期待
放課後になって、宮嶋は真っ先に音楽室へ向かった。深谷先生に会いたい、深谷先生の実力を知りたい。鈴木が言ってたみたいに、本当に有名な人なら、深谷先生こそが、自分を外の世界へ連れて行ってくれる、物語の鍵ではないか。
宮嶋が音楽室の扉を開けると、そこには村田先生が立っていた。
「村田先生…深谷先生は今日いらしてますか。」
「もうすぐいらっしゃるそうです。合奏の準備をして下さい、と仰っていました。」
宮嶋が分かりましたと言ったと同時に、他の部員も続々と音楽室に入ってきた。皆、深谷茂雄が気になっていた。
「深谷先生はどこだ。」
鈴木が入ってきた部員を代表して宮嶋に聞いた。
「もう直ぐ来るって。合奏の準備をしとけってさ。」
「…分かった。」
皆ぞろぞろと、自分の楽器を取りに、隣の音楽準備室へと向かった。歩きながら鈴木が宮嶋に話しかけた。
「なんで先行っちゃったんだよ宮嶋。まあいいけど。それより、こんなに早く全員が集まるなんて初めてじゃないか。」
「先輩とかいつも部活終わり直前に来るしな。村田先生も。」
「皆期待してんだな。」
いつよもよりずっと早く合奏準備が済んだ。全員自分の席で必死にチューニングしている。いつもとは違う異様な雰囲気に、宮嶋は不安になってきた。まだかまだかと深谷先生を待った。早く来て欲しいが、演奏にがっかりされるのが怖くて、まだ来ないで欲しいような気もした。異様に時間が長く感じられた。時間が過ぎるごとに、深谷先生への期待が募っていった。
音楽室の扉が開いて、深谷先生が入ってきた。宮嶋と目があった気がした。
「遅れて申し訳ない。皆チューニングは済んでますね。早速始めましょう。」
宮嶋は拳をぐっと握った。