5「斉藤学3」
First Stageが始まった途端、俺はメールの内容すら読まずに、スマホからエントリーボタンを押した。
正直、馬鹿だと思う。
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あなたの会場はA-00です。
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俺はスマホの地図を見ながら会場へと進んだ。
同時に詳細ルールも読んでおく。
会場にはすぐに着いた。
リング形式で、プレイヤー席2つと、審判席が1つある。審判らしき黒服はすでにスタンバイされている。プレイヤー席も既に誰かが座っている。
「あんちゃんが俺の相手か!」
相手はハゲのおっさんだった。
「会場はA-00、つまり俺とあんちゃんが一番乗りでエントリーした最も男気ある人間って訳だ」
俺は短い階段を上がって、空いたプレイヤー席に座る。
座ると眠くなってきた。
「ふわぁ……」
「……あんちゃん、俺を舐めてるか?」
「違うんだ。2徹してて、眠いんだ」
「ははは! 2徹か、そうか。若いな。俺くらいの年になると、1徹でもキツいぞ」
周りを見ると、俺たちの観戦をしようとしている輩が無茶苦茶いる。
まあ普通の神経なら、いきなりこんな負けたら即死のゲームやるはずないよな。
というか馬鹿だと思う。
でもいいんだ。俺はもう、最悪死んだら、それでいい。恵麻だって一生、俺の顔を見ずに済むんだ。だから、許して欲しい。
「プレイヤー両名が席に着いたので、これより『負けたら即死! ○×ゲーム』――」
黒服が言った。
「――先攻『荒木修治』さんにターン。お願いします」
「おう、悪いなあんちゃん、こっち席は先攻なんだ。○×ゲームは先攻有利って知っているか?」
「……○×ゲームは引き分けだろ」
「ふん、だが俺の攻撃を全てかわせるかな?」
プレイヤーの席の前には、石碑みたいな、小さなテーブルがあった。そこはパネルになっていて、そこに書き込むことでゲーム内の“行動”ができるようだ。
「なんだ、ライフがゼロになるって! タンマ!」
「おっさん、まさかメール読んでいないのか?」
「読んだわ! ざっとだが、読んだわ! なんかえらい小難しく書かれてたから、多少分かってないところがあっただけだわ!」
おっさんはすぐに表情を変える。
「分かった。まずは行動Aだ! で、行動B!」
【盤面】
___
_○_
___
「ど真ん中、置かせてもらうで。ターンエンドや」
俺とおっさんの間には、3メートルぐらいのスペースがあり、そこに盤面が表示されている。1マスは1メートル四方で、合計3×3メートルくらいか。観戦しやすいように設計されているのだろう。
(ルール引用)
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手番プレイヤーは以下の、行動A、行動Bまたは行動Cを行う。
行動A)ライフを一つ獲得する。(行動Aは1ターン1度しか行えない)
行動B)ライフを一つ消費して、何も書かれていないマスを一つ選択し、そこにマークを書き入れる。
行動C)行動Bの後、ターンエンドを宣言することで、ターンを移す。
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まずは行動Aを行い、1ライフ回復。
次に行動Bを行う。
付属のタッチペンでパネルに書き込むと、自分で描いた×が盤面に表示された。
【盤面】
×__
_○_
___
その際、『わざわざライフが2→1に減りますがよろしいですか?』と確認画面が表示される親切振り。
おっさん……まさかとは思うけど行動Aをやらずに行動Bしようとした?
ルール、読んでなさ過ぎじゃない?
「ターンエンドだ」
「いやー、ホント、あぶなかったわ! でも結局は俺の有利! もし負けても恨みっこなしだからな?」
おっさんは、本当に口が回る。
俺はさっきからずっと、メールを読みながらプレイングしているが、俺なんかに話しかけて楽しいのだろうか? とも思う。
もしかしたら、周りに大勢いる観戦者に気をつかっているのかもしれない。
おっさんばかり喋りながら、ゲームは進んでいった。
【盤面】
×__
_○_
__○
↓
【盤面】
×__
_○_
_×○
と進んだ。
「あんちゃん、それは悪手だぜ!」
【盤面】
×_○
_○_
_×○
「ダブルリーチだ!」
――やっぱり、おっさんは分かっていなかった。
半分自棄になって最初にエントリーしたが、馬鹿を狩れるという点では、悪い選択ではなかったのかもしれない。
「なるほど、おっさんは次の手番で必ず勝てるな」
「恨むなよ? 俺が強かったんだ。そして死ぬのは総理大臣のせいだ。俺は殺人犯じゃねぇ。俺を恨むなよ」
おっさんは勝った気でいるらしい。
「……その言葉、そっくりそのままおっさんに返すわ。この殺人は俺の罪じゃねぇ」
「あんちゃん、負けるのはあんちゃんだぜ? 2徹で気でも狂ったか?」
「2徹の俺に頭脳戦で負けている気持ちはどうだ?」
「あんちゃんだからな――」
俺は“○”を書いた。
【盤面】
×_○
_○○
_×○
「なっ!?」
「あのクソ総理に、思考誘導されすぎだ。なぜ、わざわざ一度しか言わないと集中させた上で、口頭で微妙に詳しくない説明しかしなかったか。それを考えれば、メールの文面が一番重要だと言うことは分かったはずだ」
俺は縦一列に並ぶ○を見た。
ルールには、自分のターンにマーク3つを一列に並べれば勝ちと書かれている。
ルールには、マークを書くことを行えると書かれている。
つまり先攻だから○、後攻だから×というのはなかった。
あったルールは、○と×はマークであるという文言だけ。
俺はずっとスマホを読みながら、このルールに穴がないかを確認していた。
「俺は! 俺は死ぬのか!? 嫌だ! 死にたくない! まだ生きる! 生きる!」
おっさんは大声でわめいている。
パン、と乾いた音が響いた。
同時におっさんは、血を吹き出しながら倒れた。
どこから撃ったか分からないが、銃で殺されたのだろう。
「Conglaturations! おめでとう、『斉藤学』さん。報酬のライフ2つを受け取りました。どうぞスマホから確認して下さい」
黒服に祝福された。
スマホを見ると、確かにライフが2つ増え、3つになっている。
とりあえず、生き残った。か……