クレヨンの大地
子供の頃、高い空に憧れた。
今は、空の見方を忘れて
ただ、地をうろうろしている。
―Side R
そんな格好いい言葉で創めてみても、俺達はただの高校生なだけで、毎日をぼーっと過ごしている。
平日は学校で勉強をして、部活をやって、その繰り返しだ。部活に関してはやることがない。幽霊部員ならぬ、幽霊部活だ。
生徒は全員部活に入らなければいけないと知った時、休部中だった文芸部に目をつけた。何せ休部中なら先輩がいない。最低でも3人は必要らしいが、静かに本でも読んでいそうな奴に声をかければいいと、その時は思っていた。
実際はそんな心配はいらなかった。
文芸部には俺も含めて5人の部員が入った。2人は俺と同じ理由だった。せっかくだからここで部長から部のメンバーを紹介していこう。
部長 三浦アキ
早速だがこいつが一番変わっている。
「青春したいから」
なんて馬鹿みたいな理由で文芸部に入ってきた。運動部入れよ。
副部長 川高春士
影のリーダー。アキを観察するのを趣味にしてる。
「折角だから皆下の名前で呼び合おう。」
なんてよくわかんないことを言い出したのがこいつ。
霧原陽介
好きなこと、髪いじり。ピンとかゴムとかで自分の髪を留めている。人のをやるのも好きらしく、よく部内じゃカイとシュンジが遊ばれてる。
滝沢小海
通称カイ。唯一ちゃんとした文芸部員だろう。カイが部長やればいいと思うが、カイ曰く
「長が付く役職は嫌い」
だそうだ。スカートが嫌いで、私服校のこの学校を選んだとか。
最後がこの俺、新嶺
言っておくが、『シン』って読まないでくれよ、『アラタ』だ。自分の事を説明すんのも何なので、それはこの話を読んで知ってほしい。
―Side S
そもそも、部室のない俺達がアキの姉さんがやってるカフェに放課後行くようになるのはまぁ必然?だった。
ある日、カフェ『VEGA』に着いてすぐアキが
「全員に色付けよう!」
なんて言ってきた。皆呆れた顔をしてたけど、俺がアキにのったらのってくれた。
アキは戦隊ヒーローが大好きだ、なんとかレンジャーみたいのが。なんでも今年は赤青黄緑黒らしく、それで当てていくことになった。色付けとちょっと外れてる気がする。
「じゃあ、アキは赤だな。」
カイの言葉に皆頷く。アキは少し熱血でおバカだしな。
「リョウは緑」
「そか?」
「そんな感じ」
カイが勝手に話を進めていく。言い出したのはアキだよな?
「はーい、俺ピンクが良い!」
ヨースケが言い出した。けどピンクって
「「却下」」
おー、カイとリョウの声が揃った。
「ピンクってお前それ好きな色言ってるだけじゃねーか」
「だいたい、ピンクって女の子の色じゃないかな」
「じゃー黄色!!ヨースケは黄色な」
今まで黙っていたアキがヨースケを指差して言った。
「黄色・・・・カレー好き?」
「ヨースケカレー好きだったけ?」
「違う!カレー好きちっがう!今年の黄色は女の子」
「ね〜アキ、別に俺女の子だからそれがいいとかじゃないよ」
「つか、女の子ならカイじゃね?」
確かに此処で女の子ってカイだけだよな、ヨースケは違う。ヨースケ可愛い物とか好きだけどこの中で一番でかいし。
でもカイは
「僕は紫が良いな」
ほら、変なこと言い出した。カイの一人称って一人だけ僕なんだよな、他は俺含めて『俺』。
「今年の紫いねーし」
「去年の仮面○イダーにはいたよ」
「カイって仮面ラ○ダー好きなん?」
初めて知った。意外
「いや、起きて暇だったりすると見るくらい。休日の朝のテレビってあんま好きなのやってなくってさ」
「お前何時に起きんの」
「七時」
「はや!!休みだよ!?好きなだけ寝れんだよ!?」
なんだか話がずれてきたなー。とか思ってアキ見たら不貞腐れてた、あーあ
「カイ仮面○イダーじゃだめだって、アキは何色だと思う?」
ちょっと元気になったアキ、わかりやすいなー。
「カイは黒だな!」
「ヤダ」
「なんで?」
「紫好きだから」
「ヨースケとかわんねーよ」
