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12「河野英善2」


 さて、誰をターゲットにしようか。


 私は会場近くのベンチでうなだれている男を標的にすることに決めた。



「隣、いいかい?」

 私は言った。

「どうしたんだ? つらいことがあったのか? よければおじさんが話を聞こう」



 私は気の良いおじさんの振りをして、そう声をかけた。



「はは、自己紹介をしてなかったね。私は中島太一(・・・・)だ。よろしく」


「……霧島裕也だ」


「霧島裕也君だね。どうしたんだい? もしかしてまだライフ1つ組なのかい? はは……実は私もまだライフ1つでね。でもまだ開始してから2時間程度だ。こっからが本番だろう?」



 霧島は、30頃の男だった。



 そして霧島と会話した。違うな、霧島は動物のようにわめいていた。私はそれに頷いていただけだ。

 曰く、この○×ゲームは絶対に引き分けになる。だからどうしようもない。もっと早くに行動して、理解が浅い相手をハメるしかなかった、うんぬんかんぬん。



 馬鹿なのだろうか。

 心底そう思った。

 確かに○×ゲームは正しくやれば引き分けになる。だが、そんなことは関係ない。というかこのFirst Stageは甘々だ。死にさえしなければ、突破のチャンスがある、というかチャンスしかない。



 もう、本当に、いくらでも勝ち筋はある。

 なのになぜ、それほど○×ゲームでの勝ちに固執して、後悔しているのか。


 霧島の思考は三流以下だ。

 理解は出来るが、同情は出来ない。




「そうだ、せっかくだ。私と霧島くん、二人で組まないか? 三人寄れば文殊の知恵じゃないが、一人でいるよりも絶対にいいはずだ」


「確かにそれは同感だ」


「だが、裏切られるかも分からん。だから儀式をしないか?」


 私はついに仕掛けることにした。


「儀式?」


「ああ、シンプルなものだ。互いのスマホを交換するんだ。そうすれば互いに心臓を握り合ったのと同義。否応なく――」



「――そんなことできるわけがないだろ!?」


 霧島は怒鳴った。


「そうか」

 私は落胆したかのように演じた。

「良い方法かと思ったのだが」


「いや、待てよ……少し考えさせてくれ」


 霧島は何かに気付いたのか、俯き考え出した。



 私は内心でにやりと嗤った。

 この程度に、手間取らせやがって。



 そして霧島の提案。互いに10メートルほど離れたところに立ち、足下にスマホを置く。私はそれを飲んだ。


「中島のおっさん! ちゃんと本物のスマホを置いただろうな!?」


「ああ、ちゃんと光っているだろう? それに偽物なんて私たち参加者が持っているはずもないだろう?」


 私は確かに本物を足下に置いた。

 そう――中島太一の本物を。






 私は偽名を名乗っていた。

 その偽名――中島太一とは私が観戦していたときに、死んだ男の一人だった。


 開始から1時間も経てば、ほとんど誰も死人に興味は示さない。

 死体はどこからか銃で撃ち抜かれた数分後、黒服たちが回収する。

 その後、汚れた場所を丁寧に掃除する。


 重要なのは死んでから回収するまでに5分の時間があると言うこと。計ったら、ぴったり5分だった。


 その間に死体に近づいてスマホを回収するのは簡単なことだった。

 遠目では、死体に近づく俺は、狂った死体撮影趣味の人間だと思われる程度だろう。


 なんら怪しまれることはなかった。




 私は死体のスマホが有効であると、半ば確信していた。

 それはなぜか。与えられた個室。


 そこにはベッド、冷蔵庫、流し場、ポット、保存食の類いが入ったタンス、服が入ったクローゼットなどがあった。

 小物類だと、歯ブラシやはし、こっぷ、紙とペン、マスク、ティッシュ、充電器、化粧品や剃刀まである。そんな中に、ゴム手袋もあった。

 

 なぜゴム手袋が……と思ったが、昨日の段階でピンと来ていた。

 デスゲーム、ということは死体が発生するはずだ。死体の持つ何かを押収するような展開もイメージの中にあった。


 なぜ死体がぴったり5分放置されるのか。

 それは簡単なことだった。死体のスマホを使う展開を、運営側が求めているからだ。


 だからこそ、私は確信したのである。






 私と霧島はゆっくりと互いの方向に向かって歩く。


 すれ違った瞬間、霧島は走り出した。


 その行動は知っていたさ。でも私は動じることなく歩き、ゆっくりと霧島のスマホを手に取った。


「馬鹿が! お前のライフはもう0だ! 馬鹿なおっさんだよ!!」


 霧島は私――ではなく中島のスマホを操作して自分にライフを送った。

 そう私の手元にあるスマホに通知が来た。


「死ねええええええ!? え、え……え? なぜ死なない?」


「霧島君、君は何を言っているんだ?」


「は? だっておっさんのライフはもう0なはず……死ぬはずじゃ……」


「ふむ、霧島君は2点勘違いしているようだ」

 私は冥土の土産に教えてやることにした。

「まず1点、ライフが0になっても死なないということ。ライフが0になって死ぬのは○×ゲーム中のみだ。そして2点目、そもそも私は中島太一ではない」


 霧島は、頭が追いついていないのか間抜け面になっている。



 私は霧島のスマホを操作する。


 まず、ライフ2つを本当の私――河野英善へと送る。

 そして、○×ゲームにエントリーした。



 通知がすぐに来る。

 会場の決定を知らせるメールだ。


 そのすぐ後に、また通知が来る。

 対戦相手が決まったというメールだ。


「じゃあね、霧島君。君のスマホも大切に使わせて貰うよ」



 ○×ゲームのルール適用範囲を間違えてはいけない。



(ルール引用)

~~~~~~~~~~~~


・『負けたら即死! ○×ゲーム』とは、対戦相手が決定してから勝敗もしくは引き分けが決定するまでの期間行われる。


~~~~~~~~~~~~




 2つ目の通知が来た直後、パンと乾いた音が響いた。


 霧島は赤い鮮血を撒き散らしながら、倒れた。


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