18「伊南悠4」
「ちょっと待った!!」
霧島に呼び止められた。
「……えっと、待ちますけど」
「思いついたんだ! 絶対に互いに信用させる方法を! こっちに来てくれ!」
霧島は興奮した感じの口調でそう言ってくる。
――なのになぜか、負の感情を纏っている。
おかしい。
おかしい気がする。
けれど、僕はそれだけの理由で自分を通すことなんてしない。
「分かりました」
霧島の後をついていくと、二人の男が談笑していた。
中年の男と若いチャラ男であった。
そこに霧島が話しかける。
「中島のおっさん、居てくれてよかったよ……そっちの男は?」
「野口君だ。私と一緒でライフゼロなんだ」
「っす。野口っす。ライフゼロっす」
中年男の方が中島。若いチャラ男が野口らしい。
「隣の少年は?」
中島が聞く。
「僕は伊南悠と言います。ライフは一つです」
「“必勝法”を使おうとしたんだが、信用できないって断られたんだ」
と霧島が言う。
「霧島君もひどいな。私がライフゼロだからって乗り換えたのか」
「いいじゃねぇか、というかここにいる奴は全員運がいいぜ。俺は今度こそ生み出したんだ、そう“スーパー必勝法”をな!!」
場が静かになる。
ゴクリ、と誰かが唾をのんだ音が聞こえた。
そして霧島が説明を始めた。
途中までは僕に対して行った必勝法の説明と同じだった。
「でだ。こっから先が新しいんだが――」
霧島は言う。
「スマホをこの4人で交換する。時計回りでも反時計回りでもいいが、交換するんだ。そうすれば、誰か一人が裏切っても、そいつは死ぬだけ。なぜかって、裏切り者のスマホを持っているのは裏切り者がどう頑張っても死ぬことがない奴なんだから。つまり4人でスマホ交換をすることで、絶対に誰も裏切れない状況を作り出すことができる」
確かに。
2人だけで同じことをやろうとすると、裏切りが最強だった。なぜなら相手が死ねば自分のスマホを回収できるから。
でも4人だとそうじゃない。裏切り者のスマホを持っているのは、裏切り者が持っているスマホの主とは違う。よって裏切りしても殺されるだけ。これは3人以上に対してなら同じことを言えそうだ。
確かに裏切り者が得をしないシステムにはなっている。
でもこれ、本当に必勝法になってる??
例えば、それぞれのスマホを、霧島→僕→野口→中島→霧島と渡すとする。そして霧島のライフを2つにしたとする。すると○×ゲームに参加できるのはライフ的に霧島しかいない。けれど霧島が持っているのは中島のスマホだ。
「あ、そうか」
気付いた。
○×ゲームの操作は会場にあるパネルで行う。つまりスマホは使わない。
今の例だと、霧島は会場でプレイすることになる。
でもスマホを持っているのは僕だ。だから僕が霧島の○×ゲーム中に霧島のスマホを操作して、ライフ譲渡を行えばいいんだ。
それで必勝法が完成している。
「つまり、○×ゲームにはスマホがいらないから?」
僕は呟いた。
「そういうことだよ、悠君。俺って天才だろ?」
霧島がそう言ってくる。
でも確かに。あの一瞬で、この改良案に気付けたらなら天才と言っても良いかもしれない。少なくとも僕よりは頭が良いと思う。
「どうだ? この方法を使えばライフは合計で2つあればいい。ちょうど俺と悠君が2つずつ持っているから」
「――やべぇっす! 最高っす! ライフゼロになった時はあのクソ女百回殺してやろうと思ったすけど、俺にも運があったっす!!」
チャラ男の野口が大興奮している。
「私も異論はない。最高の必勝法だ。ライフゼロの私にもチャンスがあったとは……」
中島のおっさんが言った。
「もちろん悠君もオッケーだよな?」
「え……」
返答できない。
ただずっと、霧島の――負の感情を纏った霧島が頭の裏にこびりついていた。
「伊南君! 私からもこの通りだ! 一緒にやってくれ!」
「おなしゃっす! おなしゃっす! これしかないんっす!」
ライフゼロの二人からお願いされてしまう。
「あ、じゃあ。分かりました」
ダメだという気持ちもあったけど、いつもの癖で頷いてしまった。
霧島が手を叩いた。
「よし、スマホ交換する前に全員、自己紹介しておこうか。俺は霧島裕也だ。ライフは1だ」
「私は中島太一だ。私は不器用でね、始まってすぐ後にスマホを落としてしまったんだ。そしたら娘くらいの年齢の女の子が拾ってくれてね、返してくれるのかと思ったんだが、ライフを抜かれてしまったんだ……まあスマホは返してもらったから、こうしてチャンスが生まれたわけだし、最悪ではなかったが」
「俺は野口竜馬っす。開始早々に○×ゲームで勝てたまでは良かったすけど……ライフで女とヤったすけど、寝て起きたらライフも何もなくなっていたっす。あの女絶対許さないっす!」
「なるほど、二人ともひどい女に引っかかったんだな」
うんうん、と霧島が頷く。
そして僕に目線を送る。
「あ、えっと、僕は伊南悠です。ライフ1です」
「よし、じゃあスマホ交換をしようか。みんな離れて円周になるようにしてくれ」
霧島がそう言った。
僕、霧島、野口、中島の順で円を描くように並んだ。
「スマホを足元に置いて、合図と同時にゆっくりと時計回りに移動するんだ。いいな?」
霧島の声で、僕以外の3人は足元にスマホを置いた。
「ん? 悠君?」
霧島に不審がられる。
でもやっぱりスマホは置けない。
霧島の負の感情が、ちらついている。
同時に僕はとある可能性に気づいたいた。
この新しい必勝法の、穴を。
「やっぱり駄目です――」
僕は言った。
「だってこの中の3人の誰かに、死体のスマホを持っている人がいたら成立しないですから」
「そんなっ、ことはっ!」
霧島は明らかに動揺している。
この欠陥に気付いたからだろうか? ――それとも、全く別の要因か。
「別に可能性の話です。霧島さんのおいたそのスマホが本当に霧島さんの物か、それが分かる方法がないということだけなんです。3人中一人でもそういう人がいたらダメなんです。だから、もしかしたらそんなひどい人がいるかもしれない。だから僕は遠慮しておきます」
僕は軽く会釈をして、「では」と言って、去ることにした。
霧島が呼び止めてくることはなかった。