「いーじゃねーか仮面ライ○ーネタでも」
リョウがカイの味方してきた。リョウってカイとあとヨースケに甘いんだよな。
「俺ってなにかな?」
正直気になる。し、絶対決着つかないこれ
「シュンジは青」
「なんで?」
「青好きじゃん、お前」
・・・・・・・・・戦隊ヒーローって言ったのアキだろ。
―Side K
僕は女性というものが苦手だ。短いパンツやスカート、甲高い笑い方や場所を弁えずに化粧をしたりなど、全部が嫌だ。
僕はそんなことは絶対しない、したくない。でも、自分が女であることはちゃんと認識している。でも、どこかおかしいこともわかっている。
だけど、
「カイがそれでいたいのなら、それが正解なんだよ。自分を曲げるよりずっと良い」
ナツコさんがそう言ってくれてから、自分を少しわかった気がした。
アキが色がどーこー言っていた次の日、ナツコさんがいきなり僕達専用のマグカップを用意してくれた。みんなそれぞれ昨日決まった色と白とのチェック、
アキ→赤
シュンジ→青
ヨースケ→緑
僕→紫
僕のは紫だった。黒だと思ってたけど
「なんでカイ紫なんだよ!」
「だってカイ紫が良いって言ってたでしょ」
「カイは黒って決まってんの」
「私黒あんまり好きじゃないのよね、なんかピンチの時にだけえらそーに来てるでしょ」
「まさかのナツコさん戦隊おたく疑惑」
「いやいや、俺もそんなイメージ持ってたりするし。ナツコさんもそんなんだと思うよ」
そんなこと言ってたらいつの間にかカウンターに戻ってたナツコさん。アキはナツコさんに絶対勝てない。
僕がナツコさんのところにいくと早速そのカップにコーヒーを淹れようとしていた。
「ナツコさんありがとうございます」
僕がそう言うと、ナツコさんは優しそうな顔で「どーいたしまして」といった。
「ナツコさんは格好いいです」
「そうかな?」
「はい」
「カイはいい子ね」
「そうですか?」
「そうですよ」
思わず二人揃って笑ってしまった。
―Side Y
今はお客さんが居ないから、俺達はそれぞれ好きな場所で好きな事をしてる。アキは漫画読んでて、シュンジはナツコさんと話してる、リョウは音楽聴いてる。すっごい音漏れ、よく耳痛くなんないね。
カイは俺と一緒。俺がカイの前髪あげて遊んでるから
「カイって髪さらさらでいーなー」
「そう?」
「伸ばさないの?」
「短いのが好きなんだ」
「そっかー」
「すっごいほのぼのしてんね、お前等」
シュンジが向かいの椅子に座った。
カイの終わったら次はシュンジで遊ぼうかな、でも今日のリョウ髪セットする時間なかったらしく下りてるんだよな、リョウで遊びたいなー。リョウって絶対ツンデレだと思う。でも口に出しては言わない、言ったら怒られるから。
「そういえば、文芸部らしいこと何もしてないな、僕達」
なんてカイが呟く。でもさ
「今更じゃね」
なにかそれっぽいことしてるのなんてカイだけ。カイは小説とか詩とか、いつもノートに書いてる。
「アキー、ちょっと聞いてい?」
なんてアキに言いながらリョウに向かって手招き。一応大事な話だし
「この部って何かしなくていいわけ?」
「何かって?」
「部活動」
アキがカイを見る、物凄く何考えてるのか想像できる
「カイ頑張れ」
「ふざけんな」
カイの頭完成。次はやっぱりシュンジと思って近づいたらシュンジに逃げられた。しょーがない、リョウのをやろう。
「そういえば気になってたんだけど」
ナツコさんが自分用のコーヒーを持って俺達のテーブルに来た。
「カイってなんでカイっていうの?」
―Side R
「小海の海からとってんだって、だよな、カイ」
アキがカイにそう問いかける。それに頷くカイ
「うん、それはアキじゃないからなんとなくわかってたけどそうじゃなくて「ちょっとまった姉ちゃん」
アキが止めた。ナツコさんも自分の弟が馬鹿なのはきづいてたんだな。アキはカイ本人がそのことを言うまでなんで『小海』からカイというのか分かってなかった。
「何?あーくん」
あーくん?
