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アンジェの熱が下がったのは朝方だった。


朝に、ナージェに熱が下がって本当に良かったと言われたが、アンジェはそれに対して何故か首を傾げた。それに対してナージェは、怪訝な表情になる。


しかし、目を覚ましていつもどおり朝食を済ませてゆっくりしていると、レオンの側近のエリックがまたユーロの執務室へ来るようにと声がかかり訪れた。


――コンッコンッコンッ


「アンジェかな?」

「はい、失礼します」


ノック音で気づいたのかと驚きつつ入ると、執務室にはアーサーとユーロ、そしてレオンの三人だけがいた。付き添い兼証人としてナージェも呼ばれて部屋の中には五人になったが、それでも余る程の執務室の広さだ。


周りには必要最低限の書類棚と、机だけと言うにもかかわらずまるで応接室のような余裕だった。


「今日はソファを用意させたからそこに腰をかけて」

「はい、失礼します」


促されるまま座ると、毒に関しての話だろうかと頭の中で整理していた。


不安げにしているアンジェを見てくすくすと笑うアーサー。


「起きたばかりで申し訳ないけど、あの林檎の時の事を詳しく教えて欲しい」

「……?はい…、夕食を終えて食後にと林檎を手に取りました。そこで、アストレリアを思い出して林檎を回してみていたら…」

「穴を見つけたという事か」


ユーロが続けて言うと、それにこくんと頷く。


すると、机に置いてある書類を拾い上げてアンジェの方へ渡す。受け取り、数枚重ねられた紙を確認する為に目を通した。


「つまり、簡単に言うとあの林檎に、薬物を何か細い筒状のもので注入するために差し込まれた可能性がある。と、いう事だ」

「細い筒状?」

「ざっくり言うと注射器のような物で林檎にわかりにくい部分から入れたんだろう。まさかアンジェが林檎を眺めるなどとは誰も想像がつかないだろうからな」


なるほどと書類に全て目を通すと、あるものに目が止まった。


「入っていたのは睡眠薬と書かれていますが……」


縦に頷くアーサーを見てアンジェは少し考えた。


以前ジャカルト帝国の人間がアンジェを誘拐しようとした事もあった、だから命を狙わずにまた拉致られていたかもしれないと言う推測した。


その思考を読まれたのか、ユーロは眉間に皺を寄せてこちらに視線を向けられている事に気づく。レオンと同じ瞳につい見入ってしまった。


「想像通り、拉致が目的だった可能性もある。だからレオンには護衛を厳しくするように言いつけさせたんだ」

「…?…そうですか」


ユーロの言葉に何か言いたげだったアンジェは、とりあえず無理に納得した。


その不自然を見逃さなかったレオンは、アンジェの方を見る。


「昨日の事は覚えているか?」

「…昨日と言えば、ナージェも朝に熱がどうとか言っていました。昨日はレオン様と街へ行ったではありませんか」


アンジェの中で昨日が無かった事になっていた。


あんなに様子がおかしかった事を覚えているのはレオンとナージェだけだ。熱で甘えん坊になっていた事を忘れたかったのか、しかしそういう風には見えない様子に違和感を感じた。


「アンジェ、昨日は私とファルティリが見舞いに行ったのだけど覚えていないかい?」

「はい…?」


突然何を言いだしたのだと驚き目を瞠る。


まったく知らない事を知らされて驚いた表情に付き添いのナージェも口元を抑えて叫びたい気持ちを抑える。


自分以外の周りの様子がおかしいと分かり、不安で心臓がバクバクとする。何が起きているのか分からず、昨日一日一体自分は何をしていたのか思い出せず混乱した。


「ナージェ、エシリアとコーティカルテ、ファルティリと侍医を呼んでアンジェを部屋へ連れて行き彼女の全身をくまなく調べて欲しい」

「っ…仰せのままに」


慌てて外に出て、控えていたタクティクスに指示をすると、アンジェの背中に手を回して優しく誘導するように出て行った。


アンジェ達が居なくなり三人となった執務室では、ユーロがドンッと机を殴った。


「なんなんだ…?何が起きている?」

「あの様子だとおそらく犯人は彼女を生かすつもりなんだろう。と言う事だけは分かる……」

「また連れて行こうとしている…という事か」


動揺するユーロにアーサーは推測し、レオンが苦虫を噛み潰したような表情になり、居てもたってもいられなくなり部屋を出ていった。


「……そりゃ最愛の婚約者がこんな目にあってたらじっとしてられないよね…初恋の相手だし」


そうだなと肺にある酸素をすべて吐き出すように深い溜息を吐くと、二人は詳細を調べる為に諜報員と昨日アンジェの部屋の近辺に居た者たちを集めた。



◇◇◇

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