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城内へと案内され、アンジェの為にと用意された部屋へと連れて来られた。
「俺も着替えてくる、お前は侍女とこっちから用意させた侍女を使って身支度するがいい」
「あ、ありがとう…ございます」
言うだけ言ってレオンはさっさと部屋を出て行ってしまい、それに入れ替わるように侍女らしき女性が三人ほど入ってきた。
部屋に入ると調度品が揃えられており、無駄のない装飾が施されているが、壁紙が白という事もあり清潔そうに見える。
それがまるで、アストレリアの孤児院を思い出すような内装に少し懐かしさを感じた。気を遣って貰ったのだとすぐに理解した。
「するがいい…って」
呆れてじとりと出て行ったレオンを睨むように扉を見たあと、衣装部屋へと案内されたアンジェは何か言う訳でもなく羽織ったマントを外す。
そのナージェの反応をみてくすくすと笑うガレンディアの侍女達は、何着かドレスや装飾品を用意していた。
「勘違いされやすい方なんですよ、とくにレオン殿下は」
「勘違い?」
「女性と関わる事殆どありませんでしたから。アンジェ様と会えてよ程嬉しいのでしょう」
あれが?と言いたそうに目を見開くナージェに、侍女達は笑ってアンジェの姿を見た。
アンジェは未だに人に手伝われて着替える事に慣れているわけではないが、されるがままにじっとしていると、ふとボタンがちぎれたドレスの胸元をみて落胆した。
「このドレス綺麗だったのに…」
「その言葉を聞いただけで仕立て屋が喜んで卒倒しますね」
口数の少ないアンジェの言葉を余す事なく拾い返答するナージェ。
そうかしらと首を傾げていると、侍女達がどちらがいいかと差し向ける二着のドレスを見てうーんと悩む。
向けられたドレスは、レモンイエローの淡く綺麗な色と、淡いピンクの愛らしい装飾を施されている物の二種類だ。こういうおしゃれに関しては疎いアンジェはだいたい全て周りに任せてしまっていた為、今回は大事な日でもあるからこそ自力で選ぼうとじっと見た。
「…ピンクは幼い気がするから、レモンイエローにします」
「かしこまりました。……ふふっ」
突然侍女が笑い出し、おかしなセンスだったかときょとんとすると、侍女は申し訳ございませんと軽く礼をした。侍女の中ではひときわ美しい容姿をしている彼女は笑った時の顔もより一層美しく見え、一つにまとめられている髪は赤く炎のように見えどこかの令嬢なのだろうと解釈した。微笑ましげに弓状に細める瞳は装飾品の金のように見えた。
侍女の様子からして馬鹿にしたような感じではなかったから不快には感じなかったが、なぜ笑われたのかが気になった。
「アンジェ様がお選びになったドレスは、レオン様がお選びになったドレスです。ご趣味が合うのでしょうね」
またおかしく笑う侍女に、アンジェは先程まで自分を膝に乗せていたレオンの事を思い出して何故か顔が熱くなった。ドレスを着る前に濡れたタオルで体を拭き、汚れた部分を綺麗にしてもらう。髪も整えて着替えを済ませると、侍女達は感嘆を漏らした。
着替えている間も、胸がドキドキと激しい鼓動が早くなり、早くおさまれと深呼吸をする。
「装飾品はアンジェ様の好きな林檎のモチーフのネックレスにしましょう。少しは緊張が解れるかと」
ナージェの気遣いに感謝し、アストレリア王国でアストルフォから貰った林檎のモチーフの中に紅い宝石がはめ込まれている物を付けてもらった。ごてごてしないシンプルなその装飾品は、着飾るのが苦手なアンジェの好みに合わせた物だ。
「ありがとう」
簡単なお礼だが、十分に気持ちを込められた物だとナージェにもそれは伝わった。
すると「そうだ」と手を叩く侍女は、侍女の中の一人に耳打ちをして、こくりと頷いてその耳打ちされた侍女は慌ただしく出て行ってしまった。
「なにか急用ですか?」
「はい、とても大事な事です」
何か企んでいるような笑みをしながら答えると、アンジェの前へ立った。
「ふふっ、ごめんなさいね。アンジェ王女、私はアーサー国王陛下の妻、王妃のファルティリ・ガレンディアです。貴女がレオンの婚約者と聞いてどうしても早く会いたくて侍女に紛れ込んでいたのです」
「お、王妃殿下…!?」
突然の事にアンジェも一瞬頭が真っ白になり、すぐ我に返るとドレスの裾をつまみ上げて深々と礼をした。
「お姿を存じないとは言え、大変なご無礼をいたしました。アストレリア王国第三王女の代理、アンジェ・リリィ・フォン・アストレリアと申します…」
「うふふ、もうおかしいわ。本当は謁見まで黙っているつもりだったのよ、でも我慢できなかったの。皆さんも協力してくださったのにごめんなさいね」
面白おかしく笑うファルティリに、協力していたという侍女はもうこの人のいたずらには慣れたとでも言いたい気持ちをこらえてにこやかに笑う。
「さて、準備をしなくてはね。私は着替えてこなければいけないから先に失礼させていただくわ」
侍女に紛れていたファルティリは簡単に会釈だけして出て行った。嵐のような人だと見送り準備を済ませて衣装部屋を後にする。
「アンジェ様の髪は金色で愛らしいお顔をされているので、イエローのドレスと合わせるとまるで天使のようですね」
にこりと社交辞令とは違う羨むような声色で言うガレンディアの侍女は、栗色の長い髪を後ろに一つに纏め垂らされており、瞳も髪とお揃いの茶系の色をしていた。
そうかしらと姿見で自分の姿をまじまじと見る。しかし、よく見た顔を見ても天使かどうかはよくわからなかった。
久しぶりに、自分の顔を見て口角を上げてみる。しかし上手く笑えずしゅんと肩を落とした。
「練習したのにうまくいかないですね……」
「そういう事もありますよ。大丈夫です。自然と笑ったアンジェ様が一番いいのですから」
どうにかこれ以上落ち込まないようにナージェが励ますと、外で控えていたタクティクスがノックをして入ってきて「レオン様がお迎えにこられました」という言葉で靴を履き替えた。
◇◇◇
2019/05/11済




