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アストレリア王国を出立して二日が経過した。


ガレンディア王国へ向けての道すがら通る村や街の宿屋に宿泊しながらの移動となり、二十人程の護衛兵士を伴い、馬車の中ではアンジェ、出立の日に任命された侍女のナージェ、そして内部の護衛として専属騎士のタクティクスも乗車した。


――ガタンッ


通りが多い安定した道なのか、森の中を走っていると荒く揺れる事もなくカタカタと規則的な音を立てて運ばれていた馬車が突然急停止した。


何事かとアンジェは咄嗟に外の状況を確認する為に、窓のカーテンを少しだけずらそうとするとナージェに手を掴まれた。


「……ナージェ?」

「アンジェ王女殿下、ただならぬ気配がします。カーテンを開けてはなりません」


手を放すと、アンジェを壁際に寄せて守るように覆いかぶさり、扉の方を見る。アンジェも覆われた横からちらりと外側を見た。


同席していたタクティクスが、愛用の剣の柄に手を添えて何が起きても構わないように気を張り詰めて扉を睨みつけている。


「野党でしょうか…」

「わからない、でも王女殿下を狙う者は必ずいるはずです。ナージェ、必ずアンジェ王女殿下を守るように」

「――わかっています」


二人のやり取りを聞いて不安げにナージェのお仕着せのドレスのスカートをきゅっと握り締める。微かに手が震えているが、それに気づいたのか、ナージェはアンジェの背に手を回しそっと抱き締める。


外から叫び声が聞こえ始め、タクティクスは扉の前で剣を抜いて構えた。


突然騒ぎが聞こえなくなり、しんと静まる。


「……タクティクス」

「少し様子を見てきます。くれぐれもナージェから離れないようにお願いします」

「は、はい…」


ドアをさっと開けて外を出ようとすると、向こうから手が伸び無理やり開かれてタクティクスの体が傾く。


「っ…!」

「王女をよこせ!」

「この…っ!無礼だぞ!」

「無礼なんて関係ねえ!さっさとそこの王女を連れて行くぞ!」


体勢を崩したタクティクスを強引に払いのけ、二人の男が馬車に無理やり乗り込んでナージェを引き剥がすとそのまま壁側へ突き飛ばす。


壁に打ち付けられたナージェはそのまま気絶してしまったのかぐったりとしてしまい、アンジェは彼女の名を呼びながら慌てて駆け寄ろうとするが、入って来た男に腕を強く掴まれて馬車から引っ張り出されそうになり、出来る限り抵抗をしようと手足をばたつかせる。


「やめてください…!」

「暴れるな!」


バシッと頬を叩かれ、勢いで殴られた為アンジェの口の中が切れて、口の中で鉄の味が広がる。


殴られた事のないアンジェはびくりと肩を震わせ恐怖に押し寄せられていると、観念したと解釈したのかそのまま力を抜き腕を引かれ馬車を出ると、外に居た護衛兵士は地に伏せられていた。いつの間に同行していたのか、はたまた巻き込まれた一般人なのかフードを被った体格的に男であろう二人も倒れていた。


馬車の入り口付近には、押しのけられたタクティクスは野党の一人に組み敷かれて押さえつけられている。


「王女殿下を離せ!お前たちのような下賎な者が触れていいお人ではないぞ!」

「にーちゃん威勢はいいが俺たちだって頼まれた依頼人の為だからな、まあ許せや」


リーダー格の無精ひげの男はひと目で悪者だと理解できる風貌でにやりと笑い、アンジェを小脇に抱えて乗ってきたのであろう馬に乗ってその場を離れる。


「タクティクス!私は大丈夫です…!アストレリアとガレンディアの方々へ報告を…!」

「王女殿下ぁ!」


攫われる最中、意識を取り戻したであろうナージェが馬車から飛び出してくるのが見え、アンジェは泣きたい気持ちを堪えて口角を上げてみせる。


先程倒れていたフードの二人もむくりと起き上がる姿が見えて安堵した。


「それ以上喋ると舌を噛むぞ王女サマ!」

「……っ」


髭男に言われて一理あると仕方なくぐっと口を閉じる。


これからどこに連れて行かれるんだろうかという不安と政略結婚が失敗してしまえばまた両国の不穏な状況が続いてしまうという焦燥感を胸に、されるがまま大人しくした。



◇◇◇

2019/05/11済

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