7「天笠愛翔1」
私、天笠愛翔は、勇気ある最初のプレイヤーの戦いを見た。
そして学んだ。
この○×ゲームの本質と――勝敗の意味を。
負けた方は、本当に死ぬ。
勝った方は、官軍だ。女たちが媚びていた。そして男は一人の女を連れて行った。
「クソッ!」
私は大っ嫌いだった。
男に媚びる女が。
「プライドがねーのかよッ!」
私は違う。
私はリスクを取る。
私は自分の道は自分で切り開くッ!
――スマホのエントリーボタンを押した。
他のゴミ女とは違う。
それが私、天笠愛翔17歳だった。
ゲームが始まった。私は後攻だ。
【盤面】
___
_○_
___
↓
【盤面】
___
×○_
___
↓
【盤面】
___
×○○
___
相手は、40代くらいのおばさんだった。
さっきのハゲのおっさんもそうだ。頭が固い大人なら、勝てる! そう思った。
相手は○を横に並べている。
相手は“知っている”のだろうか? それともただなんとなくそこに置いたのか。
私は一旦様子見することにした。
【盤面】
_×_
×○○
___
もし相手が“知らない”なら、ここで絶対、
【愛翔の脳内】
_×_
×○○
__○
こうやってダブルリーチを掛けてくるはずだ。こうしてこればさっきの男みたいな方法でハメれる。
私はそう考えた。
「ふふっ、弱いわね。笑っちゃうわ」
おばさんは言った。
――え、私は、何かを間違えた?
咄嗟に盤面を見るが分からない。
「まだ気付かないなんて、本当に弱いわね」
【盤面】
_×_
×○○
_×_
おばさんは、“×”を書いた。
そうか。“知っている”人だったのか、でもそれなら五分五分だ! ――そう思って次の候補手を探そうとして、戦慄した。
――置ける場所がない!?
どこに○を置いても、どこに×を置いても次のおばさんのターンで揃ってしまう。
なんで……
「ふふっ、ようやく気付いたようね。あなたはこっちがダブルリーチを掛けるのを待っていたようだけど、甘いわ。あなたの2手目、それが隅に――」
【おばさんの脳内】
__×
×○○
___
「こう置いていれば、貴方が負けることはなかった。引き分けになるはずだった。なのに残念。あなたはダブルリーチで嵌めることしか頭になかった。だから間違えた」
くっ!
「まだだ! 私はまだ諦めないッ!」
「良いことを教えてあげるわ。5分間何も行動しないと警告。警告2度で死亡、だそうよ? あと10分の寿命を大切にね」
「ぐぅううううう!!!」
やられたやられたやられたやられた!!!!!!
「そこの黒髪のイケメンの君」
おばさんは観戦者に声を掛ける。
「もしよければ待っててくれない? ライフを1個あ・げ・る・か・ら」
クソッ!!!
こんなおばさんにぃ!! どうせ男に媚びながら生きてきたような、プライドのかけらもないような、おばさんにぃ!!
おばさんは、もう勝ちを確信しているんだ。
クソ、クソクソクソ!!
私は血で沸騰しそうな頭で、スマホを凝視する。
何か! 何かがあるはずだ!! 何かが!! よく読め! 何か逆転の一手が!!
「後攻プレイヤー『天笠愛翔』さん。未行動時間が5分を超えました。警告します。これから5分以内に行動しない場合、ゲーム続行意思なしとみなし、射殺します」
――冷える。
黒服の冷淡な声が、腹に響く。
でも、実際、何かがありそうなんだ。
○×ゲーム……それは、邪魔だ。今までの○×ゲームの常識を持ったままルールを読んじゃダメだ! 私は……
「そろそろ時間よ? あと1分30秒ね。何か遺言あるかしら?」
「……お」
「ん? なんて?」
「終わってない!!」
私は勢いよく、書き込んだ。
【盤面】
_×_
×○○
△×_
“△”を――
「あら、残念。気付いちゃうか」
おばさんは驚いてなかった。
「番外戦術を結構使ってみたけど、足りなかったみたいね」
そうか……
私は勘違いしていた――おばさんは強かった。私よりも遙かに。
【盤面】
△×△
×○○
△×△
そして、引き分けとなった。