「それ、俺が馬鹿だって言いたいのかよ」
「違うの?」
あーあ、言われてやんの
「私が言いたいのはね、なんでカイだけそう呼ばれてるのかなって」
言われて気づいた。そういえば、知らない。アキもシュンジもヨースケも
「どうして?カイ」
「カイってかっこいいから」
そんな理由だったのか
「はい嘘!カイ嘘言うとまばたき多くなんだよ」
なんてアキが言い出しやがった。こいつ何気に人の見てるな。カイもびっくりしてるし。つーか嘘かよ。
「なんて嘘だけど」
・・・・・・・・・・・・・カイがアキに近づいて、ラリアットかましやがった。
「小海って女の子の名前だから嫌い」
「それが理由?」
シュンジが訊く、それに頷くカイ。
カイの辛そうな顔の意味が俺にはわかんね。
―Side S
カイは男の格好をした女の子。かっこいい女の子。必ず最後に女の子が付く。『カイ』って呼んでるのも俺等だけで、カイは『滝沢小海』だ。
あの後用事でリョウが帰ると言うから解散になったけど、皆なんとも言えない感じだった。というか、あれ?何かカイがシリアス担当みたいになってる?カイとは違うけど、ヨースケだって同じような感じだ。
ヘアメイクの道に進みたいヨースケは親に反対されている。理由は男だから。今時そんな理由とか思うかもしんないけど、ヨースケのお父さんが『男らしさ』みたいなのにこだわってる人だから。嫌なんだと。
ヨースケにもカイの気持ちが分かったりすんのか?。
高校生な俺達、もちろん悩みだってある。
次の日の学校。この学校は漫画に出てきそうだといつも思うような不良の学校。(でも中身はいい奴ばっか、リョウだって見た目不良だし)
ゴミだらけだし、落書きだらけだし。よくヨースケの親この学校にくるの許したよ。
何気に箱入り息子なヨースケ、似合わない。
「アキさー」
「んー?」
後ろの席のアキに声をかけた。振り返って見ると手には○まい棒が五本もあった。
「何そのう○い棒」
「さっき来るときたばこ屋のばーちゃんがくれた」
アキは大人の女の人にもてる。よくお菓子とか貰ってる。人気の理由が分かんない。
「で、何?」
「アキは何でこの学校にしたんだ?」
俺のモットー『気になったことはとりあえず聞く』。
「近いから」
「だけ?」
「あと、姉ちゃんがこの学校良かったって言ったから。」
「ナツコさんここ出身?」
「そー」
初めて知った。ナツコさんの時代はこの学校真面目校だったのか?じゃなきゃあの弟大好き(要するにブラコン)なナツコさんが勧めない。
「はよ、アキそれ美味そう。ちょーだい」
「いーぜ何がいい?」
「コンポタ」
「あのさ、カイ」
「何?」
「カイがこの学校来た理由って私服校だからだよな?」
「そーだけど」
「ほかには理由ないの?」
うま○棒開けながらなんで?と聞くカイ
「ただの興味」
少し考えるような素振りをみせて、やっぱ、と口を開く
「学力的に楽に入れそーで、その先の進路もまあまあ問題なさそーで、通うのが楽な所で、選んでる?」
「だってさ、アキ」
カイはちゃんと考えてるぞ、と続けようとしたかったが
「シュンジも食う?何がい?」
この話はもう終わりにされてるな、こいつの中じゃ。だから
「・・・・・・納豆味」
この話題もう止めよう。
「「・・・・・・・」」
何かすっげ見られてる。
「シュンジ、他にも味あるぞ、たこ焼きとチーズ。納豆なんてリョウにでもやればいいし」
「純粋に納豆味が好きなんだよ」
