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17「伊南悠3」


 ゴム手袋は個室にあったことを覚えていたので、付けてきた。



 よし!


 死体を漁るのはつらいけど、頑張ろう!



 僕は会場をうろつきながら、死体を探す。




 パン――発砲音が遠くで鳴った。


 どっちだ!?

 その音が聞こえたってことは、誰かが死んだってことだ。



 僕はダッシュで探す。

 すると血を流して倒れている人を見つけた。


 しかしすぐ傍に人がいる。女性だ。

 女性はすぐに去った。ただ、その手にはスマホが握られていた。



 ……僕と同じことを考えている人は、結構いるようだ。



 僕は死体を見ないようにして、その場を去った。






 一時間ほど経ったと思う。


 未だにスマホはゲットできていない。


 これは、死体がないからじゃない。実際、数分に一回は発砲音が聞こえてくる。



 同業者が問題だ――



――なぜかは分からないが、既に死体のスマホを持っているはずの人間が、まだ死体狩りを続けているのだ。


 正直、訳が分からない。

 スマホが一つあればFirst Stageは突破できるはずだ。


 なのに、ずっと続けている。

 もしかしたら、なるべく他人を蹴落とそうと考えているのかもしれない。



 ……正直、厳しい。

 このまま探し続けても、制限時間内に死体のスマホをゲットできるかは微妙だ。




「はぁ……僕はどうしたら」


 ベンチに座って、ため息をつく。


 別の方法はないか、スマホでルールを眺める。

 でも上手い方法は思いつかない。


「本当に、どうしたら」


 僕は死ぬのだろうか。

 確か総理の女の子は、First Stageで半分が死ぬと言っていた。僕もその半分に入ってしまうのだろうか。





 いつの間にか、すでに日が落ちている。

 空は真っ暗で、辺りを照らすのは街灯の光だけだ。


 ルールは何度も読んだが、何も思いついていない。

 ……いや、一つだけ思いついたことには思いついたけど、今はできない方法だし、はっきり言ってリスクも高い方法だ。


 上手い方法がないか考えながらも、死体スマホ漁りのチャンスは窺っていたが、それも結果に結びつかず。


 何か、ないのか。

 ベンチで一人、悶々と考えていると、男が僕の隣に座った。


「ちょっと隣失礼するよ」


「あ、はい」


 それはロン毛の男だった。


「俺は霧島裕也だ」


「あ、僕は伊南悠です」


 霧島と名乗った男は、どうやら僕と話したいらしい。


「いやー、実は参ってるんだ。悠君はライフ1つかい?」


「ええ、そうですね。霧島さんは?」


「いやー、俺もライフ1つだ」


「お互い大変ですよね」


 僕はいつもの調子で話す。


 相手がいろいろ話したいタイプだったら、相づちを打つだけに徹するが、逆にいろいろ話しかけて欲しいタイプなのかもしれない。それは分からない。

 だから、初対面の相手だったら、喋った量の合計が同じくらいになるようにするのが基本だ。


「でも」

 僕は言う。

「同じ境遇の人がいると分かって、ちょっとやる気を貰えた気がします」


「お? そう言って貰えて嬉しいね。そうだ! せっかくなら俺と組まないか?」


「え……とても嬉しいですけど、霧島さんに迷惑がかかるといけないので」


 別に断り文句としていったのではない。

 本当に、嬉しいとは思ったけど、迷惑がかかるかもしれないから……


「ほらほら、そんなこと言わずにさ。実は俺、必勝法を編み出したんだ」


「え!? 必勝法ですか!?」


「ああ。ただ……一人じゃ出来ない方法なんだ」


「それってどんなものですか?」


「まず俺が悠君にライフをあげる」

 霧島は言った。

「次に、悠君が○×ゲームに参加して、ゲーム内で俺にライフを一つ渡す。そして引き分けにする。これだけだ」


 言われたことを反芻する。

 確かに……! そう思った。


 元々、ライフは0にできることには気付いていた。

 だけどそっか、ゲーム中にライフ譲渡するのか。盲点だった。


「……あの、自分で聞いといてあれですけど、教えてくれるんですね」


「なんだ? 俺と組まないのか?」


「えっと……必勝法で迷惑がかからないのなら、組みたいですけど」


「大丈夫だ、悠君が信用できる人間だと分かればいい。ライフを渡すと、俺のライフは0になる。そこで悠君に裏切られると破綻するんだ」


「あ、確かに。でも、僕は裏切りませんから、安心して下さい」


「そうだ……きっと悠君は裏切らない、そう思っている。けど、俺は信じられない。だから儀式をしないか?」



――この時までずっと、僕は乗り気だった。


 なんて素晴らしい方法なんだと、なんて僕は運がいいんだろうと、そう思っていた。


「……儀式ですか?」



 僕はここで少し警戒した。


 なぜか? それは霧島に、負の感情が見えたから。




 そもそも僕はなぜ、他人を傷つけたり迷惑かけたりすることを極端に嫌っているのか?

 それは相手の負の感情を察する能力が高いから。それも多分、異常なほどに高レベルで。


 儀式をしないか? そう言った霧島に、僕は負の感情を感じ取った。

 負の感情の種類は分からない。

 不快、憎悪、悪意、怒り、悲しみ……そのどれかは分からないが、警戒するには十分だった。



「ああ、スマホを交換するんだ。命に等しいスマホを交換し合う仲なら、信用できる」


 霧島は堂々とそう言った。



――霧島の中で負の感情が増大していくのを、僕は見た。



「えーと、スマホを渡した瞬間に裏切られたらどうするんですか?」


「それは……」


 言葉に詰まる霧島。


 僕はなんと言葉をかけようか、少し迷った後、


「霧島さんに組んで欲しいって言われたのは嬉しかったですけど、初対面だし、信用できないと思います。あ、別に霧島さんが悪いとか言っているわけじゃないですよ? ただ……必勝法ではないと思っただけです」


「……」


「まあ、もし絶対に信用しないといけないような方法があるんなら別ですけど……」


 霧島は何も言わない。


「お話ありがとうございます、少し楽になりました」


 僕はそう言って、一礼して去ろうとした。


 いい人だと思うけど、僕は霧島に命をかけられるわけじゃないし、霧島にとっても同じことだ。

 でも良かったと思う。こうやって忠告しておけば、同じようなことを誰かに提案して、霧島が死ぬことはなくなっただろうし……



――霧島が見せた負の感情、あれはなんだったんだろう?


 少しだけ、そう思った。



「ちょっと待った!!」


 霧島に呼び止められた。


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