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あれから気を取り直し、ガレンディアの城下街をぐるりと回り終えるまでずっとアンジェと手を繋いでいた。


それはもう露店の人々には「そこの彼女にプレゼントはいかがか」とさんざん茶化された。婚約者だからあながち間違えてはいないが、レオンにとってはこんなに愛らしい人が恋人だと言われるとむしろ彼女に失礼ではないかなどという事を考える程だった。


一方アンジェは、あれから少し目を腫らしたままだったが街の人々の活気に次第に無表情の中にも瞳に笑みが浮かび上がった。


「結局欲しいものはなかったのか?」

「あっ……」


街を見る事に一生懸命になり、すっかり忘れてしまっていた。


しかし、特に何か欲があるわけでもなかったアンジェにとっては何か与えられるより、この収穫便乗祭で自分の恋心に気付けた事のほうが大きな収穫だった。


「……少し待っていろ、コイツを頼む」

「かしこまりました」


繋いでいたアンジェの手を放すと、アンジェは少し離れがたそうに名残惜しい気持ちになった。それに気付くわけもなくレオンは、ナージェに預けて人ごみの中何処かへと消えてしまった。


逸れぬよう道の端に寄りしばらく待っていると、レオンはすたすたと真っ直ぐ歩み寄り、屈んでアンジェに小さい小袋を渡した。


「これは…?」

「開けてみろ」


小袋を開くと、中から深みのある青い宝石がいくつか付いた、左右に広がる鳥の翼のようなモチーフの髪飾りが入っていた。


「素敵……」

「アンジェ様にきっとよくお似合いですよ」


レオンが言いそうにない事を、敢えてフォローするようにナージェが言う。ここでタクティクスが言ってしまうと色々と誤解されそうで、何か褒めるときはナージェが担当する事になった。


手のひらにのせてキラキラと光る髪飾りに付いた宝石は、ガレンディア付近の山脈の一地帯で最近採れるようになったアウイナイトという物だ。


「アウイナイトという宝石らしい。ガレンディアのシンボルカラーによく似ていた」


レオンは意図してこのモチーフを選んだわけだが、アンジェにはこの羽根モチーフを何故選んだのかまでは分からなかった。


横で見ているナージェとタクティクスはそれを微笑ましげに見ている。


「ありがとうございます。レオン様、綺麗でとても私にはもったいない程です。これは大切に使わせていただきます」

「アンジェ様、今すぐお着けしたいですが、フードを被っていては着けても見る事はできませんのでお戻りになられた時にでもしましょう」


ナージェの提案に満足げにこくりと頷く。


その後、居酒屋の前を通ると休暇中の騎士団に遭遇し、少しだけ同席してワイワイと騒ぐ光景を見たあと、乗ってきた馬は予め後から迎えを用意していたようで騎士達と一緒に無事に王宮へと歩いて戻った。


戻るとすっかり日が暮れており、レオンと一緒に夕食とろうと誘ったが、何やら用事があるらしく断られてしまった為、渋々一人でとる事になった。


その準備の間に、町娘の姿から簡単なドレスに着替え、後ですぐに湯浴みだからと髪を簡単に整えてもらいながら今日の事を思い返しレオンからもらった髪飾りを眺めた。


「小説のような逸れて探してもらうと言う事はありませんでした…」

「当たり前です!一度はそういうふうな事がありましたが肝が冷えるかと思いました……」


一つに結わえていた髪を解き、櫛で梳きながらもうあんな事は勘弁してくださいとプンプンと怒るナージェに素直に謝罪をする。


ごめんなさいと素直に謝り、今日レオンにもらった髪飾りを大事そうに持って眺めながら小さく吐息した。


「いかがされました?」

「せっかく小説を読んだのにあまり活用できませんでした」

「どんな物語よりも、アンジェが経験なさった事の方が、とても代え難い素晴らしい思い出になるのではありませんか?」


絡まった髪を綺麗に解しながら語るナージェにそうかもしれないと納得し、食事の為に再び髪を纏めてもらうと、座らされていた背もたれのないチェアからソファに移動し、並べられた夕食に手を付ける事にした。


今日は、かぼちゃのスープに、羊の肉を焼いたもの、そしてサラダと籠にはたくさんの果物が入っていた。


果物以外を先に食べ終え、食後にと果物を一つ手に取る。いつも入っている好物の林檎だ。鮮度を保つ為にまだ皮も

剥いていない林檎は赤く熟れているようで、どこから見ても美しく真っ赤だ。


両手で育ったアストレリア王国を懐かしむように、姿を回しながらその赤い実を眺めていると不自然な事に気づく。


「ナージェ、この林檎はどこで仕入れたものですか?」

「それはおそらくアストレリアの物ではないでしょうか。アンジェ様がアストレリアの林檎をとてもお気に召しているからと、厨房長が取り寄せた物のはずです」

「……では、これは何でしょう…?」


ナージェへと林檎を差し出してここだと指をさして見せると、顔色が一気に真っ青になる。


林檎の下の部分に何か小さい穴があいていた。何か細いもので刺したような跡があり、ナージェは青い顔でその林檎を持ち、今日の護衛のまま部屋の外に控えさせていたタクティクスを呼んだ。


「どうされました?!」

「アンジェ様の夕食の林檎に何か手を加えられております!」

「……なんだって?!」


一同騒然となり、タクティクスは小走りで今日は仕事をせず私室に居るレオンを呼びに隣の部屋へ走って行った。


手の空いたエシリアとコーティカルテは壁に控えていたのか慌ててこちらへ来ると、その林檎をみて小さく悲鳴を上げた。最近は毒物騒動が落ち着いていただけに動揺がすごい。


タクティクスは出て行ってすぐに早歩きでアンジェの部屋へ戻ると、その後から入ってきたレオンは、ナージェから、アンジェから受け取っていた林檎を受け取り不自然な穴を確認する。


「他に林檎は?」

「いえ、先程夕食を終えられてデザートにとアンジェ様がお選びになっそれだけです」

「そうか……」


アンジェの身に何事もなかった事実が分かると、張り詰めた空気が少し和らぎ、ソファに座ったままレオンの様子を見ていたアンジェの目の前で片膝をついてじっと見た。


「夕食の方には何も入ってなかったようだな」

「はい、今のところ何ともありません」


強い眼差しで小さく頷き、林檎に入っている可能性の高いものはやはり毒なのだろうかと疑う。


流石にその怪しい林檎を身を呈して誰かが食べるわけにも行かない為、それは薬物を研究する者たちに預けて調べる事になった。


「お前の好物だとは分かっているが、しばらくは林檎を食べるのを控えてくれ」

「そうですね…、わかりました」


毒で倒れてしまっては政略結婚の意味もなくなる、我が身が一番最優先事項だ。


これを機にしばらくはアンジェの食事の毒味を厳重に行う事になった。



◇◇◇

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