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〝愛するアンジェ


野党に襲われたと聞きました。無事にガレンディアに到着したと報告を受けていますが怪我はしていませんか?とても心配です。


貴女とはひと月過ごして姪のような、瓜二つの私の妹と重ねてしまうところもありましたが大切な家族だと思っております。


不安な事が続くと思いますが、ガレンディアの方々は貴女を悪く扱う事は致しません。長く関わってきた女王エリーゼ・ヘリザ・フォン・アストレリアが保証いたしましょう。


こちらでは、アンジェが出立してからすぐにナナリアが謁見に来ました。王女としての立場を捨て、ナナリーという一人の女性として、平民としてアストルフォと幸せに暮らしていると報告をしていただきました。


顔に火傷があったのはとても驚きましたが、彼女なりの決意だと分かります。


長くなってしまいましたが、貴女のガレンディアでの結婚式に参列は叶いませんが遠くより貴女の幸せを願っております。


追伸、この手紙は燃やして完全に消滅させるべし。



エリーゼ・ヘリザ・フォン・アストレリア〟




――と、いかにも女王らしい個人的な手紙にアンジェは読み進めた。その手紙をナージェに渡すと暖炉へと持って行き、マッチを使って燃やし、灰となった手紙を念の為薪でねじり潰して痕跡を断った。


溢れる涙をどう止めようかと、胸元に入れていたアストレリアで貰った小型のナイフを持ちギュッと祈るように握る。


「叔母様……」

「……アンジェ様、こちらも女王から…」


ナージェはもう一枚紙を取り出し、アンジェへ差し出すと、ナイフを胸元の中へ押し込むように戻し。紙を受け取った。


まだあったのかと開き、読み進めると目を瞠り、読む速度が早まる。チラチラと不自然にナージェの顔を見てはまた文字を読み返す。


「……外に誰もいないか、確認してください」

「かしこまりました」


ナージェが廊下側の扉を開いてきょろきょろと見渡し、目の前にいるタクティクスはきょとんとして首を傾げた。目が合ってしまい、何か言葉をかけるか迷ったあと、後ろを振り返るとアンジェはベランダの方を確認している。


「アンジェ様」と声をかけると、誰かいたのかと振り返り首を傾げて近寄ってくる。


「タクティクスを中へ入れてもよろしいでしょうか?」

「ナージェが信用できるというなら私は構いません」


それに対して肯定するように小さく頷いて「入ってください」と招き入れた。


ただ事ではない二人の様子に少し眉をひそめてちらりと左右を見てアンジェの部屋へ入った。


「殿方を嫁入り前の王女様の部屋に入れるのはマナー違反ですが、専属騎士であれば問題ないでしょう」

「……何かあったのですか」

「そう言えばこの一週間二人共いませんでしたね」


先程の手紙を改めて読み返してから、内容の事実とを繋ぎ合わせて納得した。


その質問に、タクティクスも理解したのか首を縦に振った。


「ナージェ、詳しく話してください」

「その手紙には私の事が書かれていたのですね」


そうだと頷き、次のナージェの発言を待っていると、おそらく彼もナージェの事情を知っているのだろう、主に黙っていた事がやましく思ったのかどこか気まずそうにしている。


アンジェは、ナージェにその手紙を渡すと軽く目を通し、先程と同様に処分した。


「私はアストレリアとガレンディア出身の両親の間に生まれたアストレリア側のクルールー男爵家の娘でした。没落し、父も母も他界しておりますが、女王陛下からのはからいで、現在はアンジェ様専属の侍女をさせていただきながら……アストレリアとガレンディアの王家のみが知る諜報員を任されております」


人に聞かれないよう小さい声でそう言うと、アンジェは瞳を閉じて驚く事もせず、自分達だけ知っていて知らない自分を笑っていたのかと叫ぶ事もせず、じっと呼吸する。動揺はしている、しかし何か悪い事をしているのかと言われるとそうではない為、自分の中で気持ちの整理をした。


こんな驚く事は前にも母の件で感じたじゃないかと言い聞かせた。


――アストレリアに戻ったのは報告をする為だったんだわ。タクティクスは、それの護衛に行っていたのに違いないわね。


胸に手を当てて、頭の中で整理がつき、翡翠の瞳が開かれた。


「つまり、王家同士で何か探っていると言う事ですか…?」

「然様でございます」


そういう事かと納得して、小さく頷いた。手紙には〝ナージェの素性を聞くといいでしょう。少しは気持ちが落ち着くかと思います〟とだけ簡易に書かれていた。


おそらく先程の手紙を書いたあとに、思い出したかのように追加で書いたのだろうと推測する。本当に女王は気まぐれな人だ。


「アストレリアではご存知かと思いますが、貴族の者がアンジェ様をアストレリアの王族代表として政略結婚に出す事を頑なに反対しておりました。そして先日のレガート宰相の件や、アンジェ様が気にされていたジャカルト帝国ですが、アストレリアの第二王女のアガーテ様が嫁がれた所なのですが、何やらアガーテ様は…少々皇帝の怒りを買ってしまわれたようで幽閉されております」


