9話
「まずは武器の適性を見定める所からだな」
目の前にはウッキウキでグローブをはめるフレッド。そしてこちらは木でできた剣を握りしめている。
事の発端は先程依頼を終わらせたフレッドが帰ってきたことが原因だ。本人曰く、「恐らくだが、ステータスは見えないだけだ。経験値は入るしレベルだって上がるさ」
いやいや、そもそもステータスがあるなんて初耳である。と言ってもフレッド本人には自分が他の世界から来たことは伝えていないしこの世界では一般常識なのだろうからスルーした。
曰く、この世界には魔力で生み出された力と人や自然が本来持ち合わせている力が存在する。ステータスは後者らしく、能力では干渉出来ないらしい。ただ、そのステータスの確認のために魔力を必要とするため僕には見ることが叶わない、といった感じである。
「始めるぞアスト!!」
「おっけー、いつでも来て!」
そう言うとフレッドはこちらに拳を向けてくる。それを剣で振り払う......が。
「痛っ!!!」
そう簡単にはいかないのだ。剣が重すぎて振り払えてもこちらへの反動が大きい。木の剣だろうがこの世界に来たばかりの(おそらく)1レベのクソ雑魚からすればなかなか持たないものだしめちゃくちゃに重い。
そもそもエンチャントが使える前提の武器が多いため、重さなんて関係ないのだろう。腕がピリピリと痺れる。
「あー、デカい剣はお前には難しいか、大丈夫か?」
「あ、アスト大丈夫......???」
心配されてる。マジでごめん。
「次行くか、次!!」
「それなりに大きいし、攻撃に特化した切る、というよりは殴るための剣だ。そりゃ重いわ。」とフレッド。相変わらずフォローも上手い。
「次はこれにしようか」
「えっと......短剣?」
シトラが渡してくれたのは短剣だった。とりあえず木のやつからね、とシトラ。いわゆるダガーという物だろう。軽く、先ほどものもに比べると動かしやすい。
「普通は暗殺者が使うものだったりするんだがな、魔法が効かないのなら後方支援するより近距離戦。防御が出来ないのなら動きやすいように最小限の武器。威力は少ないが最初はこのくらいでいいだろ?」
と剣を振ってみる。ヒュッと風を斬る音。「いい音するね」とシトラは嬉しそうにする。
確かに一応影は薄いし体力テストで反復横跳びだけは8点だった男だ。俊敏性だけなら少しはあるだろう。
「じゃ、ちょっと実践行くか?」
「うん、やってみる」
ぐっ、と短剣を握りしめると、それを合図にフレッドの拳が飛んでくる。加減はしていると言っても意外と怖い。
短剣で拳を受け流し、間合いを作る。が、2発目が来る。もう一方の腕でそれを止め、短剣で腕を狙いに行く。が。
カラン、と腕を短剣ごと弾かれてしまい、短剣が落下する。
「いや〜、アストも意外と戦えるじゃねーか!!将来が楽しみだなこりゃ」
「なあ今一瞬本気出さなかったか?」
「悪いが今のは15%ぐらいだな!」
さすが有名人なだけある。
相手が動けないようにしたはずがするりと抜けられていたようだ。経験の差である。と言ってもこちらは初めてなのだが。
「でもアストすごいよ、あそこまで間合い詰められるなんて思ってなかった!」
「才能はあるな、これは伸びるぞ?今までお前何してたんだ?」
もっと早くから特訓すれば良かったのにな、とフレッド。残念ながらつい先日まで戦いとは無縁な世界にいたので、なんて言えない。
「今後ステータスが上がれば他の武器が使えるレベルにはなるかもしれないからまたその時って感じだな」
「そうですね!あと思ったのは......アスト!」
呼ばれたので振り返るとまた1本の短剣が渡される。
「さっきの戦いで気づいたんだけど数本ストックがあった方がいいと思う、あと二刀流でもいけるんじゃない?」
確かに。さっきは短剣を振り払われ、落としてしまった訳だが、数本あれば話は別だ。直ぐに体制を立て直せる。特に握力は無いわけだし。そして2本持つことで先程作れた間合いにくい込むことだって可能だ。夢が広がる。
「よし、とりあえず武器はこれでいいとして、次は実践行くか!」
「えっ」
......まだ(今日の)特訓は終わらないらしい。