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星降る夜の天引き  作者: らなっそ
3章 目の前の君
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21話 春の夜の夢

この話から一気に展開が進みます。

 研究について段取りやら細かい架空の組織やら二人で考えていると、外から救急車のサイレンの音が聞こえてきた。こちらに向かって走ってきているわけでもなく、遠い道を走り去ったようだった。


「最近救急車多くないか?」


 僕はサイレンの男を聞いて、今朝のことを思い出していた。最近うちの近所で殺人事件が多発しているというニュースだ。あいつの話だ、信憑性はない。だが、僕が否定できるほどの根拠もなかった。僕はこの街の現状をこれっぽっちも知らない。むしろ、ヤツの方が街から出てきた分、詳しいかもしれない。


「そりゃ最近はこの街物騒だからね」


 と何気なく呟いた真虎さんの一言がピリリと僕の聴覚を刺激した。



「やっぱり、何か事件が起きてるのか……?僕はまるっきり知らないことだったが、今朝ニュースでやっていて驚いたんだ」

 真虎さんはきょとんとしていたが、すぐに理解したかのようにゆっくりと話してくれた。


「今から話す話は完全に僕の個人取材だから信憑性については触れないでくれよ。ただ、この織奥市では1年ほど前から死亡者数が急激に増加傾向であるというのは明らかだ。市が発表しているデータで数字として現れている。まぁこんな田舎町じゃ高齢者の割合も高くなる訳だしその波が来たのかもしれないと思った。だが調べてみると増えた死亡者数は若者が多かったんだ。そこで僕は半年前からその原因について独自に調査し始めた。ちょうど同じ時期からハマり始めていた事故物件の調査と並行して、ちょこちょこ取材を続けていたんだ。するとだ、事故物件がこの1年の間に急激に増えていたんだ。ということは、急激に増えた死亡者数と事故物件の件数は因果関係があると言える」


「つまり自宅で死んだ若者が多いってこと?」


「そうだ。この1年の間にできた事故物件を調べるとほとんどが20〜30代の若者だった。さらに言うとな、事故物件にも種類が様々あって、病死だったり事故死だったり殺人事件だったりするんだけど、今回頻出している死亡者はどれも曖昧な死因なんだよ。夫婦間での喧嘩なのか心中なのか分からない夫婦の死体。殺人事件と思われたが容疑者は外で死体で見つかる。自殺かと思いきや他人の切り傷が入っていた死体。どれも真相がはっきりしない。いわば不審死ばかりだったんだよ。結局警察もどうにか自殺やら事故とか証拠をこじつけて処理したみたいだけど」


 真虎さんが話した内容は僕が今住むこの織奥市で現在起きていることだ。

まさかこんな平和な街で?いつの間に?

 僕には理解しがたい話だが、死亡者数が急激に増えているというのは紛れもない現実だとデータで示されてしまった。朝のニュースは嘘ではなかった。

最近よく走る救急車もただの喧騒ではない。刻一刻と僕の元へと近づいているのだ。正体不明の何かがこの街を死へと追いやろうとしているのだろうか。

しかもそれには悪意という意識すらないんだろう。風のように気まぐれで人の間を通り抜けるだけなのだ。


 夜道に光る幻想的なネオンはこんな時不思議と安らぎをくれるものだと感心する。

 春と言えど夜はまだ冷える。酔っ払いの賑やかな声すら暖かみを感じるものだ。


 僕はあんな風にはなれない。今日も酒は少し飲んだものの、全く酔える気すらなかった。料金を払い真虎さんと店を出た時も、少し顔を紅潮させたほろ酔いの真虎さんが羨ましかった。

真虎さんとはそのまま店の前で別れて、彼の足取りは心許なかったが、どこか楽しそうで、同じアスファルトを歩いているのに行先はまるではっきりと明暗が分かれているようで……


 繁華街を抜けると急に暗闇と静寂が僕を包み込む。バスターミナルは明かりこそついているものの、誰一人いなかった。コンクリートの待合所に孤独な足音だけが響く。

バス乗り場の時刻表を見ると最終便の時間をとっくに過ぎていた。今日は話し込んでしまったからまぁそうなるだろうと予想はしていたのだが。道中、駅前で客を待っているタクシーの群れを思い出す。いいやタクシーに乗る金など僕にはない。不甲斐ない大学生もどきの引きこもりなんだから。


 時計は夜12時を指そうとしていた。この時間に歩いて家まで帰ることなど別によくあることなんだが、今は慣れ親しんだ夜の街が全く違うものに見えた。繁華街を離れると実に静かで人気がない。果たして田舎だから、治安がいいから静かだったんだろうか。


 空気の冷えた匂いが漂って僅かな街灯を明かりをぼんやりと濁らせ、辺りの建物の輪郭すら曖昧にする。

 かつて古人は春の夜を優美なものと表現したが、妙な妖美さという点ではまさに今共感している。


 不思議で気味の悪い姿が本当で、僕が今まで見てきたのが春の夜の夢なのか、はたまた、いま見ているのが春の夜の夢なのか、起きてみなければ分からないものだ。

今まで過ごしてきた日常が恐怖と隣り合わせだとわかっても、これまで通りに日常を過ごすしかないのです。

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