もとより評判の悪い王女と聞いていただけに、残念に思うアンジェだった。


そこで、タクティクスは右手を上げて「あの……」としげしげと発言権を求めるように声を出す。タクティクスに視線が注目すると、ぺこりと頭を軽く下げぽりぽりと頭をかいた。


「それで、あの…その国の者たちがなぜアンジェ様を狙ったり、ジャカルト帝国の皇帝が攫う必要があるんでしょう……?」


この話の流れでは、和平を結んだはずのジャカルトの皇帝がアストレリアとガレンディアの政略結婚を快く思っておらず、アンジェを攫ってジャカルト帝国へ連れて行くと言っていた事を推測すると、第二王女の粗相のせいで新たに王女を差し出せとでも言いたいのかと考えた。


アンジェは、悩ませた頭が更に悪化したように感じた。


「つまり、ジャカルトは第二王女の失態により政略結婚を無かった事にしたい、または新たに妻か妾が欲しいと考えているのかもしれないという事ですよ。アンジェ様をガレンディアから横取りしてやろうという魂胆でしょう」

「そのままアストレリアを取り込みたいのかもしれませんね……、アストレリアは飛び抜けて財力は豊富ですから…」

「あと、癒しの加護の備わった神がアストレリアだけですからね、貴重ではあると思いますし。帝国としても重宝する事間違いありませんから欲するのは理解出来ます」


なんて迷惑な帝国だろう、なんて言ったら一瞬で攻め込まれてしまいそうな為、嘘でも言わない。


アンジェとナージェの会話にタクティクスはようやくついてこれた様で、あぁと声をだして手をぽんと叩いた。


「つまり、アストレリア神の加護をもったアンジェ様はお若いし、容姿も性格も良いし、ついでにアストレリアの国をまるごと手に入れて帝国の手中におさめる為に、アンジェ様とレオン様の結婚を邪魔したい人間達を上手く言いくるめて利用して破綻させようとしているという事ですね!」


にこやかに恐ろしい推測をするタクティクスに、二人は面食らった状態になり。その後はぁっと溜め息を露骨に吐いてみせた。


彼はおそらく心臓に毛が生えているようだ。こんなにメンタルの強い騎士がアンジェの専属で本当に良かったと本人は思い知らされた。


「でもそれだと野党が私の体を襲ったり、レガート宰相が毒を盛ったりとジャカルトにとって不易に傾くような事を許しはしないと思うので、その矛盾さえはっきりすれば……」

「野党達の事情聴取では結局何も吐かずに始末されてしまいましたからね」


しばらく間が空いた。それは数分、数秒だったかもしれない。


タクティクスの何気ない最後の台詞に、アンジェの顔は青くなる。


ちらりとタクティクスの顔を見るとやはり悪気のない台詞なのだろうか、けろりとしている。


それにしてはとてつもない物騒な事を口走ったように思える。


――始末、つまりは王族を狙い誘拐をした罰を処刑という手を取ったのだろう。手放してしまえばまた狙われかねない。自分が二週間閉じ込められていたのはまさかそれを知られて止めに入られたりされては都合が悪いと判断されたのだろう。


「タクティクス、あまりアンジェ様の神経を逆なでるような発言は……」

「あ、申し訳ございません…。以後気をつけます…」


ナージェに強めに叱責されると、しゅんと犬が叱られたような顔で謝罪した。


素直過ぎるのだろうと思うとこれ以上何も言えなかった。


話を終え、タクティクスはアンジェの部屋の前で待機、その後すぐに戻ってきたコーティカルテとエシリアは林檎の紅茶と、林檎のフィナンシェを持ってきてくれた。


食欲が薄れていたアンジェでも林檎と言う物には目がない為、昼食よりは美味しく食べた。


ナージェの帰還に安心したからなのか、それとも少しは外の状況を把握できて胸のつっかえが取れたような感覚がして気分が少し晴れたのかは分からないが、その日の夕食はいつもどおりの量に戻してもらう事ができた。


厨房の物もさぞかし安心したことだろう。



◇◇◇

2019/05/11済

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