13「河野英善3」
このゲームを作った奴は質が悪いと思う。
“ライフ”という言葉は、明らかにミスリードを誘っている。
・ライフは0になっても、○×ゲームに参加しなければ死なない
・死んでもライフは0にならない
ライフというのは“ライフ”という記号でしかなく、命という意味は乏しいのである。
本当の攻略法とは何か?
そもそもFirst Stageを突破するだけなら、私はそれほど頑張る必要はなかった。
回収した中島太一のスマホ。死んだとしてもスマホは使えるし、ライフもそのままだ。死体からスマホを回収して自分にライフを送る。それはFirst Stage突破法の一つである。
――だがそれは決して、攻略法ではない。
このゲームは正しくやれば、誰も死なずにクリアすることだってできる
“錬金術”もその一つの例である。
しかしそれは突破するだけ。
総理のガキは言っていた――残り100人になるまでやると。
ならばこのFirst Stageの攻略とは、ただ突破するだけじゃ足りない。
いかに他人を蹴落としながら、それでかつ、自分にリスクがない方法で戦うか。
それがこの私、河野英善の思考だった。
先ほどの霧島との戦い――あれは私の理論の正当性を示すための検証だった。
本当の攻略は、これからである。
新たなる標的を探し、歩く。
ちなみに“錬金術”は行わない。死体のスマホを使えばできるが、時間の無駄だと判断した。
私は行き場のなく彷徨っているロン毛の男を見つけた。
次の標的はあいつにしようか。
「こんにちは、少し話をしてもいいかい? 中島太一というんだが」
ロン毛は、長井政人と名乗った。
長井もライフ1つだと言う。
そこから霧島に対して行った方法と同様に進める。
気の良いおじさんの振りをする
→組まないか? と提案
→裏切らないためにスマホ交換をしようと提案
本当は黒服の格好をして「お前のスマホが壊れているようだ。交換だ」などとできれば良いが、黒のスーツもサングラスもなかった。やっぱりFirst Stageは甘々だ。有効な方法が潰されてしまっている印象がある。
ただまあ、こんな穴だらけの方法でも――こいつらは馬鹿なのか、あっさり成功してしまう。
私相手なら出し抜けるとでも考えているのだろう。私の演技に気付いていない。スマホが偽物であることにも気付いていない。
楽勝だった。
「な!?」
長井は言った。
「――なぜ死なない!? 今、対戦相手は決定したはずだぞ!?」
どうやら長井には、霧島に比べれば多少の知能はあったようだ。
長井は私のスマホを操作してライフを0にした後に、○×ゲームにエントリーしようとした。
しかし渡したのは、既に死んでいる中島太一のものだ。
(ルール引用)
~~~~~~~~~~~~
・以下の条件のいずれかを満たした場合、引き分けとなり、ライフ数はミニゲーム開始時に戻る。
引分条件A)全てのマスが埋まる
引分条件B)プレイヤーのどちらかが死亡する
~~~~~~~~~~~~
つまり、対戦相手が決定し、ゲームが始まった瞬間に引分条件を満たし、引き分けとなってしまう。
「ど、どういうことだ!? 何度やっても、プレイヤー死亡のため引き分けになりましたって!? おかしいだろ!? お前はすでに死んでいるはずだ! なのになぜおまえは生きている!?」
「おかしくはないさ――」
私は言った。
「――中島太一は既に死んでいるのだから」
「どういうことだっ!?」
「まだ分からないのか。そもそも中島太一とは誰だ?」
そこまで言うとようやく長井は思い至ったのか、顔を青くする。
「なっ!? まさか!?」
「そうだ、私は中島太一ではない。そうだな、これからはボスとでも呼んで貰おうか」
――直後、「死ねっ!!」の叫び声。
長井が私を襲ってきた。
迫る拳から咄嗟に逃れたものの、そのせいでスマホを落としてしまった。
「へっ。危なかったが、まあいい。スマホはこっちに戻ったし、良いことも教えて貰ったしな」
長井にスマホを取り返されてしまった。
しかし――どこからともなく、数名の黒服がやってきた。
長井はなすすべなく取り押さえられてしまった。
「2978番、長井政人。警告だ」
「なっ!? 俺は暴力は使ってないだろ!? 当たってないはずだ」
「当てていたら即射殺だ。暴力を背景にした威嚇行為も、“同意なき暴力”に含まれる。警告1回だ」
黒服は淡々とそう言った。
ここまでは予想通りだ。私はこの後、どうなるのか、実は気になっていた。私の予想通りではなかった場合、この作戦を見直す必要があるかもしれないが――
「お前、奪われたスマホだ」
黒服は私に、長井のスマホを渡してくれる。
上手くいった。すべて私の予想通りだ。黒服が単に“お前”と呼んだことを含めて。
「おい!? それは俺のスマホだぞ!? 返せ!!」
黒服は何も言わない。
そのまま、長井の拘束を解き、どこかへと去って行った。
「ふむ、では、取り返しに来るか?」
「てっめぇ!!」
「私のことはボスと呼べと言わなかったか? 死にたいのか?」
私は長井のスマホを操作する。
「やっ、やめてくれ!」
「死にたくないなら、私の言うことを聞くように。そうだな、まずは中島のスマホは返して貰おうか」
「くそっ!」
長井は悪態付きながら、スマホを返してきた。
「……何が目的なんだ。俺を殺さないってことは何かをして欲しいことがあるのか?」
「そうだな。まずはこれをやろう」
私は霧島のスマホを長井に投げる。
「私が行った方法と同じように、生きている参加者のスマホを奪って連れてこい。一時間後にここに集合だ。来なかったら……君のスマホは私が持っているとだけ言っておこう」
「くそっ!!」
私は一人目の奴隷を手に入れた。