7話
むくりと朝、目が覚める。
いや、正確には昼だった。見慣れない天井だ。
そういえば昨日死んだら何故かこの世界に飛ばされていたのだった。
よっぽど疲れたのかぐっすり眠ってしまったらしい。おかげですっきりはしている。ただ枕が硬いのではないかこの部屋。首が痛いぞ。
部屋を出て下に降りる階段へ一直線に進む。この世界に来てから周りを気にせず普通に歩けるようになった気がする。
まあ、昔から自分を知っている人がいないからだろう。高校デビューと同じだ(僕は失敗したが)。
自殺したはずだったのに目が覚めたら森の中だった、なんて普通だったら信じ難い事だが、あの時の僕は動揺と絶望と、それと同時に少しの期待をしていたのだろう。
この世界なら、もしかしたら変わることが出来るのかもしれないと。
少しでも変われるようにいつもはしないが見栄を張ってみたり、知らない人の中に紛れ込んでみたりした。
だがあまり手応えといったものは掴めていない。
普通はそれが当たり前なのだろうが、やはり悔しいものは悔しいのだ。
階段の踊り場あたりでぼうっと立ち尽くしていると後ろから「おはよう」と声がする。
見てみるとそこに居たのはシトラだった。
「おはようというかおそよう、もう昼だろ多分」
あははと困ったようにシトラが笑う。シトラも寝坊はするのかと思っているとシトラ話を切り出された。
「ずっと誘おうか迷ってたんだけどね、アスト、冒険してみる気は......無いかな?」
「冒険?」
昨日アストが寝た後、ずっと考えてたんだとシトラが言う。遅起きの原因はそういうことだったのか、と納得する。
「もちろんね、理由があるの。ここでは人目があるからあまり話せることじゃないけど」
目を伏せながら、「まっ、まずはご飯食べよ、!」焦ったように急かしてくる。
理由。どうしても思いつかない。僕は運動なんて野球を小学校でやっていたけど中学校では辞め、科学部に入ったレベルで運動をしていないため、完全に足でまといである。それどころか防具もオーダーメイドでしっかりしたものを作ってもらい、武器も......とにかくめんどくさい。
一緒にいてくれる、とは言っていたが、自分からそう窮地に突っ込んでいくものだろうか。正直ドMかよっぽど僕を殺したいかの2択しか思いつかない。
「嬉しいけどやっぱり......迷惑かけることになるよ」
そういうと、シトラは目を丸くする。
「そんなことないよ、寧ろ私がお荷物かもしれない......」
少し顔を俯かせる。最悪そこまでの手助けはするから!とシトラは言う。自己評価が低いなぁ、と思いつつ、人間らしさを感じて安心する。
それにしても、出会った時からずっと内気でいたシトラがわざわざ話を切り出してくれたのだ。断りはしたが、話を聞くだけ聞かないとフェアじゃないし、なによりあんな顔をさせてしまった自分を許せない。
「話、聞くだけ聞いてもいい?」
そういうと暗そうだった顔がぱっと明るくなり、太陽みたいな笑顔でにこっと笑う。
「うん、ありがとう!!!」
かわいらしい笑顔。眩しさはあまり感じず、温かさが心を包むような、そんな感覚だった。