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ユーロの執務室をあとにして、ナージェとタクティクスを伴って、久しぶりの部屋の外にゆく宛もなくふらふらと歩いていると中庭へ来ていた。


「あら、アンジェ様。久しぶりね」

「ファルティリ王妃殿下…、ようやく謹慎が解けて先程陛下に呼び出されておりました」

「本当にごめんなさいね。ガレンディアは敵を作りやすくて、そのせいで陛下も疑り深いのよ。あと、私の事はそんな仰々しくなくていいわ」

「ありがとうございます。ファルティリ様…、私の事も気軽にアンジェとお呼び下さい」


くすくす笑い、少し打ち解けた感じがして嬉しそうに笑った。


中庭の花を愛でるファルティリはとても妖艶に見える。大人の魅力というものを目の当たりにし、童顔で可愛い寄りの顔立ちをしたアンジェには到底かなわない人だと思った。


中庭の花は、ファルティリのお気に入りの花ばかりが揃えられ、庭師も気合を入れて手入れをしている為常に美しく保たれている。この中庭は天井がガラス張りになっているようで、雨が降っているにもかかわらずなんともない。魔道具で温度調節がされており、温室のようになっているようだ。


「あの、王宮内の図書館に入る許可をいただけますか?」

「アンジェは本が好きなのかしら?私はこの城の施設の管理権限を持っていないの、ごめんなさいね。……図書館の管理者はユーロね。副管理者はレオンだったはずだからお願いしてみるといいわ」

「そう、ですか」


ユーロはまだ頼みやすいかもしれないが、今のレオンに話しかける事すら難しいかもしれない。とても気まずいのだ。


それに今戻ってもおそらく大事な話をしているはずで、来た道を戻るわけにもいかず、しょんぼりするアンジェを見ておろおろとどうすればいいか考えた末に、偶然通りかかったセイレーンに声をかけてみる。


「セイレーン様、アンジェが図書館に行きたいそうなの、ユーロに掛け合っていただけないかしら」

「ふ、ファルティリ様、そ、そんな…!申し訳ないので自分でお願いしますから…」


とんでもない行動力のファルティリにアンジェもたじたじになって、足を止めたセイレーンがきょとんとこちらを見た。


どうやら距離もあいている為、うまく聞き取れていなかったようだ。ほっと胸を撫で下ろし、何でもありませんと頭を下げた。


何も無いと上手く解釈したセイレーンは、アンジェの前まで歩み寄って来ると耳打ちをした。


「ユーロ様、とても貴女の心配をされていたわ。ずっとこもりきりで心の余裕が無くなっていないかとか、気休めに話し相手に私を連れて行った方が良いのではないかとか、陛下に一度相談すると言ったり…、まるで娘を見るような……」


アンジェが閉じ込められている間、ユーロがどれだけ気にかけてくれていたかは先程話したときに身に沁みて理解していた。


どうやらセイレーンを連れて来ようとしてくれていたが、結局いま久しぶりにあった姿を見て、つまり許可が降りなかったのだと心の中で落胆する。


今日までそんなに信用されていなかったのかと、どうにも釈然としない気持ちに鞭を打って首を振る。


「私は大丈夫ですので、またお二方とお茶がしたいです」

「まぁ、とても嬉しいわ。今度アンジェが来たらアップルパイをさせようと思うの。またお誘いしていいかしら?」


アップルパイに過敏に反応し、嬉しそうに無表情の瞳がらんらんと浮かれた様子にうふふと淑女らしく笑うファルティリ、アンジェは久しぶりの外に疲れてしまい、今日の所は部屋に戻る事にした。


部屋が近付いて来ると、部屋の扉の前で立ち尽くすレオンの姿があった。


独り言のような事を言っている様に聞こえるが、何を言っているかまではわからない。


「……レオン様?私の部屋に何かご用ですか?」


先程別れたはずの人物がここになぜいるのだと驚き混じりに声をかける。その声に気付いてこちらを見るなり少し顔を赤くしたが、アンジェ達が不思議そうにしているのを見て安堵の表情になる。


まるでまずい所を見られたとでもいうような顔だ。


本当に二十代後半の殿方なのだろうかと誰もが間違いなく疑う程のその光景に、まず赤らめている理由を考えようとしていると、こちらへとズカズカと大股で近寄ってくる。


今のアンジェはもう恐れたりしない。じっと立ってそれを見る。 


「レオン様、あまり荒々しい歩き方をされますとアンジェ様が怯えます」

「あ、あぁ……そうだな」


執務室での冷たいような雰囲気とは違い、ナージェの忠告に不器用に了承し、膝をついてアンジェと視線を合わせた。


「レオン様、私は本当に――」

「分かってる。だが、放置していたのは俺だって同罪だから謝らせろ」


こんな事をさせたい訳ではなかったアンジェは申し訳なさそうに言うと阻まれてしまった。


レオンは、少し気まずそうにアンジェの手を握った。あんなに粗暴な態度からは想像もつかないほどその力は優しい。


「本当に悪かった。詫びにお前が望む事はしてやるつもりだ。何か言え」

「え?望む事……?」


どういう事だとナージェを見ると、何か頼んでやれとと言わんばかりに面白そうに静観している。その隣のタクティクスも同じような顔をしている。


とんだ裏切り者だと物申したげにじとりと見るが、本人達はお構いなしだった。再びレオンを見ると相変わらず何か早く言えと言わんばかりの眼光をこちらに向けている。


まるで自分が悪い事をしているかのような状態に眉が下がった。


「こ、困ります。レオン様は私の事を気にかけてくださっただけで――」

「…昔は何でも教えろとせがんで来たのにな」

「昔……――?」


ぽかんと間抜けな顔でレオンを見つめ返す。昔とはいつの事だろうか、いつか彼と会ったとでも言うのだろうか。だとすれば、自分はとてつもなく薄情な人間ではないかと可能な限りの記憶を掘り起こす。


「申し訳ございません。レオン様と私はどこかでお会いしましたか?」

「――とにかく部屋へ入りませんか?」


話が長くなりそうだと判断したナージェは、耐えかねてき間に入って部屋へ行くように促し、二人はそれに従い、タクティクスは、部屋の外で護衛を申し出て同行するのは遠慮した。


アンジェの部屋へ入ると、ナージェに促され二人並んでソファに腰を掛けた。


「アーサーは昔、ファルティリ王妃に悪戯にワインに毒を盛ったと言われて騒動になった事があってそれから少しばかり人間不信気味なんだ」

「毒を?ファルティリ様が?」

「結局毒では無かったが、ファルティリ王妃のやんちゃなあの性格だ、お前も大人しい顔をして何をしでかすかわからないと思ったんだろう」


確かに、勝手に動いて彼らの調査の邪魔になってしまっては水の泡になる。


何か必要になればきっと声をかけられるはずだ、そう気づいたのは先程だったが……。


「レオン様、先程の昔に私と会った事があるというのは……」

「……あぁ、ちゃんと話す」


どうしても聞いておきたいとアンジェは隣に座るレオンに尋ねれば、今話すとレオンは目を閉じた……。



◇◇◇

2019/05/11済

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