11話
ドラゴンは一直線に僕を狙ってくる。この中でいちばん無能なのが誰だか察したのだろう、ナイス観察眼だ。なんて言っている場合でもなく。
「ッ、ちょぉぉぉおおお!?来んな!!!」
と情けなく叫びながら目をつぶって短剣をブンブンと振り回す。「落ちつけアスト!!」というフレッドの声も聴こえるがこれで落ち着けるかっての!!!そもそもビジュアルがムリ!!!!
その時、ガツンと短剣に何かがぶつかる音。
一瞬強い力で押されたが、それも束の間、体が開放される感覚。不思議に思って目を恐る恐る開けてみると、そこに居たのは1箇所の爪が粉砕した、自分と同じ位の大きさのドラゴンだった。
ぶつかったのは爪だろうか。現に辺りには白い粉が落ちていてまるで爪をヤスリか何かで削ったところを連想できる。
次に短剣を確認する。先程何かがぶつかった音がしたから欠けている可能性を考えた。が。
「傷1つ付いてない......?」
フレッドとシトラは驚いたようにぽかん、と口を開けてこちらを見ていたが、はっと我に返った様子でこちらに駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫!?びっくりしたぁ......」
「いや驚いたな、そんな芸当もできるのか」
正直自分でも何が起きたか分かっていない。そんな顔をしている自分を見たシトラは「もしかして」と興奮したように吐き出す。
「ドラゴンとかグリフォンとかの爪は基本的に攻撃用に魔力で練られているものもあるから、魔力を消したことによって粉砕した、のかな?」
私も初めて見たから分からないけど、とシトラは嬉しそうに言う。そしてシトラ曰く、「殆どの魔物にとって爪やくちばしとか体の固い部分っていうのは強いけど、賢い魔物は攻略されたらかなりの力を失うの。」らしい。
現にこのドラゴンも威嚇はしてくるものの大人しい。
「にしても珍しいな、この辺じゃドラゴンなんてなかなかお目にかかれないぜ?しかも中ボスクラスじゃねーのこいつ、ちっさいけど」
とフレッド。戦闘中には(目を瞑っていたからだろう)気づかなかったが、胸の辺りに紫色の宝石のようなものが見える。
フレッド曰くあれは魔物の「核」らしく、魔力の結晶。あそこから魔力が循環していて、大きいものほど強いらしい。まあ、つまりスライムは雑魚。どの魔物にも核は存在するが小さすぎて見えないものの代表がスライムらしい。
「で、だが」
「このドラゴン、どうしようね......」
とてもこちらを警戒しているらしくずっと威嚇してくる。正直怖い。手を近づけると噛む仕草をしてきて精神的にくるものがある。食われそう。
と思っているとずっと黙っていたシトラがこう言った。
「あの、この子私達で育てませんか?」