納豆ってそんな人気ないのか?つか、リョウに失礼だろ。
ちなみにアキはサラミだった。
―Side Y
『文芸部の生徒は、昼食を持って小会議室に来て下さい。繰り返します。』
なんて放送が流れたから行ったら、現国の青山せんせが居た。
「産休の中池先生の代わりに今度から俺がこの部の顧問になったからよろしくな」
この部って顧問いたんだ。って呟いたら隣にいたリョウが「あたりまえだろ」って呆れてた。
この学校って不良が多いけど、5分の1くらいまじめなのとか熱血なのとかが入ってきて(カイとかシュンジとか)何気部活には気合いが入ってる。
青山せんせも、野球部の副顧問やってんだって。今の活動状況が知りたいとかなんとか。
「部長がアキで副が春士か。活動場所が白紙だけど、何処でやってんだ?お前らの教室?」
せんせが活動記録を見ながら訊いてくる、ほとんど何にも書いてないだろうけど。あ、俺ら五人ともクラス一緒なんだよ。
「アキのお姉さんがやってる喫茶店に行ってるんですよ。」
「ああ、VEGAか」
「知ってるんですか?」
「まあな。でもなるべく学校で活動はやってくれ、場所はこっちでもなんとか探すから」
え〜俺VEGAが良いな。なんて言えない。
「活動状況が書いてないんだが、おい部長。活動状況」
何もやってないです。って素直に答えていーのか?リョウを見ると、朝アキがくれたチーズ味の○まい棒を開けてた。ちなみに俺はたこ焼き味。
「リョウ、ヨースケ。お前等ももーすこしこっちに興味持てよ。」
せんせがそんなこと言ってきたけど、一応俺は話聞いてるし、リョウは音楽聴いてないから、少しは関心を持ってる。
「はい先生!俺部活中は漫画読んでます!これ部活だろ?」
「あいつ馬鹿だ」
リョウの呟きに同意。読書って言っときゃいーのにさ、
「せめて小説を読め、あと文芸部ってのは文を書くもんなんだよ。春士、小海。お前等はなんか書いてたりしてんのか?・・・・・小海?おーい、耳の外せお前」
ちょっと離れた所に座っていたカイはリ○ックマの弁当箱(いーなー)を出しながら音楽を聴いていた。あれ、あのi Pod
「リョウのじゃん」
「盗られた」
目付き悪い一匹狼気質のくせに俺やカイに甘いリョウ。目付き悪い一匹狼のくせに。
シュンジがカイの目の前で手を振ると、イヤホンを外したカイ。
「何?」
「カイもう少しこっち来い。」
「そーいやカイいつも何か書いてんじゃん、先生が見たいって」
カイは無言で鞄からノートを取り出して手渡した。そして荷物を持って、俺と逆側のリョウの隣へ。カイせんせ嫌いなのかな。あ、
「小海すげーなこれ題名「「それだ!!」」は?」
あーアキとかぶっちった。
「先生、あれ、カイな。小海じゃねーから。」
「アキ、あれっつーのは止めなさい」
シュンジ口調がお母さんだよ。けど、うん、だから嫌だったんだねカイ。
せんせの、生徒を下の名前で呼ぶってのは俺嫌いじゃない。だけど、そっか、カイは『小海』だったね。
せっかく違う自分でいられるのに、壊されたくはないよな。
「何でカイなんだ?」
せんせが不思議そうにカイに聴く。そりゃ理由を知らない人は疑問に思うよ。でも、この先生には説明してもわかってもらえない気がする。どうしよっかなー
「ペンネームですよ、こいつの」
「ペンネーム?」
「はい、何か書くときこいつ自分の名前カイって書くんで、もうカイでいーんじゃねってアキが」
リョウさすが?
