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アストレリア王国の王宮で生活を始めて気が付くと、半月も経過していた。


ガレンディアから、早い回答が来てから半月もここに居るのには訳があった。


まず一つは、アンジェの表情だ。以前から表情の変動が少ない事が薄々問題になっていたが、政略結婚でしかも嫁ぎ先はあの敵国ガレンディアだ。


素行の悪い第二王女をひと目見て突き返してしまう程の国だからこそ、長年休戦が続いた後ろめたさもあり、アンジェには愛想よくしてもらわなければならなかった。


アンジェ自身は、素行は悪くないしむしろ聞き上手だ。教養も動作も気品を持っている。が、表情と感情があまりにも薄く表現するには乏しすぎる為、コミュニケーションをする際の事を考えると、流石のエリーゼもガレンディア王国に「平民育ちだった事もあり再教育する為待ってほしい」とひと月の猶予をもらって表情の特訓をせざるを得ないと判断した。


そして二つは、その努力と心労がたたってしまい、アンジェは一週間熱を出して寝込んでしまったのだ。


「そうよね、アンジェの持ち味があるもの。もし駄目だったら戻ってくればいいのよ。ごめんなさいね」


熱にうかされるアンジェの汗ばんだ額に手を添えると、ひんやりとした感覚に少し息苦しさも緩和する。


「エリーゼ様は、お優しい方です…」

「そうかしら?」

「手の冷たい方は、心の温かい方だとマザー・シスターに……聞いた事があります」


なるほど、と自分の手元を見て頷いた。どうやら過去に言われた事があるのだろうか、何か思い出すかのように眺めた。


ハンナに看病され、薬を飲まされた時ばかりは流石のアンジェの愛らしい顔が歪んだ。


「アンジェの好きなものを用意させるわ、何か食べたい物を教えてちょうだい」

「ご迷惑おかけしているのに…」

「いいのよ、私達の都合に巻き込ませてしまっているのだからこれくらいはしないといけないわ」


ねっ、とハンナと目を合わせるエリーゼは本当に三十五を超えたこの国の女王なのだろうかと思う程に無邪気だ。


街では美魔女と呼ばれる程の美しさと言われていたが、それは間違いないと思った。


「ほら、早く」

「…では、林檎が食べたいです…」

「アンジェは本当に林檎が好きね」


ここに来て食べたい物は何かないかと言われる度に林檎を要求した。それのせいで、林檎中毒とまで言われる程に認知され、喋るのも本当はつらいアンジェはこくりと小さく頷き、エリーゼはハンナに目配せで指示すると早速と出ていった。


「アンジェ、こんな時に聞くのもおかしな話なのだけれど、本当の事を教えて欲しいのよ。ナナリアは…貴女のお母様は――」

「――母は、アストレリア王国に居ます。今は結婚して…教会で暮らしながら幸せにしています…」


だからあまり探さないでください。そう付け加えて言うと、キツ目の瞳から涙が零れ落ちた。


実の妹の所在が分かっただけでも、さらに、自分の手中の国の中で健やかに生活している事を知ってホッとしたのだろう。


さぞ心配しただろう、血の繋がった、王家の決まりごとに縛られ辛い思いをしただろう妹が生きているだけで儲け物だった。


「私が何かはからいをしたら、迷惑がるかしら…」

「…いいえ、伯母様。きっと母は泣いて喜ぶと思います」


そう答えると、また涙を流してしっかりと頷いた。


アンジェはその後、エリーゼに優しく頭を撫でられ安らぎを得てそのまま眠りに落ちた。


その日、アンジェは熱がまた上がり、深夜になって一度目を覚ましたが、ぼんやりした意識の中、誰かに髪や頭を撫でられ、エリーゼがまた見舞いに来たのかと思いながら、朦朧とする意識の中で諦めるように思考停止させて意識を手放した。


――大きくて優しい手…、お父様…?ちがう…誰…?


翌日にはすっかり熱が下がり、様子を見に来たエリーゼに、夜中に様子を見に来たかと尋ねると首を横に振り否定し、他の人間に聞いても誰も来ていないと返答が来た。


夢の中で見た事を勘違いしたのかと不思議そうに首を傾げ、考えてもわからない事は仕方ないとその場はひとまずそういう事になった。


後日、教会にはエリーゼから「アンジェの母親は結婚しているはず。教会に住んでいると聞いている、今すぐ教会から追い出し、結婚相手と不自由なく暮らさせるように」という優しい王命を出され、ナナリアはシスターを辞め、騎士団長の妻として新たに生活を始めたという連絡がさり気なく入った。



◇◇◇

2019/05/11済

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