9「天笠愛翔3」
生き残った……
階段を降りていくと、そのままへたり込んでしまう。
死。
本当に死ぬ寸前だった。
むしろ何で生き残っているのかが不思議なレベルだった。
「死んでない」
そう呟くと、本当に安心した。
「良かったね」
目の前に影が出来た。
可愛らしい女の子が立っていた。
「私、川岸祐子っていうの」
その女の子――祐子は言った。
「知ってるよね?」
私はその名前を少し前に見たばかりだ。
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ライフを1受け取りました
From 川岸祐子[7840]
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通知履歴を確認する。
祐子は2回目のライフをくれた人だった。命の恩人の片方と言ってもいい。
「あ、ああ……」
なぜか震えて感謝の言葉が紡げない私。
「私がいなかったら、死んでた。違う?」
祐子は言った。
「私の個室に来て。あなたには協力して貰うことがあるから」
祐子に流されるままやってきた。
そこは女の子の部屋らしくない、無骨な部屋だった。
それも当然、私たちは昨日ここに来たばかり。私物は服くらいだし、当然、女の子らしい部屋になるはずもない。
二人でベッドに腰掛ける。
「ありがとうございます。私、死んでました」
「うん、どういたしまして。でも敬語はやめてね」
それなら、普通にするか。
あんまり私はそういう口調とか苦手だ。
「ありがとう……何で助けてくれたんだ?」
「人助け?」
「デスゲームは残り100人になるまでやるんだぞ。分かってんのか?」
「まあでもいいじゃん、助けたかったんだよ」
「へっ、それで足下救われたらざまーねぇな」
私は姿勢をあぐらに崩す。敬語はやめてって言ってきたんだし、いいよな?
そう思った。
案の定、祐子は嫌な顔はしなかった。
「へへ、ちょっとヤンキーみたいだね」
「は!? 私って、どちらかというと、お嬢様なんだけどな」
「え、その口調で?」
「この口調で、だ」
それで一緒に笑って。
なんというか、祐子とは簡単に仲良くなれそうだった。
元々馬が合うのか、それとも命の恩人相手だからそう感じるのは分からなかった。
カップ麺で腹ごしらえしながらお話しする。
「でも、そっか、祐子は男から貰ったんだ。ライフ」
「いいじゃん、別に」
「というか、私が初めて観戦した時、お持ち帰りされたのって、祐子だったんだ」
「むぅ」
「いや分かってるって。祐子にそんな気がなかったのは」
話してみて分かった。
祐子は決して、私の嫌いなタイプではなかった。
男に縋り付けば、リスクなく生き残れるって確定的な状況で、それを蹴った。
私なんて助けなければ、絶対生きられたのに、私を助けようとした。
「そうだ、そろそろ本題入ろっか」
食べ終わったところで、祐子がそう切り出した。
「愛翔のライフ、確認してくれる?」
スマホを確認する。
「あれ? ……なんで!?」
私はスマホの表示が信じられなかった。
「あー、やっぱり1個か」
祐子は私のスマホをのぞき込んで言う。
「え? やっぱり? 元に戻るんじゃ……」
祐子と、後よく分からない人から1つずつライフを貰った。
ということは、合計で3つになっているはず。だって引き分けた場合、消費したライフは元に戻るって書いてあったような……
「違うよ、ゲーム開始時に戻るんだよ」
(ルール引用)
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・以下の条件のいずれかを満たした場合、引き分けとなり、ライフ数はこの○×ゲーム開始時に戻る。
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「そうか、なら祐子にライフが戻ったってことか!」
「ううん、戻ってないかな。今は1個だけ」
「え!?」
祐子のライフは2個あった。
じゃあ、祐子のライフが1個消滅したってことか!? まさか……
私は思い至る。
「――戻るのは○×ゲームのプレイヤーだけ?」
「そういうこと」
祐子は何でもないことのように言う。
良い子すぎる。自分のライフが1個だけになっているのに。
「……」
なんと言えばいいのか分からず、私は俯く。
できることなら私がライフを2個稼いで、一個あげたい。でもそんな方法あるのだろうか。
――手が触れた。
「大丈夫」
祐子は優しく私の手を取った。
驚きそうになるくらい、真っ直ぐに私を見てくる。
「必勝法がある」
祐子はそう言った。
「一人じゃ出来ない、信頼し合う二人じゃないと出来ない必勝法。ねぇ、愛翔は私のこと――信じてくれる?」