「お前等はそのまんまなのにか?」
「俺らはカイみてーになんか書いたりしてねーし」
アキ馬鹿でありがとう。
「当然のように言うな。今日から書いてもらうからな。そんで週一で俺に提出」
まじかよ、めんどくさ
―Side R
「顧問を代えてもらうための署名運動に誰か協力して下さい。」
放課後、カイが真顔でそんなこと言ってくるからすこし引いた。
「そんなに今の青山君って嫌な先生なの?」
ナツコさんがクッキーを持って俺らのテーブルに来た。
「青山君?」
「後輩なの、高校時代部活の」
へー。初めて聞いた。じゃあ青山は俺らの先輩かよ。
「何部だったんスか?」
「弓道部よ」
「青山先生にはイメージつかないな」
俺も思った。いつもジャージでパーマで、たまに髭生やして、野球とかそんなのやってる感じだ。
「どっちにしろ体育会系は運動部見ていればいいんだ」
昼からずっと機嫌の悪ぃカイ。こいつがここまでふてくされてんの初めてみた。
「つーかマジどーすんだよ。小説なんて書けねーよ俺。」
アキがなんか言ってるがシカト。はっきり言って相手すんのがめんどくせー。
「カイ助けて」
「無理」
「ねーリレー小説にしたらダメかな?」
ヨースケが言い出した。それは良いかもしんねーけど面子がな。でも、
「それだ!!」
アキが乗ってきた時点で決まったようなもんだし。
―Side K
「リレー小説?」
次の日、アキは青山先生にリレー小説を書くことを提案した。なぜか僕を連れて。
「はい、シュンジ、ヨースケ、カイ、俺、リョウの順番で2周。一人原稿用紙二枚以上で」
これが、昨日あの後決まった事。これなら全員が毎週書かなくてすむし、登場人物も自分で考えなくていいからだそうだ。
「いーんじゃねーの」
横でアキがガッツポーズしてるし。
「あ、そうだ小海、これ読ませてもらった。」
先生に自分のノートを渡される。
この先生は苦手だ。下の名前で呼ばれるからというのは理由ではない(少しは入っているけど)。一番の理由は、この先生が人の心に入ってこようとすること。
青山先生は生徒の目線になってくれる先生。一人一人に親身になって、心の中に入ってこようとしてくれる。それが僕はいやだった。先生にはそのことがわかっていないところがある。だから、必要以上に近づかなかったんだ。
アキにも似ているところはあるけれど、アキの場合は無意識だ。人の心の奥底にまで入り込んで、それなのに足跡を残さない。だからアキとは一緒にいられるし、タイプがバラバラなあの部員達がまとまっている。まぁ、アキ馬鹿だけど。
「面白かった。読みやすかったし。」
「そうですか」
「話しかえるんだけどさ、小海って王子って呼ばれてんのか?」
「は?」
なにそれ
「この前一年の女子が話てたんだよ。『滝沢さん、あまり私達とはあまり話しないけど、さりげないところで紳士的なんです。』って」
たしかにこの学校は女子があまりいないから仲良くしてくれようとしてたのは知っていた。けど、それをわざとさけてアキ達といるから、困っている時は手助けしようと思ってしていたのだけど、そんな名前を付けられていたなんて。
「知りませんでした」
「え、まじで?カイ知らなかったん?新聞部の人気生徒ランクの学年一位候補だぞお前」
・・・・・・・・・冗談じゃない
―Side S
「カイが『王子』って呼ばれてんの俺も知ってるよ」
なんかカイショック受けてる。つか、本人以外皆知ってるっての、なんで気づかねーかな。
「あ、そーだおれ昨日これ買ったんだ。」
そう言ってアキがバッグから出したのは原稿用紙。
「ほい、シュンジ」
俺に渡されたそれ。ああそっか、俺一番目か。
「とりあえず何を書けばいいんだ?カイ」
「登場人物と何か話を進めるきっかけになることを書いといてくれる?」
「わかった」
「何か明るい内容にしろよシュンジ。暗いの嫌だから」
アキらしいな
―Side Y
三日後、朝学校行ったらリョウがシュンジの頭をはたいているという衝撃的な瞬間を見てしまった。
「え、ちょ、何どーした?」
