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――ここはアストレリア王国の女王の部屋。アンジェが出立して一週間と少しが経過し、ひと悶着あったが無事にガレンディアに到着し、正式な婚約者として今は王宮生活を始めたと報告が来た。


春も終わりに差し掛かり、窓を開けているとじめっとした風が入り込んでくる。


少しのそしてひとつ余分な報告書に目を通す。それは、拉致された事に関してアンジェが精神的に不安定かも知れない、という曖昧なもので、アンジェを溺愛するエリーゼを不愉快にするには十分すぎる物だった。


アストレリアの情勢は女王であるエリーゼが全て目を通す事になっており、ここの国王は病弱で外に出る事もままならない状態だ。


アンジェがひと月滞在している間も、一度も顔を合わせない程の重症っぷりに誰にも会えない事が誰でも理解できた。


「そう、誘拐されかけたのね…可哀想に、きっと怖くて震えているわね……あぁ、今すぐ会いに行ってあげたいわ」


報告書に確認の判を押して確認済みの書類箱へと入れて深い溜息を吐くと、控えていた侍女が紅茶を淹れる。ふんわりと漂う林檎の香りが部屋に充満し、瞳を閉じてアンジェを想う。


カップを手に取り、紅茶の香りを堪能しながら口へ運んだ。


「アンジェ様はおそらくそのような事では怯える心の弱さは持ち合わせていないように思いますが…」

「あら、アンジェも女の子なのよ?…まぁ、きっとファルティリ様が良くしてくださると思うけれど…。レオン様が問題よ…」


レオンのガレンディアに到着した際の、アンジェへ放った言葉も事細かに記された報告書を一度手放したにもかかわらず再び手に取り、机に肘をついて淑女らしかぬ格好で腑抜けた。


それを見なかった事にして、紅茶の入ったポットをワゴンに乗せる侍女は、ひと月アンジェの身の回りの手助けをしていたからこそそう言えたが、王妃に言われてしまうとそうかもしれないとアンジェの顔を思い浮かべた。


「そう言えば、報告書に拉致した者の目的が書かれていなかったわね。うちの可愛いアンジェが攫われたというのにこんなお座成りな報告書では満足できないわ」

「然様でございますわ王妃様。この際はっきりとさせる為にももう少し調べさせる必要がありますね」


ふんっと鼻息を荒くして、アンジェの為ならばと意気込むが、エリーゼは報告書にへばりついていた小さい紙を見つける。侍女に見つからぬようこっそりと隠して目を通すと、椅子をバタンと倒して立ち上がった。


「い、いかがされました?」

「貴族の者を集めてください。大至急です。これは王命です」


先程の間抜けな姿とは裏腹に、女王としての威厳のある表情に切り替えて侍女に指示すると、恭しく礼をして女官や侍従達へ言われた通りに行動をうつさせた。


誰もいなくなった部屋で、再び小さい紙をじっと見る。


「〝内部の裏切り行為に注意しせし〟…一体何が起きているというの……」


送られた報告書を箱に戻し、小さい紙は明かりに使われている蝋燭の火で灰にした。これは残っていると問題である。


「アンジェは……、ガレンディアの保護下でしっかり守っていただかないと…」


心の内に刻み込むように言葉にして、先程倒れた椅子を見ると侍女により元に戻されていた。席に着き、ガレンディアから戻ってきていた信頼すべき人物にアンジェへ手紙を預ける為に早急にしたためた。



◇◇◇

2019/05/11済

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