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「お母様と…、お父様…?」
動揺と感動で視界が歪む。
せっかくの感動の対面の瞬間が涙で全く見えない。
実際には生まれた時から母親は側にいて、父親は時折様子を見に来ていたようだがそれはアンジェが両親と認識していないのだから仕方のない事だった。
改めて呼ばれて「ん?」と首を傾げるアストルフォと、母と呼ばれて涙を浮かべ喜ぶナナリー――ナナリアの姿は次第に涙が流れ視界が広がりようやく見えるようになった。
「ナナリーが、私のお母様だったのですか…?本当に?」
「今まで隠していてごめんなさい。でも、王族なんて知ったらアンジェが伸び伸び育たないと思ったの…」
母なりの気遣いをしたものの、王族にアンジェの存在に気づかれてしまったのはナナリアの大きな誤算だった。
とは言いつつも、心のどこかで国内にいるのだから見つかってしまっても仕方のない事だとも考えていたのは嘘ではない。
先程の話の流れを思い出したアンジェは、改めて両親の再会を喜ぶ半ば、つまりは自分は王命で呼び出されている事を思い出す。
「…それって、私は政略結婚の話が来ているという事でしょうか」
冷静になって重要な事に触れると、忌々しげに大人三人はそうだと縦に首を振る。
血は王家だが、育ちが平民同然の貴族としての知識をある程度知っているというだけで本当に普通の人間なのだ。
それを何がどうして自分なのだろうと考え、母と容姿が同じと言うならばつまりは身代わりに行けという事なのだろうと推測する。きっと、第三王女の娘の所在を知られたくなかったのは嫁がせたくなかったのだろう。平民暮らしが一番気楽なのは貴族にしかわからない事だ。
ちらりと悔しそうな表情を浮かべる母、ナナリアは「嫌なら国外逃亡だって…」と言い出して狼狽しだすのをアストルフォが冷静に落ち着かせている。
アンジェは意を決して立ち上がり、ナナリアの手を握って見上げた。
「お母様、お父様。女王様に…伯母様に会いに行きます」
国の為に、お世話になったみんなの為に何か出来る事があるならこれ以上にない幸運とタイミングだと乗り出した。
「ありがとう…アンジェ」
少しほっとするマザー・シスターと、未だに納得のいっていないナナリア、そして、使者として派遣されたアストルフォは任務だと言い聞かせてそれ以上何も言わなかった。
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2019/05/10済