「はよ」
「いや、はよ。じゃなくて、シュンジはたくなよ。何?DV?」
「どつくぞ」
リョウが紙を出した。見ると原稿用紙、リレー小説のあれか。
「読んでいー?」
シュンジに訊いた。
「どーぞ」
相変わらずシュンジ字綺麗だな。小学生の時習字やってたって言ってたし。俺もだけど。
「・・・重っ」
読んだ感想。とにかく登場人物の設定が重かった。『自殺未遂のいじめられっ子』が主人公って
「どう続き書けと?」
「だよなー。だから書き直せって」
「だって暗くすんなって言ったから。暗くしてねーだろ。その設定で暗くないって凄いだろ。」
凄いよ。確かにそれは凄いと思ったよ、主人公前向きだったよ。
「じゃあ頑張れ」
そう言って椅子から立つシュンジ。ドアへ歩いて行こうとするから、リョウが
「どこ行くんだよ」
「便所」
それだけ言ってシュンジは教室を出て行った。
「シュンジってさ」
しばらくぼーっとしてたリョウが話出した。
「中学ん時いじめられてたらしい」
「え、マジ?」
知らなかった。つうかなんでそんなこと知ってんの
「詳しくは知らねーけどな、いじめてた奴らは全員進学校行くような優等生だったらしい。」
「・・・・シュンジ頭ちょー良いんになんでこの学校にしたんだろって思ってたけど。そいつらから離れるために」
「さぁ?違うだろ」
「は?だってそうだろ、普通いじめてた奴らから離れたいって思うだろ?」
「普通ってなんだよ」
リョウが口角を上げて笑った。こういう表情似合うなリョウって。
「俺なら仕返しすんな。どんな手を使っても」
「それはリョウだからだろ」
「シュンジは俺とおんなじ種類だぜ?きっと」
「意味わかんねーよ」
「わかんなくていいよ」
―Side K
学校行ったら、ヨースケが深刻そうな顔で机を見ていた。
「何してんの」
「はよ、シュンジからこれ回ってきた」
見ると、ヨースケの机には原稿用紙。思っていたよりシュンジ早いな。
「カイ見る?」
「んー。いい」
「いいの?」
「後で僕にもくるし、その時まとめて見るよ」
そっか。と言ってヨースケはまた原稿用紙を見つめた。僕も机に鞄を掛けて携帯を出したらナツコさんからメールがきていた。
《あーくんが熱だしちゃったから今日は学校お休みさせるね》
「今日アキ休みだって」
メールをヨースケに見せる。
「ナツコさん、こういうところ可愛いね」
たしかに。でも、やっぱりナツコさんはかっこいい人だよ。
その日の昼休み、購買から戻ったらシュンジとリョウしかいなくて、何故か青山先生がいた。
「ヨースケは?」
「帰った。」
「何で」
「さぁ?」
「小海は今日は購買なのか?」
青山先生が僕の前の席に座って聞いてくる。つーかだからなんでいるのさ
「で、先生はなんで此処にいるんスか。」
リョウが代表して聞いてくれた。
「ん?ああ、そうだ、こんなん見つけたから知らせようかと」
先生が持っていたファイルから紙を一枚出した。見てみると、『高校生文学コンクール』と書いてあった。
「なんスか?これ」
「いや、小海が書いたやつこれに出してみないかって言おうと」
先生が僕を見て
「この前の小海が書いたあの話、俺スゲー良いとおもったからさ、こういうものとかにだしてみるのもいいんじゃないかって。どうよ?」
「これ、どこにどうやって出せばいいんですか?」
ちょっと興味が湧いた。だから先生に聞いたら何故かもの凄く嬉しそうな顔をしてた。
「なら、書き直してほしーんだけど、原稿用紙か、コピー用紙に印刷するかのどっちかで。」
ふと、シュンジに目が行った。リョウと一緒にご飯食べてる。そう言えばこの先生お昼どうするのかな。
「シュンジ、頼んでいい?」
「ん?いーけど」
シュンジにノートとさっきのプリントを渡す。
シュンジはパソコンが得意。打つのも早いし、プリンター持ってるし。
「ところで、先生はいつまで此処にいるんスか?昼飯食えなくなりますよ。」
リョウが訊くと、
「え?いや、俺、此処で食う気だけど」
よく見ると、左手にコンビニの袋を持っていた。なんで?
