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01



教会の隣に設立された比較的新しい見栄えの孤児院施設は、最近建て替えられ清潔感のある白が基調の壁と床、いくら孤児とはいえ今後彼らを社会に出す為には、まず健康で清潔的な衛生面を考慮した生活を送らせなければならない、そう言って現在の女王による命が下り建て替えを行わせたものだった。


おかげで子供達にも美意識が上がったのか、清掃への力も入る。


白い部屋にしたのは、白は汚れが目立つゆえに子供達が清掃をする際に適当な仕事をさせない為である。下手に汚すと跡が残り、彼らにとっても反省させられる機会を与える事もできる。女王は今後のアストレリア王国の為にも教育熱心なのだ。


シスター補佐のアンジェは、教会や施設の清掃は任されはしないものの、文字の読み書きやお使いで使うであろう数字の計算、そして常識程度の勉強、食材や消耗品のお使いで外の人間と関わる事の多い役割を任される。


そのおかげもあって、街の人間との顔見知りが増えて人見知りの彼女も人に対して容易に心を開くようになっていた。


「シスター・ナナリー、アンジェが買い物から戻りましたよ」

「おかえりなさいアンジェ!外は寒かったでしょう、――神の御加護で、かの者に温かなご慈悲を…」


施設の調理場に入ると、ナナリーと呼ばれた女性はこちらに気付いて濡れた手をエプロンで拭いながらパタパタと小走りで近寄り、目の前に着くなり、和かに微笑みながら、アンジェの両手を握り先程マザー・シスターが行った呪いを同じように唱える。


小さく手元がやんわりと光ると、二度目な事もありアンジェの体が先程より確実に温かみを増す。頬が林檎のように赤くなり、白い肌からはっきりと顔色が完全に良くなったのを確認して一層にこりと満足そうに笑った。


ナナリーの顔の右半分には、包帯で巻かれており左半分の顔で表情を読み取るが、明るい彼女の表情は包帯があってもすぐに分かる。


「ナナリー、ありがとうございます」

「良いのですよ。…そろそろ雪が降りそうですね」


お礼にナナリーは少し嬉しそうに笑うと、窓の外を見て先程まったく同じような事を思ったアンジェも少し口元を緩めた。


ナナリーは、アンジェがこの教会に来た同じ日に訪れたそうだ。どこか運命的な物を感じたらしく、アンジェに色んな話をしたり、文字の読み書きや計算、この国の事を教えてくれる姉のような母のような存在だ。


ここに来た時には、もう既に顔に火傷があったらしく、火傷の痕は残るものの、包帯を未だにつけているのは子供達に怖がらせないようにというナナリーなりの配慮だった。


「……私も癒やしの加護を授けてもらえるのでしょうか」

「あら、アンジェもアストレリアの加護を授かりたいの?」


ぽそりと聞えないような小さい声で言うと、ナナリーは聞こえていたようでお揃いのものを欲しがる子供を見るようにふふっと悪戯っぽく笑いながら問うと、それにこくりと頷いた。


「ナナリーやマザー・シスターのように、困った人をお助けしたいです」

「まぁ、とても良い心がけですね」


アンジェは普段から言葉が少ない為、考えている事がわからないとよく囁かれていた。そのせいも相まってか、自分のやりたい事を珍しく述べた事が嬉しく思うナナリーとマザー・シスターであった。



◇◇◇



この世界には、魔法と錬金術が存在し、錬金術とは言っても魔道具を制作する程度の力のみだ。先程マザー・シスターやナナリーがアンジェに行ったものは、神聖魔法という神の加護を得た人間が扱う事を許された魔法の一種だ。


神聖魔法を使う為には神の加護を受けなければならない。それはつまり、神の像、または神の代行者である者へ祈りを捧げ、神との契約を結んで加護を受けるというもので、主に回復や精神的な物を癒したり向上させたりする物が多く、傷付ける攻撃性のある物はない。


先程二人が使っていた魔法は、回復魔法で冷えた体を癒す目的で使用されたが、寒さで落ちた体力を一時的に向上させる物だ。つまり、代謝を上げただけの呪いだ。


しかし儀式には、相当の苦痛を強いられると言われており、このアストレリア王国でもマザー・シスターとナナリー、そして王族や、王宮に務める医療関連のみが使う事のできる程の物だった。


それに耐えられるかどうかもわからない幼いアンジェに、二人は儀式の内容を語る事を躊躇っていた。


そして結局「そのうちね」と親が子供に諭すように言って片付けられてしまうのだ。


「――では私が十五の成人を迎えたら、加護の儀式をして頂けますか?」

「えぇ、約束するわ。このナナリー、貴女を立派な神の使者に出来るように助力を尽くします」


「その代わり、これからもお勉強頑張りましょうね」とパチリとウインクを送るとアンジェは小さく頷いた。その瞳には顔には出ていないものの、希望と期待でキラキラと輝いているように見え、二人はお互いに目を合わせてから目の前の少女と約束の契りを小指で結んだ。


この時の幼いアンジェは、どんな儀式内容かわからず、己のやりたい気持ちが早ってしまい深く考えなかった。




◇◇◇

2019/05/09済

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