分かっちゃった
宮嶋が一番前に立った。みんなをぐるりと見回した。みんな、あせあせと楽器を構えた。
「みんな吹けるんだろう。サビだけ。」
宮嶋は確認した。
「なんで知ってるんですか。」
フルートが言った。
「丸聞こえ。」
フルートは顔を少し赤くした。
「サビからやるぜ、やらないのか。」
フルートも楽器を構えた。
七人の目が、十四個の目が、宮嶋に向けられた。あの、顔色を伺う目ではない。まさにみんなの目を奪ったのだ。宮嶋が手をすっと持ち上げると、十四個の目も持ち上がった。宮嶋は、興奮した。
心の中でカウントする。…1・2・1,2,3,4!
七人が一斉に吹いた。トランペットが馬鹿デカイ。サックスは足でテンポをとる。ああ、流行りの曲、サイコーにノリノリな曲。宮嶋はステップするみたいに指揮する。馬鹿みたいに、全員がメロディ。宮嶋は、最後、キレキレに、バッと手を閉じた。その瞬間、七人がピッタリ揃って止まった。快感だった。
たった数秒の合奏に、宮嶋は汗をかいた。音楽室の空気は、今までにないぐらい沸騰していた。
トランペットが顔を上げた。目を輝かせて、
「超楽しい…。」
と、呟いた。宮嶋は汗を拭って、笑ってうなずいた。
「お前、すごいよ、宮嶋。俺、分かっちゃった。お前は指揮がうまいんだよ。」
トランペットが言った。お客さんに言うお世辞ではない、確かな感心の言葉だった。
宮嶋もそう思った。実際は、曲に乗っかっただけかもしれない。しかし、今までで、一番楽しい演奏だった。一番いい演奏だった。
ドアからバンっと音がなり、みんなは一斉に音の方を見た。村田先生が、顔を真っ赤にして立っていた。