8話
「他にも違う世界から来た人がいるかも!?」
ガタン、と机を叩いてしまう。それは驚きによるものだった。確かに最初会った時にそんなこと言っていたような気もする。
「うん、情報の共有とか必要かなって思ってその人に会いに行くってのはどうかなって。でも都市伝説みたいなものだから本当に存在するかは私にも分からないの」
少しだけ不安げにこちらを覗いてくる。確かに、違う世界から来た人が今どうやって生きているかだとかというのはとても気になる話ではある。
正直、行く価値があるとは思う。ただ、もしも自分の世界とこの世界、そして他の世界が存在するのだとしたら。
それではもしかしたら意味が無いかもしれない。というかなぜこの世界に違う世界から人が集まるのだろうか。きっとなにか理由があるに違いない。
1人でうんうんと唸っていると、シトラが「大丈夫......?」と声をかけてくれた。
「嫌なら大丈夫だよ、でもこれが1番アストのためになると思うの。」
「確かにそうだな......」
「あとね、違う世界から来た人を探すのに旅をしようと思ってる。アストは魔物とか退治できる?」
いや、無理だろ。魔物が存在するなんて聞いていない。もしかしてフレッドが言っていた依頼って魔物の討伐とかなのだろうか。
「僕の世界には魔物とかいなかったからなぁ」
「?あのクルマっていうのは魔物じゃないの?」
「クルマは機械だよ。人の手で生み出された無機物」
「??????」
目に見えてはてなが浮かんでいる。まあ仕方がないだろう。昨日前居た世界について話している時に「車」という単語を出したらこれである。現にこの世界には馬車しか存在しないらしい。不便なものである。
「えー、車の話は置いておいて。僕が行っても迷惑なだけじゃない?」
「そこは私とフレッドさんに任せて。戦いを教えてあげるから!!!」
「それは頼もしいね!!
.............戦いを教えてあげる?」
顔が段々と青ざめる感覚。シトラの方を見ると私に任せてと言わんばかりにガッツして見せてくれた。いやそうじゃなくて。
「......ぼくも戦えるようになるってこと?」
そう聞くとそうだよと言わんばかりに笑顔を見せてくる。
「し、シトラ、僕全く運動出来ないけど大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!フレッドがいるし、私たちがいちから、武器から合うもの選んであげる!!!」
拒否権はないようだ。うっと言葉が詰まるがよくよく考えれば女の子といつ死ぬか分からないほど人がいいあんちゃん2人に守ってもらうだけなんて出来るはずがない。
自分の利益は自分で掴むものである。
覚悟を決めろ。魔法が効かない僕を昨日フレッドが盾役でなら前に出れると言っていた。僕にだって出来ることはあるはずなんだ。
「わかったシトラ、僕に戦いを教えてくれない?」
ぱあっと顔が明るくなる。
「もちろん!!!私が出来ることなんてそれぐらいしかないから......」
心底嬉しそうにニコニコとしている彼女をみると自然と笑みがこぼれる。
それくらい、なんて嘘だ。僕はもうシトラに沢山助けられてきているから。そう伝えられれば。
意気地無しの自分を恨み、拳を握りしめるのだった。