2話
「結界って......まさか人とか魔物入れなくしたり会話を流出させないようにする魔法的なアレ?」
少女はなにを今更、と言わんばかりの不思議そうな瞳でこちらを見ては首を傾げる。
整理しよう。つまりここはどこか知らない森で、魔法が存在して......
異世界、という言葉がしっくりくる。漫画などではよく見る、トラックに轢かれると飛ばされるあそこだ。本来ならこれは夢で、きっと漫画に影響された厨二病患者扱いなのだろう。
しかしここは現実だろう、と自身の勘が警告する。
だって、ここまで音や匂いを鮮明に感じられるのは夢だとしたらおかしいのだ。あと、自分は夢の中でここは夢だと気づけたことがない。
「大丈夫ですか?」と少女が声をかけてくれる。段々と意識がはっきりしてきたから言えるが、とても可愛らしい声だ。
「......驚かないで聞いて欲しい」
頭上にはてなを浮かべる少女。そりゃ出会ったばかりの男性に驚かないで聞いてくれなんて言われても普通は不審者扱いだろう。
でも、これしか自分が有利に動ける方法はないのだ。少女は不思議そうな顔をしつつも話が切り出されるのを待っているようだ。
「僕はここじゃない世界から来たと思う」
「えっ......」
予想より落ち着いた声で驚く。僕が期待してた答えが「え〜!!そうなんですか!!?」レベルだとしたら彼女のは「へぇ、そうなんですか」といったところだ。度合いがだいぶ違った。テンションが違う。
とか考えていると。
「噂でたまに聞きます、違う世界から来た方がこの世界はいること」
ふわりと笑うと、どこか子供のように目を輝かせる。
「私、違う世界の人に会うの初めてで。よければあなたの世界のこと、教えて頂けませんか?」
......どうやら、天は僕に味方したらしい。正直とっ捕まえて実験台とか全然あると思ってました、ハイ。
「あっえっと......僕は日本というところから来て......いや、その前に。僕は巴明日人。アストでいい。君の名前を教えてくれない?」
少女は驚いたように目を見開くと、かっと顔を赤くし、ブンブンと振る。ヘビメタやらせたらすごそうとか考えてしまった。反省。
「す、すみません。父からちゃんと名前は名乗るよう教えられてきたのですが」
くぅ、と喉を鳴らす。興奮し過ぎた恥ずかしさと教えを忘れていた恥ずかしさで我に返ったらしい。久しぶりにちゃんと人と話している気がするな、と独りでに笑みが浮かぶ。
「あっあまり笑わないでください!!え〜、こほん。私はシトラと言います、えっと、あなたの事はアストさんと呼べばいいですか?」
わざとらしい咳払いをする。年頃の少女という感じがした。
「呼び捨てでいいし敬語じゃなくていいよ」
「えっ」
正直、同じくらいの子に敬語は少し距離を感じて嫌だし、全然話さないクラスメイトでさえタメだったならこの子もタメだとありがたい。シトラは驚いてキョロキョロ周りを見渡すと、こちらに小指を差し出す。
「わかりました......じゃなくて!!えっと、わ、わかった......じゃあよろしくね、アスト」
あたふたと挨拶をしたあとこちらに小指を向けてくる。僕が小指を出している理由をわからないでいると、こちらの手を引っ張り、彼女の小指と絡ませる。いわゆる指切りげんまんだ。
「この国の挨拶なの」
なんとなく、この子は信用していい。そう思えた。