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タクティクスに呼ばれて廊下に出ると、部屋を出たすぐ先に、身だしなみを整えて正装をしたレオンがじっとこちらを睨むように見ていた。眉間には深く皺が寄っている。


そんなに遅くなってしまっただろうかと、ぺこりと頭を下げると、ずかずかとこちらに近寄ってくる。


流石に突然の事に恐怖して後ずさると、手を差し出された。


後ろではガレンディアの茶髪の侍女が笑いを堪えているのが分かる。


「早く行くぞ」

「は、はい」


慌てて差し出された手に自らの手を添えると、エスコートをしてくれようとしてたようだと安堵した。


ナージェは傍から見て、他の侍女や王妃のファルティリが言っていた事を思い出して漸くあぁっと納得して頷く。


そんなナージェをよそに、アンジェとレオンは謁見の間へ入ると、先程出て行ったばかりのファルティリはきちんとした装いで座っていた。一体あの短時間でどうやって着替えたのだろうなんて考えつつ、アンジェはレオンの手から離れ、アーサーとファルティリの前で膝をつき、レオンは横にはけた。


「改めまして。アストレリア王国第三王女の代行としてまいりました。アンジェ・リリィ・フォン・アストレリアと申します。国王陛下、王妃殿下にお会いできて光栄でございます」

「うん、綺麗になったね。乱暴にされて怖かっただろう」

「と、とんでもございません。レオン王太子殿下に助けていただきましたので…」


アーサーはうんうんと頷いたが、すぐに困った顔をした。それに気づいて、ファルティリは笑顔で持っていた扇子を広げてアーサーへと向けて静止する。その動作にアンジェはよくわからず次の言葉を待った。


「アンジェ王女、是非うちの愚弟の妻として迎え入れたい。君がそれでいいならこのまま政略結婚の話を進めたい。無理強いはするつもり無いから自分答えを聞かせて欲しい」

「勿論、そのつもりで参りましたので喜んでお受けいたします」

「では、正式なレオンの婚約者として、ガレンディアの第三王子の妻として、しばらくはしきたり等を学んでもらう。大変かもしれないけどめげずに励んで欲しい」


しっかりと頷いて見せて、アーサー達が退席すると、宰相がこちらを不服そうに睨みつけている事に気づく。アンジェはそれをみて、見なかった事にするべきか躊躇ったがじっと見つめ返す。


しばらく無言が続き、お腹の出た中年の宰相の男はアンジェの前まで歩みを進めると、レオンがそれを妨害するように前に立ちはだかる。周りもそれを見て騒然とする。


「それ以上近づくな」

「アンジェ王女殿下は平民育ちとお伺いしましたが、事実でしょうか?」


無礼な質問にもかかわらずアンジェは立ち上がり、レオンの横に並んで事実だと頷く。


ハンッとわざとらしく鼻で笑ってみせると、目の前の男は意地悪げな表情を見せて「これはいいシンデレラストーリーですな」と大声で笑いながら出て行った。


不愉快そうに眉間にシワを寄せたレオンは、アンジェの手を掴み強引に引いて謁見の間を後にする。アンジェの部屋に着くまでお互いに何も喋らず、無言ですたすたと歩いていると、護衛として控えていたタクティクスが後ろから小走りで追いかけてきた。


「どうかされましたか?アンジェ王女殿下の顔色が…」

宰相(ブタ)のレガートに嫌味を言われた。彼奴はあとで締めておく」

「ブタ…?」


レオンの暴言に驚いて返すタクティクス。


人に嫌悪感や嫌味をここまで露骨に言われたのは初めてだったアンジェは、心にある不愉快感を押さえ込み、握られたレオンの手の温もりを握り返す。タクティクスは、この短時間ですっかり仲良くなったなと嬉しくなり、にこやかに笑いながら「ひとまず、アンジェ様の部屋へ戻りましょう」と言われて部屋へ戻った。


部屋に入ると、、慌ただしく入って来たアンジェの顔色を見て驚いたナージェは用意されていたソファへ座らせ慌ててお茶を用意した。


ゆっくり目の前で入れられる紅茶の香りに少しずつ青ざめたアンジェの顔色が戻り始める。その様子に安堵するタクティクスとレオンだったが、レオンは隣に腰をかけ、ぎゅっと握ったままの手を離さないでいた。


「ガレンディアでは、平民育ちはそんなに悪評な事でしょうか」

「王族はそうでもないが、血筋にこだわる者はほかの国でもよくあるだろう」

「そう言われてしまえばそうですが…、どうしてレオン殿下がいるのにそんな事を仰ったのか…」

「……あいつにとってはアーサーが居ればいいと思っているからな」


タクティクスの問いにレオンが答える。そのやりとりにアンジェとナージェは今後の不安が募るのだった。


その後、レオンは騎士団に呼び出されて出て行ってしまい、タクティクスもガレンディアの騎士団に挨拶をする為に出て行った。


女二人になった部屋の中で、アンジェは装飾品を自ら外してテーブルへと置いた。


「アンジェ様、あまり気負いされませんよう…」

「もともと政略結婚なわけですから、多少何言われても大丈夫なようにしてきたつもりでした…」


がくっと項垂れ、その頼りない肩に励ますようにそっと手を添えるナージェは心配そうに見つめていた。


淹れられた紅茶を飲み、少し落ち着いたところで日が傾く頃に夕食を王族とともに摂ると聞かされ、気を緩めていた心を締め直し、今度こそみっともない所を見せるわけには行かないと立ち上がった。


「アンジェ様、コルセットを少し緩めましょう」

「…どうして?」

「心がおつらいでしょう。嫌な事が重なった時は締めすぎると余計につらくなってしまいます。少し緩めて気持ちを穏やかにしましょう」


ナージェの気遣いに少し甘え、周りにはわからない程度に少しだけ緩めてもらい、呼びに来た女官に伴われて食堂へと向かった。



◇◇◇

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