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星降る夜の天引き  作者: らなっそ
6章 宇宙との境界線
38/48

38話 帰るべき場所

 帰りの電車、彼女は疲れからかすぐに寝ていた。

 観覧車から降りた後、時間も時間だったので、そそくさと僕たちは帰ることにした。

 七瀬自身はまだ遊び足りないらしく、名残惜しそうだったが。


 僕はそんな彼女の寝顔を横で眺めながら、高校の時の彼女との記憶を思い出していた。


 彼女と最初に会ったのはいつだろう。

 たしか2年になって初めて同じクラスになった時、彼女の姿を見た。

 派手でもなく、特段美人とは思わなかった。

 クラスでも目立つタイプでもなかった。ただ、なぜか顔はすぐ覚えた。


 それから数回ほど話しかけられたことはあったが、初めてちゃんと話したのは3年になってからだった。

 筆箱を忘れた僕にグレイタイプの宇宙人の変わったボールペンを貸してくれたのが最初だ。

 それがきっかけで、少しずつ僕たちは話すようになった。

 七瀬に本を貸したこと、テレビ番組の話をしたこと、一緒にUFOを呼んだこと……何度かボールペンを返す約束をしてたけど、結局返しそびれちゃったな……

 どれも過ぎ去った思い出だ。

 こんな僅かな思い出にすがらず今を生きろよ、比嘉悠真。


 でも、彼女はあの日から時が止まったままだ。あの日以前の過去のことを繰り返し、今も過去の時間を生きているのだ。

 今の僕の言葉はきっと彼女には届かない。

 それでも、僕はいつか届くことを夢見て伝え続けるだろう。きっと、これからも。


 暗い闇の中を突き進む電車は、終わりのない長いトンネルの中にいるようだ。入り口があるなら出口もあるはずだ。今はそう信じるしかない。


 僕は瞳を閉じて深い眠りについた。




「次は織奥ー」


 車内アナウンスの声で僕は目を覚ました。

 我ながら直感が冴えてる。

 辺りを見渡すと僕たち二人以外に乗客はいなかった。


 横の七瀬をどうにか起こし、僕たちは織奥駅のホームに降りた。

 誰もいないホームは一気に僕たちを静寂で包んだ。


「帰ってきたな……」


 無事帰ってこれたと言うべきかもしれない。

 今朝出発した時は無事帰れるか不安だったが、やってみればどうにかなった。

 これは自分の人生の中でも数少ない成功体験として記録されるだろう。


 するとさっきまで眠そうに黙っていた七瀬が突然、


「今から電車に乗ってこの街を脱出するのです!」


 と言って僕の手を引っ張り、自分もろともホームの下に落とそうとしてきた。


「おい!ちょっと!危ないだろ!!」

 僕も負けじと引っ張り、どうにか落下は免れた。


「まったく、急に何をするんだ」


 彼女の記憶を思い出したってと言っても、彼女の行動に関して完璧に理解できるようになった訳ではない。

 今みたいに台詞めいた話し方をする時は、本当に奇想天外だ。

 毎回、何かが記憶再生のトリガーになるとして、この台詞めいたことを実際に言ったことがあるというのだろうか。


 ……待て、台詞?

 そうだ、彼女は秋良と同じ演劇部に入っていたじゃないか!たしか七瀬から公演する演劇のチラシを手渡されたこともある。


 そうか、じゃあしきりに言っていた台詞めいた言葉や演技も、演劇の演技だったと考えれば納得できる。


 となると、秋良に七瀬のことをもう一度聞いてみた方がいいかもしれない。この前聞いた時は知らないと言っていたが、同じ演劇部なんだから知らないはずがない。

 きっと、僕みたいに忘れていただけなんだ。


 でも、今日はもう疲れたから聞くのは明日にしよう。早く家に帰ってさっさと寝よう。


 僕は七瀬を連れて駅のホームを後にした。




 帰りはバスに揺られ、どうにか家まで辿り着くことができた。


 今日一日本当に長かった。人生で一番長い一日だったと言えよう。

 僕は部屋に入ると長いため息をついた。

 やはり自分の家が一番落ち着く。部屋は相変わらず物散らかっていて、お世辞にも綺麗とは言えないが、慣れ親しんだこの汚さは僕に安心感を与えた。

 そして疲れがどっと出てきた。再び激しい眠気に襲われ、僕は抗うべく急いでシャワーを浴びに行った。

 七瀬は疲れなどまるで感じさせない様子で、電車での爆睡は何だったのだろうか。


 その夜は流れるように床につき、次の日の昼過ぎまで目覚めることはなかった。

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