リョウの携帯が鳴ったのは暫くしてからだった。
「あ、ヨースケ。」
そう呟いて、電話に出るリョウ
「はい、ああ、どうした?・・・・ん?なんで・・・・は?・・・・・・わかった、言っとく。じゃあな」
「ヨースケどうした?」
「しばらく学校来ないって。で、カイのげた箱に小説置いといたってさっき」
「なにかあったのか?」
「さぁ?なんか、家族旅行に連れて行かれるって」
「なんで今?」
ヨースケん家ってよくわからない。ヨースケのよく分からなさはもしかして誰かからの遺伝か?
「じゃあ、次はカイが書くということで、というか、ヨースケ書くの早いな」
朝あんなに悩んでたのに、もしかしてほとんど会話ですましたとか・・・・・・・・・・・・・・(いや、さすがにそれはないか。)
「思ったより早く終わりそうだな」
リョウがそう呟く。だけど
「ちゃんと話になるといいね」
―Side R
次の日の2時限目。急に自習が決まったこの時間、もちろん真面目に勉強なんてする気のない俺は寝ようと机に伏せたら肩を叩かれた、見るとシュンジ。
「何?」
「暇だったから。今日カイもきてないしー。」
アキはナツコさんが学校行く許可を出してもらえないで、ヨースケは旅行、カイは家族旅行(?)らしい
「珍しいな、二人だけなの」
「そうだな」
「なぁ、なんでリョウは俺等と一緒にいんだよ。」
いきなりそんなこと言われて戸惑った。
「どうしたんだよ」
こいつが疑問に思ったことをすぐに口に出す癖は知ってるが、いくらなんでもこれは唐突すぎんだろ。
「実はさ、少し前から思ってたんだよ。俺等って言っても俺もヨースケもお前と同じなんだけどさ」
忘れてた、そういや、俺とシュンジとヨースケはもともと真面目に部活に入る気がなかった。
だけどまぁ、
「アキのせいじゃね?」
俺等が入部してしばらくした頃、放課後アキに声をかけられた。
「なんだよ三浦」
「部活の活動する所がねーから、近くに俺のねーちゃんがやってるカフェで活動しようぜ、場所教えるから今日こねーか?」
「断る」
「なんで」
「俺は部活やる気ねーし。あんま活動とかそういうのわかんねーし」
そう言って帰ろうとしたが、止められた。
「何」
「そんな部活動とかじゃなくてさ、せっかくだから仲良くしよーぜ。だから」
なにがだからださっきと言ってること違ってんじゃねーか。
「俺この学校知り合いいねーんだよ。今日あと川高と霧原と滝沢さんも行くって言ってんだ」
そんなことガキみてーな笑顔で言うそいつに、何故か頷いている自分がいた。
(ちょっと前のことなのに、だいぶ昔に感じるのはなんでだろうな。)
「俺もヨースケもおんなじ様な事言われたよ。俺は暇だってからで、ヨースケは確か、コーヒーが飲みたいだっけ」
「へー」
あいつ確かコーヒー好きだったな。
「アキといると楽なんだよな」
そうだ、楽だったんだ。何かしててもしてなくても気まづくならねーし、バカみてーに騒ぐことはないが、すげー楽しい時がある。
もちろん、アキだけじゃなくて他の奴らもそろってそう感じてんだろうけどな。そうシュンジに言ったら、
「分かる気がするな、居心地が良いんだよ」
「これから卒業までこのままなんかな、俺等」
「じゃねーの?」
なんて笑ってた珍しい二人だけの珍しい日
その日の夜に、カイが飛び降りた。
次の日学校でそれを知った俺とシュンジと風邪の復活したアキは、シュンジが調べたカイの入院先の病院に行った。ナースステーションで病室を教えてもらって入った部屋には二十代半ばくらいの男女が泣いていた。
少しためらったが、自分達のことを説明すると、その人達はカイの兄貴とその奥さんだと教えてくれた。
「今はもう容体は安定しているって。一度だけ目を覚ましたけど、またすぐ寝ちゃったの」
カイの義姉さんがそう教えてくれた。そしてシュンジ何かを渡した。
