第1章【初めの街にて】1話
ザァッ、と耳をくすぐる音がする。自分は寝っ転がっているようだ。ふと目を開けようとはするものの瞼が重い。
しかし自分の瞳はぼやけているものの明るい光と自身の瞼に流れる血を確認した。
自分は死んだはずだ。
つまりこれは黄泉の国か。最近の黄泉の国はこうも明るいのか。昔の黄泉の国なんて知らないが。
ぴくり、と鼻を甘い匂いが掠める。人工的な甘さと言うより、自然な甘さ。小学生の頃に似たような匂いを嗅いだことを思い出す。ふわり、と優しい風に運ばれてくる。まるで自分を落ち着かせるかのように。
ふと気づく。これは花だ。花の匂いだ。段々と体も楽になっていき、腕も感覚が戻ってきた。瞼を開くと蒼い空を見ることが出来る。そして周りには生い茂った木々。最初に聞いた音は風で葉が揺れる音だったようだ。
どこか子供の頃に父と山に登った感覚を思い出し、安堵する。
真横に目線を向けると人が居ることに気づく。いわゆる地獄の鬼か、なんて悠長に考えていたがよく良く考えればおかしい話だ。人は意識が無いうちに運ぶのが1番軽い。それじゃあこいつはなにをしているのだ。
寝っ転がっている僕を見て笑っているのか?
いや、違う。
それとも僕に気づいていないのか?
いやいや、それも違う。
恐る恐る顔を覗き込む。第一印象は白銀。そしておそらく体格的に少女。不安そうな顔でこちらを見つめてくる。
片目を銀髪の髪で隠し、深緑のローブに身を包んだ少女の瞳は金。その美しさに見惚れてしまった。
その瞳には、一切の曇りを感じなかったから。
まるで、聖母の様だ、と錯覚するほどだ。
一瞬コスプレかとも思ったが、違和感がないのだ。確実にコスプレではない。
見つめすぎてしまったようで、少女はフードを深く被る。照れ性なのだろう。いやそんな事よりも。
「ここはどこで「どっ、どこから入ってきたのですか!!?」えっ」
その瞳は怯えともとれる。よくよく考えれば確かに何故自分はこんなところに居るのだろう。ぺちり、と自分の顔を叩いてみる。痛い。
「......ごめん、僕もよく分からないんだ」
事実である。冷静になってみると訳が分からない。
何故痛みを感じる?それは生きているからだ。
匂いを感じるのも光を感じるのも。そして痛いということは夢ではない。
そして何より、今の衣装はブレザーなのだ。死んだ時と同じだ。おかしな話である。
まさか、また生きることを強制されるというのか?
それとも、死んだのが夢だったとでも言うのだろうか。じゃあここは一体どこ?
「そう......ですか」
なんとまあ、その少女は簡単に自分を受け入れた。オレオレ詐欺に騙されるタイプだろう。人を疑わないというのは自分を滅ぼす。昔の自分のように。
「たまにいるんです、結界を張っているのに森に入って来れる人」
なるほど、たまにあるのであればおかしなことでは無いだろう。
ん?結界???
その言葉に、当たり前に引っ掛かりを覚えた。
翻弄される主人公くん。