8「天笠愛翔2」
引き分けたが、私はさらに一歩この○×ゲームの真髄に近づいた。
「今度こそ、勝つ!」
私はまたエントリーした。
今度は私の先攻。
先攻は先に会場に着いた方がゲットできる。
【盤面】
___
_○_
___
↓
【盤面】
___
×○_
___
相手はちょっとかっこいい感じの若い男だった。
もちろん私は、絶対に男に媚びないっ!
私は×を書き入れた。
【盤面】
___
×○×
___
「へー、知ってるんだ。じゃあ引き分けだね」
男は言った。
【盤面】
_×_
×○×
___
↓
【盤面】
_×_
×○×
_×_
↓
【盤面】
あ×_
×○×
_×_
「もうどうしようもないでしょ? ささっと引き分けしよ」
何でもないことのように“あ”を書いて、男は言った。
そして。
【盤面】
あ×△
×○×
△×○
また引き分けとなった。
「クソッ、絶対引き分けになんじゃねーか!?」
だが、私はエントリーを繰り返す。
なぜなら、まだあのハゲおっさんみたいな雑魚がいるかもしれねーから。
そして――時間が経てば立つほど、弱い奴は消え、強くなかった奴もゲームの真髄に気付いてしまう。その前に勝つ必要があった。
――またも引き分けだ。
スマホで戦績を確認すると、5戦5引き分けだ。
「まだだ! たまたま強い奴と当たってただけだ!」
私はエントリーする。そして、表示された会場へとダッシュで向かった。
6戦目。後攻を引いた。初戦以降初めての後攻だ。
後攻は不利だが、どうせ引き分けだ。次のゲームで先攻とって、雑魚狩りしよう。そう思った。
【盤面】
___
○__
___
↓
【盤面】
___
○×_
___
相手が辺スタートなことに若干疑惑を持ちつつ、あまり考えずに中央に×を書いた。
【盤面】
_△_
○×_
___
↓
【盤面】
_△_
○×_
_あ_
私はあんまり深く考えずに、“あ”を書いた。
「ふはははははは! 雑魚め!」
ロン毛の若作り感ある男が、いきなり高笑いしてきた。
――デジャブだ。
これはあの時――初戦でおばさんにやられた展開と同じ。
私の危機感は瞬時にMAXとなった。
【盤面】
_△_
○×○
_あ_
「これで俺の勝ちだ!」
ロン毛は高らかに宣言してきた。
「え、なんで……?」
でもあのときのおばさんの時と違って、すぐに何がヤバいのか分からなかった。
「仕方ない。説明してやろう。この状況、君がどこに何を書いても、次の俺様のターンで絶対に3つのマークの内、一つを揃えることが出来る。そういう状況なんだ」
「3つのマーク?」
「○と×と――そして『悪いマーク』だ」
私はその言葉に、聞き覚えがあった。
すぐにスマホでルールを見る。
(ルール引用)
~~~~~~~~~~~~
・丁寧にマークは書くこと。以下のような悪いマークは、○や×とは認識されず、ひとくくりに『悪いマーク』として認識される。
【悪いマークの例】
△ □ 罰 あ ▲ ☆
などなど。
~~~~~~~~~~~~
ああああああ……そういうことか。そういうことなんだ。
ひとくくりに『悪いマーク』として認識される……か。私はこの文の意味が全く分かってなかった。
「つまり、△と□と☆で一列揃えたら……」
「悪いマークで揃うってことだね」
ロングは言った。
「君みたいな若くて可愛い子が、今から死ぬんだ。ぞくぞくしてきたよ。ああ、泣きわめいて、必死に命乞いをして欲しい。何でもするからって」
クソッ!!
改めて盤面を見る。
【盤面】
_△_
○×○
_あ_
これは……詰んでる。
私はスマホでルールを読み始めるが、何も見つからない。見つかりそうもなかった。ただ時間だけが削れていく。
それは当然だった。この状況は実際、詰んでいる。
現在、ライフ1の天笠愛翔。もっとライフがあればなんとかなるが、たったのライフ1では、本当にどうしようもない状況だった。
本当のルール上の詰み。
そのはずだった。
――天運。
そうとしかいいようがない。
天笠愛翔のスマホに通知が入った。
「え?」
~~~~~~~~~~~~
ライフを1受け取りました
From 志白翔理[0128]
~~~~~~~~~~~~
「ホントに増えてる……?」
私は、誰か知らない人からライフを受け取っていた。
「これならなんとか……!」
私は“行動A”でライフを受け取る。これで合計ライフは3つ。“行動B”が2回使えるようになった。
そこではたとして気付く――
【盤面】
_△_
○×○
_あ_
「ダメだっ! 2回行動じゃ足りない! なんで! せっかくライフが増えたのに! これがゲーム中じゃなければ勝ちだったのに!!」
――天運が微笑む。
さらに、私のスマホに通知が入った。
~~~~~~~~~~~~
ライフを1受け取りました
From 川岸祐子[7840]
~~~~~~~~~~~~
「へ? ゆ、夢じゃない?」
私はあまりに自分に都合が良すぎる状況に、夢だと疑うレベルだった。
スマホに表示されたライフは4つ――つまり3回行動だ! これなら、なんとかなる!
同じマークは1ターンに2つ書くことはできるない。逆に言うと、○、×そして『悪いマーク』の3つを一つずつ書くことはできる!
そして――
【盤面】
×△△
○×○
_あ○
――このゲームの引き分けが確定した。