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アストレリアの国は本来、人も少ない貧しい村のようなものだった。


それゆえ、貧困に悩み、四季のあるフォールデント大陸にしては食もままならない程に枯渇した大地、破滅寸前だったその村の空の上には神が住む世界があると言われていた。


ある日、その世界に住んでいた女神は神々の祖先が愛した赤い実を育てた。しかし、神々は沢山成った赤い実を見て言い伝えで神にとって禁断の果実だといい、育ててはならないと無理やり切り落として不用意に下界へ捨てた。


その赤い実を拾った人間は神の恵みだと喜び、神へ感謝し、そしてその実から出た種を撒いて育てる事にした。


しかし、水の恵みもままならない国で草木が育つ事すらかなわない大地では種を撒いたところで何も育たない。


そこで、人間達は、偶然落ちた赤い実を恵んだと思う神々へ雨を降らせて欲しいと頼んだ。


すると、そんな事もつゆ知らずに赤い実を失い悲しむ女神はたくさん涙を零した。


たくさん流した涙は下界へと落ち、その涙は雨となり枯渇した大地は水で満ち溢れた。


次第に撒いた種は芽をだして、木へと育ち、周りには草木が生え始め、余った水は川や湖となり、女神の涙で育ったそれらは驚く程の成長を遂げ、一週間で撒いた種は立派な木が立ち上がり、みるみるうちに沢山の赤い実がなった。


人間達は大いに喜び、その不思議な赤い実は甘酸っぱさを持った果実だった為、それを林檎と名付け、数多の国へ売り飛ばすと、高額な利益となり、林檎を育てる事を提案した人間はその村を国として立ち上げ、一つの小国が生まれた。


林檎による大きな利益に、国の発展を羨む他国はそれを手に入れる為に戦争をふっかけた。


戦力もない林檎の国の人々は困り果てた。すると、家出同然で出てきた女神は下界に降りその林檎のなる国を見て驚き、これを育てた国へ感謝を込め自分の癒しの力の加護を与える事にした。


その国は、反撃する力はなかったが自らを守る力を手に入れて防衛する事に成功した。


女神は自らをアストレリアと名乗り、国王は実在する神を崇拝し、加護を得た人々は国の名をアストレリアと名付け、それは数千年にもなる歴史を生み出した。


そんな、アストレリア王国の最初の国王は、ある悩みから女神アストレリアに頼みごとをした。


《この国の存続と、貴女の愛したこの実の為に、貴女の力を受け継ぎ、後世まで残していきたい》


国王は、最初の国王として毒殺による悩みを打ち明けた。このままでは国が途絶えてしまう、それに耐えられる体が欲しいと求め、そして女神がここに居たという存在証明と信仰の為に、王族だけに与えられるアストレリアの証が欲しいと求めた。


すると、林檎を愛した国への為ならばとそれを快諾し、国王へアストレリアの半身として自分の力を分け与えた。


国王は、アストレリアの力を受け継ぎ、不死ではないが、通常の人よりも毒の耐性がつくようになり、毒を受けても死する事はなく、体の熱を上げて浄化する体質となった。


その為、毒を盛られた際は熱にうなされる事はあれど、死ぬ事はなくなった。だからといって長寿になったという事ではない。その為に子孫は重要だった。


女神アストレリアは、自分の力を継承するのは女の王族のみと定め、代々女神アストレリアの采配で女系の家系となった。


そして、アストレリアの加護を得られる条件はアストレリアの加護の洗礼を受けた王族とアストレリア出身の者のみとされ、代々受け継がれてきた。


そして、今回その子孫として聖王女の力を受け継いだのが…




「――アンジェ、それが君のようだ」


アーサーがいつにもまして真面目な面持ちで真っ直ぐこちらを見て言うその瞳は、間違いなく本気なのだと理解した。


アンジェは、目の前の人物が自分を謀る為に何かそれらしい理由を言って丸め込み手中におさめて利用しようとしているとかそういう下衆な事を考えているとは思えず、自分の体質を信じて毒入りの紅茶を口にした。


