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天才に雨を  作者: 有泥
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大学

音楽大学の受験は、深谷先生が東京の音楽大学の教授と知り合いだったので、口添えしてもらって、宮嶋はすんなり合格した。ずるいかもしれないが、実際、宮嶋の試験の点はだいぶ良かった。

宮嶋が受けたのは、東京の私立の音楽大学ひとつと、地元の難関大学であった。地元の難関大学にも受かっていたが、これは周りを欺くために受けただけだった。高校のやつらにどこを受けるのか聞かれるたび、地元の大学だけを答えていた。自信がなくて隠していたわけではなく、珍しがられたり、珍しいと言う理由で褒められたりすることが嫌だった。実は高校最後の恋人と鈴木にだけは言った(恋人にはバレたと言う方が正しい)が、

「音大受けるの?え〜、いがぁ〜い!すごいね〜!」

と、彼女に言われたのが本当に屈辱だった。意外というのは、宮嶋がとても音楽が得意なようには見えないという意味だろうか、すごいというのは、そんな人から逸れたことをやるなんて恐いもの知らずだという意味だろうか。特に後者は、音楽をやる全ての人へ、深谷先生への侮辱だと思った。

父の顔を保って母を守るためにも、一応そこそこの難関大学を受けた。この田舎で東京の専門大学を受けるやつというのは一定数いたが、それにしても少数派で、変わったことをするのはそれだけ噂が広がるだろうと宮嶋は思った。それで人に言うときは、難関大学の方を言うようにさせた。「あそこの何々大学を受けて、合格したんです。」といえば、嘘にはならないし、そこの大学に通っていると勘違いさせることができた。宮嶋は、愚かで臆病で美しい母を、結局のところ愛していた。これが唯一の親孝行と言える。

宮嶋が受けたのは音大の作曲科である。作曲は前々から考えていた曲をかいた。他にはピアノの試験もあった。宮嶋は器用な方だったから、高校からたった三年間しか習っていない割にはうまかったが、ほかの幼少期から習っている人には劣っていた。そのかわりピアノの試験というのは試験官に顔を見られるから、顔のいい宮嶋は女の試験官からは随分と色をつけられた。もちろん本人の意思とは関係なかった。

そうして宮嶋は、誰にも邪魔されることなく、プロローグを終えた。確実に苦しい人生への扉を開けた。この大学で、最初にして最大の苦悩、最愛の女性に会う。

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