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部屋へ戻されたアンジェは、服を脱がされ、髪を纏めて上げさせられ、顔、首、肩、背中、胸、腹、とくまなく調べられた。体のすみずみまで見られて恥ずかしいアンジェはされるがまま目を閉じて恥を誤魔化した。
小柄な体型に反して母親譲りの豊かな胸の下にまで手を入れられてその下も確認されると、流石に「ひゃっ」と声を上げる程にはアンジェは表情に似合わず純情だった。
「どこにも何もありませんね…」
ナージェと顎に手を当て考えるファルティリは何か思いついたのか、アンジェを裸のままソファへ座らせて足を持ち上げて足の裏を見た。
「昨日はアンジェはずっと部屋から出ずに、ベッドから離れたのもレオンが来られた時だけ…、だとしたら――」
「きゃっ…ふ、ファルティリさ…ま…!?」
そろそろ耐えられなくなって股の部分だけでもと手で抑えてぎゅっと目を閉じ、羞恥心で死んでしまうのではないかと言う程に顔を真っ赤にしていると、ファルティリは何かを見つけた。
「ここを見てちょうだい、なにか刺さった跡が」
よく見ると、アンジェの足の裏には何か虫刺されのような物があった。軽く指で触れると、くすぐったいのか、痒いのかアンジェは口をクッションに押し付けて耐える。
傍にいた侍医がそれを確認し、うーんと考え込んだ。
「これは注射器の跡ですね、無理に差し込んだのでしょう。少しかぶれておりますが傷に関しては問題ありませんね。しかし…」
「昨日の事を忘れる程の何かを施されたと考えてもいいかもしれませんね」
侍医の診断に、エシリアが神妙な面持ちでそういった。その隣にいるコーティカルテは何も言わず息を飲んだ。
すぐにアンジェを着替えさせ、報告している間に気を紛らわせるためにファルティリだけを残し、侍女と侍医は部屋を出ていった。
「アンジェ、貴女は不安がる必要はないわ。きっと守ってあげるもの、私も実は剣術の心得があるのよ」
「ファルティリ様が?」
意外だとアンジェの隣に腰をかけながら、ふふっと笑う王妃からは想像もつかない。
驚いたアンジェに面白がるように内緒よっ、と口元に指を添えるお茶目さはエリーゼと同じだった。
「護身で覚えられたのですか?」
「いいえ、私はもともとアストレリアの女騎士だったのよ」
えっ!?と大きい声を出してしまい、はしたないと口を抑えてぺこりと頭を下げた。
ファルティリはいいのよと上品に笑いながら話を続けた。
「え、でもファルティリ様は他国の王女様では…?」
「ふふ、不思議でしょう?私はアストレリアのクルール男爵家の出身で女騎士として働いていたのだけど、没落して両親も亡くなってしまって、私も立て直しする程の技量もないし。養子先もなくて、ホーン王国の国王様がガレンディア王国との政略結婚をする為に娘が欲しいからと私を拾ってくださったのよ」
それでそのままここに嫁いできたのよと微笑む姿は逞しく強い女性に見えた。
その姿に惚れ惚れするように見つめると、自分もこんなふうに強くなってレオンを支えられるようになりたいと胸を押さえた。
「クルール男爵家と言うと……」
「あら、気付いた…?ナージェは私の妹よ」
さらなる衝撃的な事実に唖然としたアンジェに、驚きを与えられて成功と言わんばかりに面白かしく笑うファルティリにはもう頭が上がらなくなりそうだと思った。
「ナージェは王宮生活より女王の侍女をやりたがっていたから血は繋がっているけれど今までは離れて暮らしていたわ、でも貴女の侍女をする事になって女王と私の間で働く事になって…」
「――諜報員をする事になったわけですね」
そう言うと、小さく頷いた。
いろいろ知っていく王宮の事情の複雑さに少し混乱はしたものの、レオンの妻になる為にも沢山の事を知りたいとまた勉強熱心さに火がつくのだった。
◇◇◇
レオンがアンジェの部屋に向かう途中に、侍女達が足早にこちらへと向かってきた。
「アンジェ様のおみ足に…、足の裏に何か注射で仕込まれた可能性があるとの事です。詳しい事は陛下の所でご報告させていただきます」
「そうか、わかった」
そう答え、侍女達と再び執務室へと踵を返して戻った。
執務室へ戻り、早速侍医からの報告を待った。
「アンジェ様の足の裏に、注射器で何か薬を入れられた痕跡が見当たりました。あの傷であれば昨日か深夜あたりかと思われます」
「また昨日か…」
机に肘をついて手に顎を乗せるアーサー。不自然な事が重なりすぎて怪しさが浮き彫りになる。
殺す事はしないが何か困る事があって薬を盛ったと言う事は、王宮で不自然な行動をする人間がいたという事だ。
記憶を消す薬を盛ったと言う事は、アンジェに何か覚えて貰っては困る事が起きてそれを行った。
つまり、昨日かそれ以降にアンジェは誰もいない隙に誰かと会ったという事になる。
それさえ分かれば捜査も出来た、昨日辺りの見張りの兵も今日は突然休暇を取り休みらしく、そのタイミングはひどく悪く不可解だった為、レオンの騎士団に街中を捜索させる事にした。
もしかしたらもうこの国には居ないのかもしれないと言う事も考えた。
「奇妙だな…」
その場の人間は皆、首を縦に頷かざるを得なかった。
◇◇◇




