14「河野英善4」
いつの間にか、空は暗くなっていた。
会場には電灯が灯っている。
夜とはいえ、人の数は減っていない。
やはり命を懸けたデスゲーム。夜だからおやすみとか言ってられないだろう。そもそもライフが1の奴は、寝ることができるのだろうか? もし一度寝て、そのまま昼の一時まで眠ってしまったら大変だ。普通ならありえないことだが、自分の命がかかっている状況下で、そう断ずることができるか? ライフ1の状態でいつものように眠れる奴がいたら、そいつは常人の神経ではないだろう。
「ちっ、来てやったぞ」
奴隷の長井がやってきた。
新たな奴隷を見つけたようだ。
「おお、これで3人目だ。あと7人だな。頑張ってくれ」
「くそっ!!」
目標がないとやる気が上がらないと思うので、10人の奴隷を捕まえられたら、スマホを返してやると言ってある。一時間以内に連れてこいっていうよりもこっちの方が、長井もやる気になるだろう。
長井は奴隷と、奴隷のスマホを引き渡し、また新たな奴隷を狩りに行く。
本当に良い拾い物だった。最初の奴隷に長井を引けたのは、河野英善の持つ天運だろう。
「さて」
新しい奴隷を観察する。
それは長い髪に顔が隠しながら、俯いている。
ふむ、悲しそうにしても状況は変わらないぞ?
「お前は……そうだな、死体回収班になってもらおうか」
我が英善カンパニーは着々と規模を拡大している。主な事業は二つだ。
・新たな奴隷の獲得。スマホ交換法による
・死体からスマホを回収
スマホ回収は猿でもできる。
新しい奴隷の能力は低そうだ。
「誰かが死んだのを見つけたら、その死体からスマホを誰よりも早く奪い取れ」
「……わ、分かりました」
「見つけるたびに私のところにスマホを持ってこい。スマホを10個見つけたら、お前のスマホを返してやる」
「……はい」
「ズルはするなよ? お前を殺すことなんて簡単なんだからな?」
「あの」
奴隷は言った。
「なんだ?」
「10個なんて、無理です」
確かに、お前には明らかに無理だろう。どれだけ運が良くてもな。それほどまでに無能である。
「仕方ない。4個でいい。4個見つけたらお前のスマホを返してやる」
「わ、分かりました。でも本当に4個見つけたらスマホを返してくれるんですか?」
「ああ、それは約束する。私は絶対に嘘をつかない男だ。そこだけは安心してくれ……それとそうだ、死体からスマホを取るんだ。ゴム手袋を使った方がいい。自室にあるはずだ。それをつけて集めてくれ」
「は、はい!」
奴隷はいくらか元気を戻して、去っていった。
4個。
絶妙な塩梅だが、最初に10個と言ったのは、その後に減らした方が効果的だと思ったからに過ぎない。奴隷が何と言おうとも、最終的には4個にするつもりだった。
奴隷はこう思ったに違いない――4個ならなんとかなる! と。
無理だ。
あの奴隷では無理だ。
あの奴隷が普通にやったら1個か2個というところだろう。運が良くても3個。
私の鍛え上げた観察眼はあまりに卓越している。
ギリギリ不可能なラインを見定めでいる。
もちろん、ものすごく運が良ければ4個見つけられるだろう。
だからと言って、奴隷のスマホを持っているのには変わりない。すべての選択権はこちらにあるのだ。実際にスマホを返すか、返さないか。それはその時に考えればよい。
「ふむ、悪くないペースだな」
スマホで録った記録を見て、私は呟いた。
我が英善カンパニーはデスゲームの中でも、拡大を続けていた。
「さて、人数が集まってきたしそろそろ新たな事業を始めようか」
薄暗い中、私は呟いた。