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天才に雨を  作者: 有泥
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家庭

 宮嶋の父は、都会からきた活発でお洒落な感じで、ここらの人から好かれていた。この街の医者は、宮嶋の父ともう一人、漢方薬を売っているジジイ(医者とは言えないのかもしれない)しかいなかったので、宮嶋の父は町の人ほぼ全員と顔見知りのようなものだった。腕もいいし、足元を見たりするような真似はしないので、街の人は宮嶋の父を信頼していた。ただ、街に医者が少ないというのは、いつ足元を見られてもおかしくないし、恨みを買って適当な治療をされても泣き寝入りするしかないということであった。みんなから好かれてはいるが、下手なことは言わないようにと、気を遣われていることも事実である。

 宮嶋の母は、このことを敏感に感じとっていた。常に旦那が気を遣われているというのは恐ろしかった。家にはお手伝いさんを呼んでいるので、宮嶋の母が家事をすることはなく、ただただ養われているように感じられて、尚更怖がっていた。いいご身分だな、と言われるような気がした。何度か父に家事をさせてくれと頼んだことはあったが、父は優しいから、そんなことしなくていいと言った。そうして母の苦労が父に気づかれることはなかった。

 宮嶋は、深谷先生に心酔しているうちに、高校生になった。深谷先生は中学校にとどまったが、高校での音楽の先生は熱心な人だったので、やっぱり吹奏楽部に入って練習した。たまに、深谷先生に会いにいった。密かに、音楽大学への進学を志しており、深谷先生にだけそんなことを言ってみたら、ピアノの先生をつけなさいと言われたので、父に頼んで、ピアノの先生をつけた。親に頼みごとをするのは嫌いであったが、十分我慢して余るほど、深谷先生を信じていた。

 宮嶋の母は気が弱く、自分は養われている身だと言うように、父にも誰にも遠慮がちに振る舞うので、それを見て育った宮嶋も、自分は養われている身だと思うようになった。宮嶋の母はそう教えた訳ではないが、宮嶋の母の態度はこう言っていた。あなたは父の子だから養われて当然だが、私は違う、と。宮嶋にとって、それは尚更、自分の立場を示すように感じられた。自分が養われているのは、父の子だからであって、自分の力ではないと感じた。周りを見ると、家の畑を手伝ったりしている人が多くて、ただのうのうと暮らしている自分が恥ずかしかった。ただ宮嶋はプライドが高かったので、遠慮がちに振る舞ったりはしなかった。いつか、自分を育てるためにかかったお金を全て返せばよい、そう思っていた。父が宮嶋を可愛がったり、甘やかしたりするたび、心の底から屈辱だったが、自分は養われている、養われている、と思って、子供らしい振る舞いをしてやった。

 そんな宮嶋にとって、ピアノの先生をつけてくれなんて言うお願いは、心の底から嫌だったが、深谷先生を信頼していたし、心のどこかで、自分は偉大になるのだからそれぐらい当然の投資だ、と思ったりもしていた。

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