毒とわかっていて口に含んだアンジェを見てぎょっとするナージェとエシリア。目の前に座るアーサーは興味深げに見守っている。


「……私には毒の味がわかりません。それに、浄化するのに熱が出るというのも、体調はいつも通りです」

「味覚を刺激するような物は入っていないからわかりにくいんだよ。あと、先日熱を出して寝込んだ時に免疫がついたのだろうね」

「いくら耐性があるとはいえあまり飲まないでください。ぞっとします」


ごめんなさいと眉を下げて謝ると、困り顔で許してくれる。


それを見ていたアーサーは、パンっと膝を叩き空気を変えた。それでまた三人の視線はそちらに集中する。


「実はこれには続きがあってね」

「…と、言いますと?」


アンジェの質問に、よくぞ聞いてくれたと嬉しそうに口角を上げてまた口を開いた。



――神ガレンディアは、アストレリアの(つがい)の神だった。


アストレリアが癒しの女神であれば、それを対照的に武器を持ち戦うガレンディア。


しかし、赤い実を捨てられ涙し、そしてそれがきっかけで下界に逃げ出して人間と手を組んで国を発展させた事を知ったガレンディアは心底腹を立てた。


自分の傍に居るだけでは飽き足らず、人間に手を貸すなど言語道断だと嫉妬で怒り狂った。


神の時間と人間の時間の動きは大きく違い、人間が感じる数十年は神にとっては数分、もしかすると数秒のような感覚らしい。


アストレリア王国が大いに発展した頃、ガレンディアは正気ではいられなくなり、隣国で立ち上げたばかりの発展途上国のもとへ降り立ち、戦いの力を求める人々へ加護を与え、国を発展させていく力をさずけた。


しかし、アストレリアのように力を継承する訳でもなく、ただ能力の向上をさせる手助けしかしていない為、ただ闇雲の戦わせる事しか考えていなかったガレンディアは、アストレリアの国を見つけ次第、何か理由をつけて戦わせようとした。


戦う力を持つガレンディアと、癒しの力で攻撃を受けた人間を守るアストレリアではどちらも同士打ちにしかできず、二進も三進も行かない膠着状態が続いた。


失う人間はいないものの消耗していく兵力に、神の指示とは言え攻撃を最初に仕掛けたガレンディアの国王が和解の方向に話を持ちかける事になった。いくら神に言われたからといってこれが代々続いていては埒が明かないからだと判断した。


アストレリアが、ガレンディアの番である事を知った国王は、それならば国も和平を結び、神々の番の仲を取り持てばこの二つの国は一丸となってさらなる繁栄につながるのではないかという発想になった。


はた迷惑な神事情に民への理解は得られる事はないと諦め、この事は箝口令を敷かれることとなった。



「これが、ガレンディアとアストレリアの本当の話なんだ…」

「……では、ガレンディアとアストレリアの神々と意思疎通が出来るという事ですか?」

「うーん、そうだなあ。厳密に言うと、国王の夢に降りてくるんだ」



どういう事だとアンジェは首を傾げたが、少し考えて本当に夢に現れて会話をするという事だろうかと推測した。


アーサーは、喋り疲れて喉が渇いたのか、潤す為に冷めた毒の入っていない紅茶を口に含んで考えている通りだと頷く。


「それはすごいですね…」

「まあ、そういう事もあって君にはこのはた迷惑な政略結婚へと巻き込んでしまったんだけど…。最近他国へ攻め込み領土を増やしていっているジャカルト帝国は、アストレリアの第二王女では飽き足らず、君を狙っているという噂だ」


アンジェは何があってもガレンディアに嫁がせて、神へ和平を示さねばならない為、そうしなければそろそろ加護も解けて無能の国になってしまうのだという。


神の加護を失った国は価値が落ちる。


繁栄につながったのも、神が加護を与え、人々の暮らしへの影響も与えたからだ。それゆえに、神々の喧嘩は国の問題にもつながっていた。


他人事ではないのだと言う。


「今は特に君を失うわけには行かない。それと、君がこちらに嫁ぐという名目にしていたが、君はアストレリアの代々聖王女としての色濃い血を引いている」

「私が、次期アストレリアの女王になると言う事でしょうか……」


そう言えばアストレリア王国のエリーゼには子供がいなかったような気がすると思い出し、国王陛下が体の調子芳しくない事を考えるとあとは考える事は一つだと悟った。


「アストレリアの女王になる為の素材は揃っているわけなんだ。最初はうちの国に嫁いできてもらうはずだったんだけどね、君が聖王女だと分かった今はガレンディアに嫁がせる事はできないし、アストレリアへ返さないといけない」

「あの…、聞きたいことが」


手をすっとあげて質問をする為に発言権を求めると、アーサーは口を引き結び、手でどうぞと示す。


「おばさ……、女王陛下は私が聖王女と言う事はいつからご存知だったのですか?」

「君が向こうで熱を出してきみが寝込んだ時だと聞いているよ」


なんて事だと絶句した。


つまるところ、アストレリアでも毒を盛られた事になる。想像を絶した。孤児院暮らしの時に体力には自信があった為、疲れて倒れたと言われて少しショックだったのだ。


おそらく、向こうで毒を盛ったのはジャカルトの人間とレガートと手を組んだ貴族達なのだろう推考する。


正直に言うと突拍子もない話にうまくついていけない、という感じだ。



◇◇◇

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