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06



「……ナナリー?泣いているのですか?」


二人のいる所に首を傾げながら声をかけると、不意の事に驚いた二人は目を見開いてこちらを見る。


秘密の話だったのだろうか、だとしたら邪魔をしてしまったかもしれないと少し後悔の念に苛まれつつ声をかけてしまったからには後に引けないと勇気を出して近寄る。


よく見ると、日に当たると少し赤みのある茶色が印象的な髪と、優しげな深緑の瞳に、赤が貴重の騎士服でアストレリア王国の者だと分かる装いで、ブーツは茶色の動きやすさや少し見た目も考慮したデザインとなっている。肩から垂れ下がる大きなマントは背の高い目の前の男性の身を一つ包むくらい容易いであろうほどの立派さだ。


胸元には騎士団の印である勲章のバッジが幾つか付いており、それらは過去の功績などを讃えられたものだろう。


そんな立派そうな騎士がナナリーの腕を離し、アンジェの方を見るなり少し優しい瞳に変わる。


「アンジェか、大きくなったな」


近寄ってきたアンジェの頭にぽんぽんと頭を撫でると、覚えのない人物にきょとんと表情が固まる。しかし、不思議と嫌な気分にはならず拒否はしなかった。


その状況が少し面白かったのか、騎士の後ろに居たナナリーが顔を出してくすりと笑った。目が少し腫れているようだが、ここは見なかった事にしたほうが良さそうだと判断して、膝を軽く折りシスター服の裾を少し摘み上げて淑女の礼をする。


淑女としての振る舞いや作法、マナーも含めすべて、ナナリーや慈善活動に来ていた令嬢たちによる指導の賜物と言えるほど美しい仕上がりとなっていた。


「あ、アンジェです…。姓はありません。初めましてではないようですが、覚えておらず、申し訳ございません」

「え?…あぁ、いいや…お前が小さい時に何度か会っただけだから覚えていなくて当然だ」


自分の記憶違いではなくて安堵し、騎士は膝をついてアンジェの手を取る。


「アストレリア王国騎士団所属第一騎士団長のアスフォルト・ヘイジェスタだ。最後にあったのは二歳の頃だな」


挨拶の口上を述べたのちに、手に取っていたアンジェの手の甲に口づけを落とすと人生で一度も経験した事のない行為に頭が真っ白になる。


慌てて先程までいい感じだったナナリーの事が気になり、ちらりと視線を向けるとなにやら面白そうに笑っていた。


ただの挨拶だと解釈しているのか、それならもう勝手にさせてしまおうと手を振り払わずに受け入れる。


アンジェは言葉は少ないものの、頭の中で考えている事は数知れないほど多い。それを噛み砕いて最小限にして口に出すのは、余計な事を言って相手に不快な思いをさせたくないという出来る限りの配慮のつもりだった。


それゆえ、それで空回りをして誤解されてしまう事もあったが、それに慣れてしまった周りの人々は表情だけで彼女の考えている事を理解できる程にまでなっていた。


「アストルフォ様は――」

「気軽にアストルフォと呼んでくれていい」

「……アストルフォさんは、ナナリーととても仲が良いようですが、恋仲なのでしょうか?」


その問いに立ち上がったアストルフォはぽかんと口を開けた。後ろのナナリーも同じような顔になっている。この光景を見る限り二人とも気の合う関係のように思える。


「不躾な質問で申し訳ございません」

「へっ!?い、いや、良いんだ。…そうだな、ナナリーとは仲良くさせてもらっているつもりだ」

「アストルフォ様!何を――」

「いいじゃないか、年頃の女の子は気になるものだろ?」

「っ〜〜!」


顔を赤くして怒っているようにも恥ずかしがっているようにも見える彼女はここ一番の乙女のような顔をしていた。


少し意地悪をしてしまったと反省して、ぺこりと頭を下げる。


「ナナリーごめんなさい」

「良いのよ…、私も驚いてしまってごめんなさい」


平静を取り戻したのか、アンジェの謝罪に優しく笑いかけるナナリー。


ナナリーに並ぶように立ったアストルフォはその光景をみて微笑ましげに眺めていると、教会から飛び出すようにマザー・シスターが現れた。


「アストルフォ様、シスター・ナナリー!なんですか、突然飛び出して――あら、アンジェではありませんか」

「おはようございます。マザー・シスター」


挨拶をアンジェがすると、こくりと頷いて「えぇ、おはようございます」と返したあとに、不思議そうな顔をして首を傾げた。


「ここにアンジェがいるという事は、もう――」

「マザー・シスター!」

「え?」


マザー・シスターが何か言いかけた瞬間、ナナリーは咄嗟に淑女らしからぬ声を荒らげた。それにアンジェもぽかんとする。


突然の事に驚き、生まれてこのかた人が怒鳴っている所を見た事がないアンジェは恐怖にびくりと肩を震わせ、咄嗟に目の前にいるアストルフォの腕にぎゅっとしがみつく。


急にしがみつかれたアストルフォは、アンジェの様子に安心させるように背中に手を添えてポンポンと優しく叩いて「大丈夫だ」と言うと、それを見上げて何かを感じて小さく頷いて腕を離した。


アンジェの様子に不思議そうな顔をしたが、先程のナナリーの様子を思い出してそちらを見ると、ナナリーはアンジェに話題を追求されないかとハラハラした様子だった。


そんな状態が続くわけもなく、普通じゃない状態にマザー・シスターが「聖堂へ入りましょう」という一言でその場の四人は、先程まで礼拝に来ていた騎士達は先に帰ったようで、いつの間にか誰もいなくなった聖堂へ入った。



◇◇◇

2019/05/10済

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