゃうから……。だからなるべく出たいです。」
純がそう伝えると、「そう……。君は真面目だね。」そう先生は呟いて「好きにしなさい。」と言われた。
だから純は大急ぎで自室に戻って、このあとの授業に必要な教科書をカバンに詰め込んで寮を飛び出す。
学校の教室は午前の3つめの授業が終わった直後でざわざわしていたが、純が中に入ったとたん、ぴたりと静かになった。
みんながチラチラとこちらを見てくるのが、純にも痛いほど伝わってくる。
純はとても恥ずかしい気持ちになるのを懸命にこらえながら自席につくと、少しずつざわざわした雰囲気が戻ってくる。
純は次の国語の授業の準備を進めながら、休んでしまった3時間分の遅れについてどうしようと心を悩ませる。
純には友達がいない。
休んだ時間分のノートを貸してくれるような知り合いは一人もいない。
みんなは気になるのか、遠巻きにして純の方を見たりしてくるが、誰も近寄ってくるものはなく、そのまま4時限目の授業が始まる。
時間はゆったりと過ぎてゆき、気が付くと放課後になっていた。
それで純はいつもの特訓の為に教室にむかったが、そこには誰もいなかった。
いつもなら神崎先生が待ち構えていて、1分でも遅刻するとものすごい勢いで怒り出すのに、今日は純が何分待っていても先生はやってこなかった。
思えば先ほどの帰りのホームルームでも神崎先生はいなかった。代わりに副担任の先生が色々していた。
神崎先生に何かあったのだろうか?
けれども純にはさっぱり事情が分からないので、とにかく待ち続けるしかない。
それで1時間も経った頃、別の先生が教室の前を通りかかり、中を覗き込んできて、「きみ、なにやってるの? 下校の時間だよ?」と声を掛けてきた。
そこで純が神崎先生との特訓の話を説明するとこの中年の先生は「あっ!」と声を上げ、「君があの噂の……。」などとごにょごにょ聞き取れない言葉を口にしてから、「神崎先生なら職員室にいたよ。なんでも急に報告書を作らなきゃいけなくなったとか言ってたかな。今日のその特訓とかはなくなったんじゃないの? 先生は何か言ってなかった?」と聞いてきた。
純が「何も聞いてません。」と答えると、「そ? とにかく今日はもう帰りなよ。先生には私から言っておくよ。」と中年の先生に言われたのだが、純としては頷くわけにはいかない。
「勝手に帰ると後で怒られます。ちゃんと神崎先生に確認しないと……。」と純は自分の事情を説明する。
「そっか。」中年の先生は少し考え込むそぶりを見せてから、「じゃあ一緒に職員室に行こう。」と言って、純を誘い職員室に向かうことになった。
職員室では神崎先生が机にへばりつくようにしてパソコンの画面に向き合ってうんうんと唸り声を上げていた。
「なんで私がこんなことしなくちゃならないのよ!」イライラとした声で悪態をついたりもしている。
中年の先生がそんな神崎先生に声を掛けると、「すいませんが忙しいので後にしてもらえませんか?」と余所行きの声で返事をしつつ、振り返った先、中年の先生の後にいた純と目が合った途端、鬼みたいな顔になって叫び出した。
「あなた! なにしに来たの! あなたのせいで報告書なんて書かなきゃならなくなったんじゃないの! 人を馬鹿にするのもいい加減にしなさい! あなたのせいで私は!」
あまりの大きな声に、職員室が一瞬で静かになった。
その場に残っていた先生たちの全員がこちらを見ている。
けれども神崎先生はそんな事お構いなしに、ギャーギャーと悲鳴のような叫び声を上げ続ける。
「あなた! ちょっと自分がすごい能力者だからといって、私の事を馬鹿にしているんでしょう!? 私だって好きであなたの面倒見ているわけではないのよ! それを全部私が悪いみたいに言って! 馬鹿にするのもいい加減にしてよ! 私が酷い目に遭っているの見て、何がそんなに楽しいのよ!?」
純にはさっぱり分からない。神崎先生は何を言っているのだろう。何にそんなに腹を立てているのだろう。純がいったい何をしたというのだろう。
唖然となっていた中年の先生が、思い出したかのように間に割って入ってくる。
「落ち着いてください、神崎先生! 何があったのか知りませんが、ともかく落ち着いてください!」
