中学生
宮嶋はいわゆる田舎者、そしてお坊ちゃんであった。田舎すぎる彼の街には、小、中を兼ねた校舎がひとつしかない。だから全員が顔見知りで、幼馴染みであった。ただし宮嶋は、お坊ちゃんのせいか、親友というものもおらず、常に客人扱いされていた。
宮嶋は、あまり勉強をする方ではなかったが、成績は常に良かった。中学生になって、なんとなく吹奏楽部に入った。たった八人しかいない部活だったので、二年生になったときは自然と部長になった。
「最近、練習はどうですか。熱意が感じられません。」
音楽教師で顧問の村田先生が、真っ赤な口紅のついた唇を大袈裟に動かして、廊下で宮嶋に聞いてきた。廊下で話すには暑すぎる日に、暑苦しい見た目の人に話しかけられて、宮嶋はくらくらしてきた。田舎すぎて、弱小すぎて、コンクールどころか演奏の機会もないのに、熱意なんかあるはずない。返事に困っていると、遠くからトランペットの音が聴こえた。流行りの映画のエンディング曲を熱心に吹いていた。流行りといってもこの街には、いつのものかわからない映画を、一年に何度か上映するだけの映画館しかないので、この町でしか流行っていないと思われる。娯楽のないこの町では、そんな映画でも誰もが観るのであった。
「今練習している曲が好きになれないんです。盛り上がりがなくて。」
口をついて言った言葉は、村田先生の怒りを買った。
「あの曲は素晴らしいんですよ!静かで、美しくて、そこが良いんです!私がきっとこれは良い練習になると思って選んだんです!」
廊下の窓から差し込む日差しはジリジリと宮嶋の頬を焼いていた。宮嶋は面倒になった。
「はい、すみません。練習に戻ります。」
宮嶋は簡潔に言って、足早に音楽室へ行った。
音楽室に入ると、トランペットがサッと演奏をやめた。違う曲を演奏していたのが、バレてないとでも思っているのだろうか。校舎中に響き渡っているに決まっている。木造建築の校舎に防音性なぞないから、トランペットの演奏も、他の楽器が何も練習していないことも、全部バレている。
「今日はその曲で練習しないか。」
そう言ったのは、部員への怒りでもあり、村田先生への苛立ちでもあった。