05
ここはアンジェの部屋、彼女が儀式や神の加護による神聖魔法を受けると決意して一週間が経過した。
その間は今まで当たり障りのない話を聞いてきたが、今回は本格的にナナリーによる神聖魔法の詳細な話をここで毎朝聞くようになっていた。
しかし肝心のそれの歴史を聞いたことがなかった為、それを今日は聞くことになっていた。
「では、神聖魔法というのは、大昔にアストレリア王国の女王が女神アストレリアへ力を求めて授けていただいた力を継承し続け、そしてその力を必要とする者へ儀式で与えることを許可したのです」
「……つまり、神聖魔法意外にも魔法が存在すると言う事でしょうか?」
ざっくばらんとしたナナリーの解説に少し物言いたげにしつつ、アンジェは素朴な疑問をぶつける。
「そういう事です。隣国のガレンディア王国の神は戦の神と言われていて、主に人やそれ以外のものを傷付ける戦闘用の強化魔法が授けられます」
隣国のガレンディア王国は、現在休戦中の敵国だ。とは言っても、民同士は特に恨み合うという事があまりなく、民が行き来する分には許容されている為、本当に領土の取り合いの為だけに戦い合っているのだ。
民からすると、心底傍迷惑なお国問題である。
「ナナリー、戦争が続く原因というのはもしかして――」
「そうなのです。あちらが戦いに向いて居る魔法を持っていますが、こちらはその傷ついた体を癒したり守ったりする事が出来るという事は…」
延々とそれの繰り返しが起きて居るという事だ。
そんな無謀で不毛な状況にもかかわらず戦争が起きているのは、魔法を使いたいだけなのではという話も持ち上がっている。
正直そんな事で死人を出されてしまってはたまったものじゃない。溜息を堪えながら窓の外を見るとこの部屋からだと教会の入り口が見える。そこに入っていく人物を見つけ、騎士が教会に礼拝に訪れている事がわかった。
ナナリーは時計を見て、はっと何かを思い出したように「少し席を空けますね」と一言残してそそくさと出て行ってしまった。
アンジェは言葉にはせずこくりと頷き、にこりと笑って軽く手を胸の前で小さく振って見送った後、再び窓を見てナナリーが一人の騎士に話をかけている所を見つける。
仲睦まじく話しているように見えるのはきっと気のせいじゃない。
「ナナリーとあの騎士の方はとても仲が良さそう……」
とてもお似合いだ。なんて言ったら彼女はどんな顔をするだろうかと考えつつ、神聖魔法について記された書物をぱらぱらと捲りふと目に留まったページで捲る手を止める。
「神聖魔法で人を蘇らせる事ができたら、きっと世界はもっとひどい事になるかもしれない…」
書籍の著者のあとがきにはそう記されていた。
その一文には激しく同感だ、倫理的にも犯してはいけないそんな当たり前の事をなぜわざわざ書いているのだろうなんて思いはしないものの、不思議な気持ちになった。
――もしかしたら、この作者は一度出来るのではないかと試してしまったのかもしれないわね。
ぱたんと閉じて、それを手作り感のある木の簡易な机に置き直してふぅっと休憩の息を吐いた。
外から物音がして不意にそちらに目を向けると、窓の向こうでは先程の騎士がナナリーの腕を引いて飛び出してきた。そして、その両肩を掴んで途轍もない剣幕で何かを言っているように見える。
ナナリーも少し困惑気味に俯いて目を伏せると、騎士は苦しげな表情で額に手を当てた。
何事だろうとアンジェはゆっくり立ち上がり、外していたシスターのベールを付けて部屋を後にした。
◇◇◇
やっと話が動き出した感じします。
2019/05/10済