そんな中年の先生に対し神崎先生は「槇島先生は黙っていてください!」とヒステリックに返事をする。
そんな神崎先生に対し、純も負けじと声を張り上げる。
「今日の特訓は中止ですか!?」
そうしたら神崎先生は一瞬動かなくなってから、「知らないわよ! そんな事!」と大声を上げながら、机の上にあった文房具やら何やらを手当たり次第に掴んでは、純の方へと投げつけてきた。
さすがにこれはまずいと思ったか、近くにいた先生達が一斉に駆け寄ってきて慌てた様子で神崎先生を抑えにかかる。
「馬鹿にして! 馬鹿にして! 馬鹿にして!」先生達に押さえつけられながら、神崎先生が声を上げ続ける。
中年の先生が純に振り返り、「大丈夫? けがはない?」と聞いてきて、純が「大丈夫です」と返事をすると、「ともかくきみは帰りなさい。」そう言いながらも純の背中を押し、出口の方へと無理やり歩かせる。
純にはさっぱり分からない。何もかもが分からないまま、ともかく逃げるようにして大慌てでどうにか寮へと向かった。
自室の前まで戻ってくると、純の部屋の前で丸山くんが所在なさげにポツンと立ち尽くしていた。
丸山くんが近寄る純の姿を認めると、「あ! 真壁!」と慌てた様子で駆け寄ってくる。
そして、心底申し訳なさそうな顔になって、こんな事を言ってくる。
「わりい真壁。オレの能力、戻してくんねぇか? わりい。」
最初純は、丸山くんが何を言っているのかよく分からなかった。
少し考えてようやっと思い出した。
そういえば純は昨日の夜、丸山くんの能力のもとを塞いで使えないようにしていたのだった。
純は丸山くんの能力にそっと触れて、なるべく不快にならないように優しく栓にしていた部分を除いてやる。
「んっ!」丸山くんがなんか悩ましい感じの変な声を上げた。
それから丸山くんは自分の能力が戻ったことを確認するため、辺りに干渉をはじめ、それは純のところにまで飛んできた。
ざらざらとして擦れるような、ちょっと嫌な感じのする丸山くんの能力。
純は丸山くんのそれをパチンと弾いてやる。
その反動が丸山くんにも伝わったのだろう。ハッとなった丸山くんが純の方へと顔をむける。
「ごめん丸山くん。丸山くんのそれ、なんかあんまり好きじゃないから出来ればなるべく僕には使ってほしくない。」
「お、おう。」丸山くんが上ずった声で返事をくれる。昨日と違って、今日の丸山くんはすすっと素早く自分の能力を引っ込めた。
「ありがとう。」と純がお礼を言うと、
「わりい、真壁。わりい。」と、丸山くんはしきりにぺこぺこ謝りだした。
純が「こっちこそごめん。」と返しても、丸山くんはそのまま「マジで悪かった。わりい。真壁、わりい。ホントわりい。すまねぇ。わりい。」などとぺこぺこ謝るばかりで、さらには90度くらいのすごい角度で頭を下げたまま、動かなくなってしまった。
「あの、丸山くん?」と純が尋ねるも、「すまなかった。」と返事があるばかり。
純としてもどうしていいか分からないので、そのまま二人して5分ほどお見合いみたいな感じで固まってしまい、それから純は、正直クタクタに疲れてしまっていたので、もういいかという気分になり丸山くんを無視して自室の中へと入った。
それからちょっとして心配になった純が扉を開けると、そこにはもう丸山くんはいなかった。
純は何故だかホッと安心した。それでそのまま気が緩んだ純は倒れこむようにベッドに突っ伏し、気が付くとそのまま寝入ってしまっていた。
こうして怒涛の2日間は最後はあっという間に過ぎ去っていった。
その日から変わったことが2つある。
まず一つ。純は神崎先生の謎の特訓を受けなくてよくなった。
そしてもう一つ。加田くんは学校に来なくなった。
どちらについても純から見ればおそらく自分のせいなのだろうと想像はつくのだが、それが何故なのかはまったく心当たりがない。
『学園』での生活はいつだって純とは関係ないところで勝手に話が進み、純は訳も分からないまま、必死でしがみつく以外に出来ることなどないのだ。
だから純は今日も重い身体を引きずるようにして学校へ向かう。
よく分からない特訓がなくなり、毎日のように絡んでくる加田くんがいなくなっても、純の毎日に大きな変化はない。
これが今日も変わらぬ『学園』での純の日常だった。