6話
「あ......フレッドさん」
「よっ」
シトラは外で星空を見つめていた。以前静かな所が好きだと言っていたから場所は予想がついていたらしいフレッド。シトラはフレッドを見るなりぺこりと頭を下げる。
「もう食事はいいんですか?」
「あぁ、中もだいぶ静かになってきたし、俺は食うことより人と話すことの方が好きだ」
シトラが座っている所の横に立つ。
「座ったらどうですか?」と言われるが横に首を振っておいた。
「嬢ちゃん、シトラって名前だったんだな」
「......今まで教えてませんでしたか」
「あぁ、アストが言ってたからな、不思議だなぁ、あいつより一応付き合いは長いのに」
ぶっきらぼうに言うと「......すみません」とシトラは呟いた。
別に謝ってもらいたかった訳では無いんだけどなぁ。とフレッドは唸る。
この子はとても難しい。
意思疎通が下手、というか極端というか。たまにもどかしくなる。
「フレッドさんはアストの事、信用して下さってるんですよね?」
「まあ、嬢ちゃんが連れてきたやつだしな。悪いやつじゃないだろ?」
その時、ぶわっ、と強い風が吹く。その瞬間シトラのフードが頭から落ちた。
「そういえばそれ、アストには言ってないのか?」
「まだ......その時じゃないかと」
耳の上あたりに生えたそれを擦り、フードを深く被り直す。
「後じゃ取り返しつかなくなるかもしれないぞ」
「その通りです、でも......」
嫌われるかもしれない、とボソリと呟く。それはシトラが異様な目で周りから見られる象徴。
他の世界から来た彼に見せたら怖がってしまうかもしれない。
フレッドは「俺にはそれ見せても大丈夫なのになぁ」と肩を竦める。言い得て妙、というやつだ。ぐっと言葉を飲み込んでしまう。
だってこの人にはまだ彼のことを話していないから。彼がフレッドに言わないということは聞いて欲しくないことだから。
しゅん、としているシトラに
「無理やり言わなくてもいい」とフレッドが言う。
「俺とアストの事を信用してくれてるんだったらそれでいいんだよ。無理に考える必要は無いし、強制なんてしないから、俺はな」
優しい人だ、と思った。あのギルドの中でこの人だけは安心して喋れたのもこういう所があるからだろう。
「......ありがとうございます、気持ちが整ったら、アストにも教えます」
強くて、人を気遣える優しい人。そんな人になれたのなら。
「まーなぁ、俺だって嬢ちゃんが連れてきた訳じゃなかったらアイツのこと信用してなかったかもしれないし」
「嬢ちゃんがアイツのこと助けるんだよ」
俺が助けたわけじゃない、俺はノっただけだ、とこちらの様子を察したように言った。
「もうちょっと自信持てよ、意外と人ってのは自分の事、見えてないからな。」
「自分のことが、見えてない、ですか」
「あぁ、特に嬢ちゃんはアストが気になって仕方がないらしいしな」
言い方にはツッコまないでおく。まああんな顔してたら当然か、と付け足す。アストは気づいていないようだが、彼が元の世界の話をする時や周りに人が多くいる時、とても不安そうな顔をするのだ。
彼も自分の事が見えていないのだろう。強がっているのが見え見えだから、踏み込まない。
一定の距離を保たないと、また見捨てられてしまう。それが怖いから。
「嬢ちゃんどうした?」
「あっ......いえ、大丈夫です」
一瞬で我に返った。疲れているなら休もうな、とフレッドは心配してくれた。
「少し、考えてみます」
「ん?なにをだ?」
こっちの話です、と返すとそうかそうか、と深くは踏み込んでこなかった。