「小海ちゃんが目を覚ました時にこれを渡してほしいって」
よくみると原稿用紙だった。シュンジがそれを何ページか見たあと、俺に突き出した。カイは律義に自分の分をちゃんと書きあげたらしい。俺は何行か読んでいて気付いた。これはカイの事だ。
ヨースケはシュンジが考えた主人公が友達を作ってなんとか立ち直っていく話にしたらしい(その友達がアキみたいだったのは気にしないでおこう)。
カイはその友達を自分に置き換えて書いたらしい、性格や喋り方、行動が似ている。親が離婚をしようとするのに自分が邪魔だと親権の押し付け合いをしている。
この話はその友達と主人公が立ち直っていこうとして終わっていた。
違うところは最後だけ、カイは飛び降りた。
―Side S
「今日はありがとうな、わざわざ来てもらって」
今俺達はカイの兄さんの車の中、送ってもらっている。カイが目を覚ましたら教えてくれるという約束をしてくれた。
「両親は今別居中でさ、小海は俺が住んでるマンションの隣に住んでたんだ。」
そこからさきの話は、カイの小説と同じだった。カイの親権をどうするかで、昨日もカイもいれて三人でもめていたらしい。
「あいつ、いつも何も話さないから、こんなに追い詰められていたなんて」
そう言ってから暫く鼻をすする音だけが聞こえた。
大人の男が人前で泣くのを、俺は初めて見た。
「ヨースケにはなんて言う?」
とりあえずVEGAで降ろしてもらい、俺等は悩んでいた。ナツコさんはカウンターで一人泣いている、何か気の利いたことを言えるほど、俺たちは大人じゃ無かった。
ヨースケはこういうことに敏感だ。カイのことを聞いて、どう動くか分からない。
「まだ言わなくていいんじゃねーか。あいついつ帰ってくるか言わなかったし、帰ってきたらカイの奴も目ぇ覚めってかもしんねーし」
リョウがそう言う、俺もその方がいいと思う。
「あ、思い出した。」
いきなりアキがポケットから何かを取り出した。そういや、アキなにも喋ってなかったな。
「ほらこれ」
アキがだした何かはちいさなビンに入った小さなクレヨンだった。
「なんだこれ」
「俺達、色付けただろ?だからなにか身に付けられるものでお揃いなのなんかねーかなって思ってたら前カイが言ってたんだよ『クレヨンみたいになりたいって』。あ、カイの病室にさっき紫のクレヨン置いといた。」
だからお前等もって渡された青のクレヨン。
「ヨースケには後ででいっか、あとで四人で見舞い行こーぜ」
アキは笑顔で
「カイ生きてて良かったな」
とだけ言った。
これが三浦アキだ
―Side K
クレヨンが好きだ
はっきり色を付けて、何にも混ざることなく自分の色を誇っている
そんなクレヨンのようになりたい
―Side Y
「なんで誰も言ってくんねーんだよ!!!」
一週間ものから帰って来て、皆にいっぱいお土産買ってきたら、カイが死にかけてた。しかも誰もなにも言ってくんなかった!ざけんなよ
「いや、言ったらお前土産忘れただろ」
なんてリョウが言ってくる。
「そんなことどうでもいいだろ!」
「よくねーよ。なぁカイ」
「そうだね」
ベッドの上体を起こしたカイが頷く。
「だいたい、俺等じゃなんにもできねーんだし、土産でもたくさん持って見舞いに行ったほうが良いだろ」
「そうだけどさ」
カイがそんなに悩んでるのもしんなかったし、自分だけ楽しんでたってのはちょっとさ
「ヨースケ、お土産ありがとう」
・・・・・・・・まぁ、カイがそー言うならいっか
―Side ・・・・・
高校生の三年間なんて人生の中にちょっとだけど、もの凄い出来事で悩んだり、何でもない事でもの凄い悩んだりする。
だけど、クレヨンで描いた絵のように、しっかりとはっきりと、水で消えないくらいの大地を書いていきたい。
クレヨンの大地を歩いて行く。